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高病原性鳥インフルエンザ
新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染―世界の状況:更新情報 2009年5月6日
MMWR Vol. 58 No. 17(2009年5月8日号) CDC(原文
  2009年4月中旬以来、CDC、アメリカ合衆国の州と地域の保健機関、WHO、および数カ国の保健省が、新規インフルエンザA (H1N1) ウイルスによるインフルエンザのアウトブレイクに対処してきた [1]。2009年3月と4月初めにメキシコで呼吸器疾患のアウトブレイクが発生し、その後CDCとカナダで新型ウイルスによるものであることが確認された。アメリカ合衆国の患者で確認されたインフルエンザ株はメキシコの患者から分離されたウイルスと類似していた [2]。新型インフルエンザA (H1N1) ウイルスがメキシコおよびアメリカ合衆国で認められてから、5月6日現在までに、さらに計21カ国から患者の報告があり、世界中で計1,882の症例が確認されている。WHO加盟の数カ国によってこの世界的アウトブレイクの調査が進行中であり、WHOはサーベイランスデータと症例報告を監視しまとめている。4月29日には、WHOはパンデミックアラートのレベルをフェーズ4からフェーズ5に引き上げたが、これは一つのWHO領域の少なくとも2カ国でウイルスのヒトーヒト感染が拡大していることを示している。このレポートはインフルエンザA (H1N1) ウイルスの初期調査、世界的拡散に関する最新情報を提供する。

メキシコ

  4月17日に監視を強化して以来、疑いのある症例、それと共に重篤な急性呼吸器疾患による入院は急激に増加した(図1)。疑い例を「発熱および、咳または喉の痛み」、検査確認症例を「リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(rRT-PCR)もしくはウイルス培養陽性」と定義すると、5月5日現在、メキシコでは新型インフルエンザA (H1N1)ウイルス感染の疑い例が11,932例あり、949例の検査確認症例があり、そのうち42名が死亡した。メキシコの31州・連邦区のうち27において検査確認感染例が見つかっている。メキシコとアメリカ合衆国の確認感染例の年齢分布はよく似ている(表)。死者7人を含む入院した22人の検査確認症例において、疾患の臨床経過の情報が得られている。生存している15人のうちの5人と、死亡した7人のうちの1人は慢性的な基礎疾患があった。これらの患者、並びに他の患者の臨床的徴候、症状のさらなる詳細は現在情報収集中である。確認例で情報が得られた患者のうち、57例中56例(98%)で発熱、52例中49例(94%)で咳、29例中23例(79%)で呼吸困難、44例中35例(80%)で頭痛、41例中34例(83%)で鼻漏が報告されている。メキシコ政府は感染の拡がりを遅らせ、死亡率を低下させるためにいくつかの手段をとっている。すべての学校は閉鎖され、大きな公的集会は禁止、すべての医療施設へオセタミビルが配布され、特定の臨床ガイドラインを発行し、健康管理情報を求める一般の人たちに情報を提供するコールセンターを設立した。
図1. 新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染の確定症例(822例)および疑い症例(11,356例)の数、発症日別:メキシコ、2009年3月11日〜5月3日
アメリカ合衆国

  新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスの最初の感染症例が認められた後、CDCと各州保健所はさらなる感染例を確認するための強化サーベイランスを開始した。5月6日現在、642の確認症例(confirmed case*)(41州から報告)と845の疑いが濃厚な症例(probable case*)(42州から報告)、合わせて43州から1,487症例が報告された。現在のところ、疑いが濃厚な症例が、検査室検査で陽性となる確率は99%を超えている。確認症例の多い州はイリノイ(122例)、ニューヨーク(97)、カリフォルニア(67)、テキサス(61)、およびアリゾナ(48)である。確認もしくは疑いが濃厚な患者の発症日は3月28日から5月4日に及ぶが(図2)、最新の例では検査や報告の遅れを考慮していない。検査で確認された人たちの中で、16の州から35人の入院が報告されている。そのうち基礎疾患のあったテキサスの2人が死亡している。確認された患者の年齢は3ヶ月から81歳にわたる(表)。2歳未満が計18人、31人が2-4歳であった。

