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ブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染アウトブレイク-メキシコ 2009年3-4月

      MMWR Disapch Vol. 58/ 2009年4月30日 CDC(原文


3月から4月上旬にかけて、メキシコで呼吸器疾患のアウトブレイクがあり、国内数カ所においてインフルエンザ様疾患(ILI)の報告が増加した。4月12日、疫学総局長(DGE)がILIのアウトブイレクがVeracruz州の小区域でおきていることを汎アメリカ保健機関(PAHO)に報告した。これは国際保健規則に基づくものである。4月17日、Oaxaca州における非定型肺炎の症例が発生し、メキシコ全体でのサーベイランスの段階を引き上げるに至った。4月23日、数例の重症呼吸器疾患症例で、ブタ由来のインフルエンザA(H1N1)ウイルス(S-OIV)感染が確認され、これはPAHOにも報告された。シークエンス分析により、患者はカリフォルニアに住む二人の小児から同定されたものと同一のS-OIV株に感染している事が分かった(1)。本報告は初期から現在に至るまで継続しているメキシコにおけるS-OIVアウトブレイク調査に関するものである。

サーベイランスの強化

4月17日、呼吸器疾患報告の増加に呼応して、DGEはインフルエンザ監視団体や病院に全国的に警告を発した(表1)。警告では、病院は重症呼吸器疾患を全例報告するよう求め、呼吸器検体を発症から72時間以内に採取するよう推奨していた。4月18日、DGEのスタッフは全国21病院を訪問し、明らかな疾患の増加を確認した。
S-OIVは4月23日に検査室で確認され、DGEは症例定義を定めた。疑い症例(suspected case)は発熱、咳、呼吸困難を伴う重症呼吸器疾患と定義された。可能性症例(probable case)は疑い症例から採取された検体がインフルエンザA型陽性を定義した。確定症例(confirmed case)は可能性症例で、リアルタイム逆転写PCR(リアルタイムRT-PCR)によってS-OIV陽性を定義した。保健当局は3月1日以降に通院し、症例定義に一致した発症者に接触し、現在と過去の状況を尋ねた。
3月1日から4月30日までに、合計1918例の疑い症例(註1)が報告され、そのうち286例が可能性症例で、97例は確定症例であった(図1)。合計84例の死亡例が報告された。症例報告の多くは入院患者で、病院で実施しているサーベイランスに集中していることを反映していた。しかし、DGEはILI患者の季節性インフルエンザのルーチンサーベイランスの部署からの報告も受けていた。疑い症例および可能性症例の1069例に関する情報のうち、755例は入院患者で、残りの314例は外来あるいは救急部にて検査が行われた。疑い症例、可能性症例は全31州とメキシコの連邦区から報告された。そのうち、症例数の多い順にメキシコ連邦区(213例)、Guanajuato(141例)、Aguascalientes(93例)、Durango(77例)の4地域であった。他の州では、疑い症例または可能性症例の範囲は2例から46例であった。疑い症例および可能性症例は全年齢階級で見られた。メキシコは、国内全体に外来施設のネットワークで季節性インフルエンザの監視を定期的に行っている。6州から51例のインフルエンザA型陽性検体は1月4日から3月11日の間にサーベイランスネットワークから収集された。全ての検体はCDCでおこなわれた検査でS-OIV陰性であった。

S-OIV感染の確定症例

4月30日までに、DGEサーベイランス活動では、重症呼吸器疾患に注目し、検査室診断で97例うち7例が死亡をS-OIV感染と確定した。97例のうち、最初の症例の発症は3月17日と報告され、もっとも直近の患者は発症が4月26日と報告された。97例のうち最近の73例のうちの多くのS-OIV検査室での確認は4月29日夕方に報告された。これら73例の追加情報は収集中である。24例のうち地理的および臨床的情報に関して可能な事項は20例(83%)が入院患者で、3例は外来で検査され、1例は医療機関受診していなかった。患者の年齢範囲は1歳未満から59歳で、79%は5歳から59歳であった(表2)。S-OIV感染を確認した患者は4州で見つかった:連邦区(15例)、Mexico州(7例)、Veracruz州(1例)、Oaxaca州(1例)であった。死亡7例のうち、6例が連邦区で発生し、1例がOaxaca州であった。
完全な診療録がある16例の間で、15例で熱、13例で咳、10例で頻呼吸、9例で呼吸困難を報告した。これらに加えて、16例のうち7例で嘔吐または下痢のいずれかを報告した。この7例のうち、2例が嘔吐のみ、2例が下痢のみ、3例が両方の症状を報告した。16例のうち8例は集中治療室(ICU)に入院し、そのうち7例は人工呼吸器装着を必要とし、6例は急性呼吸促迫症候群(ARDS)を発症した後に死亡した。15例のうち12例ではレントゲン写真があり、肺炎を認めた。16例のうち3例では基礎疾患があった。死亡前の入院期間の情報収集は6例で可能であり、範囲が1-18日(中央値:9日)であった。

予防と管理法

4月24日に、公衆衛生評議会はメキシコ共和国大統領と会合を開き、連邦区とMexico市の首都全域の学校閉鎖をした。往来する航空機の乗客にはアウトブレイクの情報を提供し、インフルエンザ様症状(ILI)を呈したらすぐに受診することが望ましいことを推奨した。その他対策は1)マスメディアを介した呼吸器の衛生(咳エチケット)に関する教育的メッセージの流布、2)国民へマスクおよびアルコール手指消毒剤の配布、3)教会の礼拝、劇場でのイベントおよびサッカー観戦などを含む集会を避けることを推奨するなどが含まれた。4月25日に、国内法令は疑い症例の自宅隔離を許可し、休校は国内全土で義務化された。

