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パンデミック(H1N1)2009



パンデミックインフルエンザに対する専門家会議を用いたWHOの対応
パンデミック(H1N1)2009-briefing note その19
原文

2009年12月3日 ジュネーブ

WHOは、複数のメディアがWHOの専門家諮問会議の委員と製薬会社の癒着が国家政策、特にパンデミックインフルエンザに関する政策の判断に影響を与えるのではないかと報道していることを認識している。

WHOはこれまでにも、道理にかなった理由で製薬会社と協力してきた。それは質が高く、入手可能な医療、ワクチン、診断法へのよりよいアクセスを実践し、人々の健康を改善する努力であった。抗ウイルス薬、ワクチン、診断検査はパンデミックインフルエンザの被害軽減に一役担うと考えられている。つまり公衆衛生的な目的を達成する上で、製薬会社は非常に重要な立場にあり、従ってWHOは彼らと協力してきた。

利益相反:適切な発生予防体制

WHOのような規範的な保健機関と、利益を追求する企業の間のいろいろな関係には、基本的に利益相反は内在しているものである。これは機関へ助言を行う専門家について製薬企業との専門的な職業的な関係があることを考える上でも同様のことが言える。このため、多数の発生予防体制が利益の相反の管理やその認知のために設置されているのである。

WHOに助言を行なう外部専門家は、助言の公平性を保てるように、職業上あるいは予算上の利益について詳細を公表することが必須化されている。利益相反の可能性を発見、調査、分析し、それらを公表し、当該の専門家を会議のメンバーからはずすなどの正しい対応を行なう仕組みは既に存在する。

国際保健規則(IHR)

パンデミックインフルエンザは2005年に加盟国により承認され、2007年に施行された改正国際保健規則(International Health Regulation:以下IHR)が正しく機能するか確認する初めての大きな機会であった。規則は今回のパンデミックH1N1ウイルスがもたらしたような、国際的健康危機事例への対応を調整する上で順序や秩序を提供している。

国際的な疾患の拡大から人々を守ることに加え、IHRは国際旅行や国際的な貿易への不必要な干渉を避ける内容も含まれている。

改訂されたIHRでは、国際的な公衆衛生の緊急事態宣言、パンデミックH1N1ウイルスの国際的な広がりに伴うフェーズの変更、旅行や貿易の一時停止といったパンデミックインフルエンザに対する拡大防止対策の導入などについて緊急委員会がWHO事務総長に助言することを規定している。最終判断は委員会の助言をもとにWHO事務総長が行なう。

緊急委員会のメンバーは、秘密厳守の同意書にサインをし、利害関係を申告し、謝金なしでいつでも相談の時間を取れる、という条件に同意しなくてはならない。委員会のメンバーはおおよそ160名の公衆衛生分野の専門家の候補者の中から選ばれる。委員の業務の枠組みはIHRに記載されている。IHRに加盟している国は、候補者を一人推薦する権利があり、追加すべき専門家はWHO事務総長が指名する。緊急委員会勧告はすぐにWHOのウェブサイトに事務総長による裁決と共に直ちに掲載される。

専門家によるワクチンに関する戦略的諮問会議(Strategic Advisory Group of Experts)

パンデミックに対応するため、WHOはワクチンの使用に関して助言を行っている既存の専門家会議であるワクチンに関する諮問会議(Strategic Advisory Group of Experts; 以下SAGE) にも助言を求めた。SAGEのメンバーも同様に製薬会社からの研究費やコンサルト料、他の形式の製薬会社との職業的系約を含めた職業的予算的利害関係を申告することが義務付けられている。SAGEのメンバーやワーキンググループ参加者の名前と所属は、メンバーの利害関係の申告や会議録と共にWHOのウェブサイトに記載される。

WHOは利害相反の申告漏れを非常に重く捉えており、そのようなことがあった場合直ちに調査を行なう。

批判:理解はできるが根拠に乏しい

現在のH1N1パンデミックインフルエンザに対する一般市民の認知度、及び国家のパンデミック対応計画は、より病原性の強く、次のパンデミックインフルエンザになると考えられていたH5N1トリインフルエンザウイルスに対する過去5年間の強い関心が大きく影響している。感染した人の60%以上が亡くなるこのウイルスは、明らかに、そして幸運にも現在流行しているパンデミックウイルスとは異なる。

一般市民に病原性の弱いウイルスへの正しい知識を理解してもらうことは困難を伴った。予想された状況と実情との不一致を考えると、WHOとその科学的アドバイザーの一部に隠れた(不純な)動機があるのではないかと探すことは理解できるが、正当化されるものではない。

WHOは当初から継続して今回のパンデミックインフルエンザのインパクトを中等度と評価してきた。WHOは医療関係者、一般市民、そしてメディアに今回のパンデミックインフルエンザウイルス感染者のほとんどは軽いインフルエンザ様症状を呈するだけで、たとえなんら医療を受けずとも1週間以内に回復すると繰り返し伝えてきた。WHOは旅行や貿易に対する制限は不要と常に助言を行ってきた。インフルエンザウイルスは非常に予測が難しいが、パンデミックが継続する間、インパクトが中等度で変化しないことを希望する。


(2010/1/12 IDSC 更新)

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