  35人の検査確定入院患者の年齢は6ヶ月から53歳(中央値:15歳)に分布している。データが得られている確認された患者からは、292例中262例(90%)で発熱、296例中249例(84%)で咳、290例中176例(61%)でのどの痛み、249例中65例(26%)で下痢、221例中54例(24%)で嘔吐が報告されている。

(*症例定義はhttp://www.cdc.gov/h1n1flu/casedef.htmを参照)
表. 新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染の確定症例の数と割合、患者の年齢群および入院・非入院別:アメリカ合衆国とメキシコ、2009年3月1日〜5月5日

図2. 新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染の確認症例(394例)および疑いが濃厚な症例(414例)の数、判明している発症日別:アメリカ合衆国、2009年3月28日〜5月4日

642例の確認症例および845例の疑いが濃厚な症例のうち、それぞれ394例と414例に関して発症日が判明している。データはCDCにより2009年5月6日に報告されている。症例定義はhttp://www.cdc.gov/h1n1flu/casedef.htmを参照)

その他の国々

  4月26日にカナダで、アメリカ合衆国およびメキシコ以外では初めて新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスの感染例が報告された。5月6日現在、WHOは、アメリカ合衆国およびメキシコ以外の21カ国で309人の患者が検査で確認されたと報告している。確認症例はアジア(香港特別行政区、大韓民国)、太平洋地域(ニュージーランド)、中東(イスラエル)、ヨーロッパ、中南米(エルサルバドル、コスタリカ、コロンビア、グアテマラ)から報告されている(図3)。

  旅行歴が確認できた178人の患者のうち、145人(82%)が最近メキシコへ、4人(2%)が最近アメリカ合衆国へ旅行したと報告している。メキシコに行っていない患者のうち17人(52%)はメキシコ旅行から帰った人と接触したことを報告している。カナダ、ドイツ、スペイン、英国からは、国内において、第二段階のヒトーヒト感染伝播(例えば、感染が確認された患者のケアをしていたドイツの医療従事者)が起きたことが報告されている。しかし、地域にひろがる持続的な感染伝播は、どこの国からも報告されていない。北アメリカの症例と同様、他の国々から報告されている症例の多くは若い成人で、中央値は27.1歳(範囲:2-62歳、N = 45)である。他の国々の大部分の症例は、合併症を伴わず、死亡例も報告されていない。4人が入院している。
(詳細はhttp://www.who.int/csr/don/2009_05_06にある)

3. 新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染の確認症例(1882例):全世界、2009年5月6日

WHOによって2009年5月6日に報告されたデータ)

  以上は、General Directorate of Epidemiology, Ministry of Health, Mexico; Pan American Health Organization; World Health Organization; Public Health Agency of Canada; Influenza Div, National Center for Immunization and Respiratory Diseases, CDC Influenza Emergency Response Team, CDCによる報告である。

編集部のコメント:このアウトブレイクに関する初期のサーベイランスのデータは、この新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスが、複数の国々へ迅速に、また効率よく拡大しうる潜在的な能力があることを示していた。感染者の症状は一般的には自然治癒傾向にあり合併症もないように診られたが、これまで相当な数の重症例および死亡例が、以前は健康であった若者や子供で報告されている。本新型インフルエンザのアウトブレイクでは、典型的なインフルエンザの季節性アウトブレイクと比較して、異常ともいえるいくつかの特徴が見受けられる。第一に、入院加療が必要な患者の割合が、通常のインフルエンザシーズンから予想された割合より高いように見えることがあげられる[3]。第二に、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染による入院患者の年齢分布は、季節性インフルエンザ感染によるものとは異なっていることである。通常の季節性インフルエンザ感染による入院患者は、2歳未満の幼児、65歳以上の高齢者、または慢性疾患を持つ人に多い[3]。一方で、メキシコおよびアメリカでは、入院加療が必要な患者の年齢層は30-44歳で特に高くなっている。