表1. ブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルス(S-OIV)感染のアウトブレイクに対する探知と対応における重要事象のタイムライン-メキシコ、2009年4月12日-30日

日付

事象

4月12日

汎アメリカ保健機関(PAHO)へ呼吸器疾患のアウトブレイク報告

4月17日

非定形肺炎の1例が強化サーベイランスの警戒態勢をもたらす

4月17日-22日

呼吸器疾患の実地調査開始

4月23日

カナダの公衆衛生当局がS-OIV感染症例を確定

4月23日

S-OIV疾患のクラスターをPAHOに対し報告

4月24日

保健当局が全空港の搭乗者に関して公衆衛生対策および季節性インフルエンザワクチンを医療従事者に実施

4月25日

国内法令疑い症例の家庭での隔離を許可

4月26日

国立研究所のS-OIV感染診断能力をメキシコで開設


表2. 年齢階級別、ブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルス(S-OIV)に感染を検査室で確認した症例数及び死亡例数-Mexico、2009年4月1日-27日

年齢階級

症例数

死亡

5歳未満

5

0

5–19歳

4

2

20–39歳

9

3

40–59歳

6

2

60歳以上

0

0

合計

24

7


図. 発症日別、ブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルス(S-OIV)感染確定症例数(N=97)および可能性症例数(N=260)-Mexico、2009年3月15日-4月26日



報告:Mexico保健省疫学総局長;汎アメリカ保健機関;国際保健機関;カナダ公衆衛生局;CDC(アメリカ合衆国)


編集記:Mexicoにおける最近のS-OIV感染の症例の疫学的および臨床的分析結果の理解は、S-OIV感染の出現に対する地域、国及び国際的な制御対策の手助けとなるものである。世界規模の調査に関する重要な分野には、ヒトからヒトへの感染の根拠、疾患の地理的分布、疾患の臨床像、および緩和戦略の有効性などがある。

過去の他のブタウイルスの人から人への感染例は疾病の小規模なクラスターで、疾患の伝播の世代が限られていたことが報告されている(2,3)。いくつかの研究結果はメキシコでの感染が複数世代間にまたがるひとからヒトへの広がりを含んでいることを示唆している。可能性症例および検査室で確定診断症例は4週間を超えて発生している。検査室で確定した症例のコンタクトトレーシングはILIの2次感染症例も発見した。

S-OIV疾患の臨床像はMexicoでまだよく特徴づけられていない。しかしながら、得られた証拠によると、S-OIV感染伝播は広範囲にわたっているが、重篤な疾患でない(合併症のない)状況が一般的であることが示唆される。疾患が確定された症例はいくつかの州で確認され、疑い症例は全州で確認され、S-OIVの感染は広域に広がっていることが示唆されている。さらに、数カ国は発症前7日間にMexicoの様々な地域への渡航歴があるヒトの間でS-OIV感染を報告している。これまでにMexicoで症例の発見は病院へ受診する人に焦点を当てており、検査室診断の症例選択はかなり重症な症例に絞っている。従って、疾患が検出されていない症例の大多数はプライマリケアの段階で受診するか全く医療機関に受診しない人がいるであろう。追加調査はMexicoで疾患の十分な臨床像、重篤な疾患にかかった症例の割合、および疾患の感染が及ぶ範囲を緊急的に評価する必要がある。

追加患者での疾患の迅速な確認のため、Georgia州Atlantaの世界保健機関(WHO)インフルエンザ共同研究センターはCaliforniaの症例から得られたS-OIVの遺伝子配列をGenBankに登録した(註2)。S-OIVに特異的なプライマーは作成され、WHOの世界的なインフルエンザサーベイランスネットワークのリファレンス研究所を通して世界中に配布されるであろう。4月26日現在、Mexicoの国立公衆衛生研究所はS-OIVのPCR検査が実行できる状況にある。

このアウトブレイクの疫学的特徴は、一般市中の流行緩和措置の効果、非薬物的介入、およびパンデミックの可能性を予測した臨床管理の実践をモニタリングすることの重要性を強調する。

文献

1.        CDC. Swine influenza A (H1N1) infection in two children— Southern California, March–April 2009. MMWR 2009;58:400–2.

2.        Wells DL, Hopfensperger DJ, Arden NH, et al. Swine influenza virus infections. Transmission from ill pigs to humans at a Wisconsin agricul¬tural fair and subsequent probable person-to-person transmission. JAMA 1991;265:478–81.

3.        Myers KP, Olsen CW, Gray GC. Cases of swine influenza in humans: a review of the literature. Clin Infect Dis 2007;44:1084–8.


―――
註1 疑い症例数は可能性症例286例および可能性症例97例を含んでいる。4月17日のアラート後は、季節性インフルエンザサーベイランスネットワークからのILI症例の報告も疑い症例として分類された。

註2 閲覧可能なサイト http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genomes/FLU/SwineFlu.html

(翻訳協力:神戸大学医学研究科感染治療学分野 岩田健太郎教授)



(2009/5/5 IDSC 更新)
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