  2例の死亡例が米国で報告され、その結果、検査確定された患者における暫定的な死亡率は0.2%になった。しかしながら、この死亡率については注意が必要である。急速に進行するアウトブレイクでは、実際の死亡率を確定させることは困難である、なぜなら最近感染した患者のどれだけの割合が死亡しているかが不明であり、報告されていない症例があるために分母(感染者数)が不確実であるかもしれないし、さらに、季節性のインフルエンザによる死亡のハイリスク集団(高齢者、慢性疾患の患者等)がまだ新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスに曝露していないだけかもしれないからである。

  温帯地方での夏期のインフルエンザのアウトブレイクは、刑務所、ナーシングホーム、クルーズ船といった閉鎖的コミュニティ、および濃厚な接触機会があるその他の集団で見受けられる[4-8]。このようなアウトブレイクは通常、地域社会全体へ拡大することはない。しかしながらこれらは、次のインフルエンザシーズンに広まりやすいウイルスの重要な指標となり得る[8]。新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスは、インフルエンザ流行期のピークの後、北米で拡大している。以上のことから、今後やってくる南半球でのインフルエンザ流行期、北半球での流行期の疫学、重症度等については全く予見できない。インフルエンザウイルス伝播のシーズンの始まりが迫っている南半球では、いくつかの国々で確定例が検出されていることからも、今後数ヶ月間、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスの広がりによる大規模なアウトブレイクが懸念される。インフルエンザシーズンに突入した南半球の国々では、アウトブレイクを予期すべきであり、それに沿ったサーベイランスの充実を計るべきであろう。熱帯地方では、インフルエンザウイルスは通年流行している。従って、熱帯地域の国々では、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスに対するサーベイランスを強化すべきであろう。

  新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスによる影響を受けた国での研究は、まだ侵入を受けていない国々におけるサーベイランス、症例の管理、予防戦略に生かされるべきである。これらの研究にて記述されるべき要点には、公衆衛生上の潜在的影響の評価、異なる年齢層やリスク集団における合併症の率や種類を含む疾患の臨床的進行様式、ウイルスの伝播性に関する情報などがある。

  この新型ウイルスによる潜在的な疾患の重症度の評価は、感染拡大を減速させるための予防手段を決定する場合の一助となるであろう。効果的制御方策は、新規患者が発生するごとに複数の情報源からのウイルス学、疫学、臨床医学的な情報を迅速に収集し共有するといった、政府機関の能力に依存するだろう。

参照文献
1. CDC. Swine influenza A (H1N1) infection in two children-southern California, March-April 2009. MMWR 2009;58:400-2.

2. CDC. Outbreak of swine-origin influenza A (H1N1) virus infection-Mexico, March-April 2009. MMWR 2009;58:463-6.

3. Thompson WW, Shay DK, Weintraub E, Brammer L. Influenza-associated hospitalizations in the United States. JAMA 2004;292:1333-40.

4. Uyeki, TM, Zane SB, Bodnar UR, et al. Large summertime influenza A outbreak among tourists in Alaska and the Yukon Territory. Clin Infect Dis 2003;36:1095-102.

5. Miller JM, Tam TW, Maloney S, et al. Cruise ships: high risk passengers and the global spread of new influenza viruses. Clin Infect Dis 2000;31:433-8.

6. Kohn MA, Farley TA, Sundin D, Tapia R, McFarland LM, Arden NH. Three summertime outbreaks of influenza type A. J Infect Dis 1995;172:246-9.

7. Gaillat J, Dennetiere G, Raffin-Bru E, Valette M, Blanc MC. Summer influenza outbreak in a home for the elderly: application of preventive measures. J Hosp Infect 2008;70:272-7.

8. Young LC, Dwyer DE, Harris M, Guse Z, Noel V, Levy MH; Prison Influenza Outbreak Investigation Team. Summer outbreak of respiratory disease in an Australian prison due to an influenza A/Fujian/411/2002(H3N2)-like virus. Epidemiol Infect 2005;133:107-12.
(2009/5/9 IDSC 更新)
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