国立感染症研究所 感染症情報センター
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パンデミック(H1N1)2009



入院中の免疫抑制状態にある患者から検出されたオセルタミビル耐性ウイルス
パンデミック(H1N1)2009-briefing note その18
原文

2009年12月2日 ジュネーブ

WHOは2つのオセルタミビル耐性H1N1ウイルス感染患者のクラスターの報告を最近受けた。両方のクラスター(一つはイギリスのウェールズ、もう一つはアメリカノースカロライナ州)とも、病院の同じ病棟内で発生しており、免疫不全、あるいは高度の免疫抑制状態にある患者に感染が起きている。耐性ウイルスのヒト-ヒト感染が疑われている。

高度免疫抑制状態、あるいは免疫不全の患者において、抗ウイルス薬投与中に薬剤耐性ウイルスが発生することは季節性インフルエンザですでに明らかになっている。このような状態にある患者においては、たとえ抗ウイルス薬が投与されていても、ウイルスの複製は長い期間行われ、耐性ウイルスが簡単に選択される。この現象がパンデミック(H1N1)2009 でも観察されたということである。

報告を受け、WHOは関連病院のスタッフ、専門医、疫学者、ウイルス学者と共に電話会議を行いこれら2つのアウトブレイクについて議論を行った。会議での最大の関心事は、免疫抑制状況下の患者がパンデミックウイルスに感染した際の最良の治療法であった。

アウトブレイクの概要

ウェールズのアウトブレイクは10月下旬に8人の患者の間で起こった。この8人は全員重度の血液疾患のため入院していた。死亡者は出ていないが、3人が病院にとどまり治療が行われ、うち1人は集中治療室に入室した。

アメリカのアウトブレイクは、4名の高度免疫不全状態の患者さんが関わっており、10月中旬から11月初旬までの2週間に起こっていた。4名中3名が死亡したが、H1N1ウイルスの感染が直接の死因かどうかは不明である。

すべての耐性ウイルスは、H275Y変異を有しており、オセルタミビルに耐性であるが、ザナミビルには感受性があることを示している。

現在調査中

これらのアウトブレイクについては、院内の感染経路についての特定、医療従事者やほかの入院患者、さらには院外へ耐性ウイルスが感染拡大していないかといった点について確認作業が現在行われている。これまでの結果は安心できるものである。

これらの患者を直接治療、看護していたスタッフは全員健康であり、このことは、容易に耐性ウイルスが健常者もしくは特に正しい予防策を講じているヒトへ感染しないことを示している。さらに、強化されたサーベイランスにおいて、2つの病院内、さらには院外への感染伝播の事実も認められていない。

治療指針の改訂

専門家は、高度の免疫抑制状況下にある患者は、特に易感染性であるグループとして考える必要がある、という点で一致した。これらの患者は、非常にウイルスに感染しやすく、治療も難しく、そしてウイルスが耐性能を獲得しやすい。

基礎疾患の症状や治療により、インフルエンザの兆候が初期段階では隠されることがあるため、専門家は、このような患者を治療する場合において、インフルエンザウイルス感染症を常に疑い、またオセルタミビル耐性能の急速な獲得について特に警戒するという点で意見が一致した。

これらの患者に対しての治療は、標準的なオセルタミビルの治療量と期間では不十分である。臨床判断はもちろん大切ではあるが、急性期の間は、投与を継続し、投与量も増やす必要があるかもしれない。オセルタミビルを投与しているにもかかわらず、インフルエンザの症状が遷延する場合は、ザナミビルの投与を考慮すべきである。

高度な免疫抑制状態の患者が入院している病棟でオセルタミビル耐性ウイルスが見つかった場合には、第一選択薬や同じ病棟内の患者への予防投与薬をザナミビルに変更することを医師は考慮すべきである。

また、専門家は、医療従事者、患者の看護者および家族はパンデミックインフルエンザワクチンの接種を強く推奨した。

モニタリングの強化が必要

WHOはオセルタミビル耐性ウイルスの発生やウイルスの感染経路、病原性の変化についてのモニタリングを強化することを推奨している。季節性インフルエンザにおける経験から、耐性遺伝子は瞬く間に広がり、1種類以上の治療薬が無効になる。

今年3月ごろ行われたパンデミックH1N1ウイルスの初期の特徴調査の経験から、オセルタミビルやザナミビルといったノイラミニダーゼ阻害薬は、早期に投与すると合併症併発のリスクを下げ、重症な基礎疾患を持つ患者の場合、臨床症状の軽減につながることが示された。しかし、この経験はウイルスの薬剤耐性能の獲得のリスクとインパクトを最小限にとどめることの重要性を過小評価している。

WHOは、オセルタミビル耐性インフルエンザウイルスの最初の報告を7月に受けた。一般的に言って、オセルタミビル耐性ウイルスの症例は、地理的に分散しており、散発事例で疫学的関連が認められない。このような事例は、最近の世界各国のインフルエンザの流行と、それに呼応して増加した抗ウイルス薬の投与量に合わせて一定の割合で増加した。

直近の2週間で、オセルタミビル耐性H1N1ウイルスの文書による報告は、57から96へと増加した。これらのうち約1/3の症例は、悪性血液疾患、強い抗ガン化学療法、臓器移植後などの高度な免疫抑制状態の患者に起こっている。報告された2つの病院からのクラスターは、このトレンドを考慮した上で調査されるべきである。オセルタミビル耐性ウイルスの感染症例は、全例調査する意義があるが、今のところ、この現象が公衆衛生上大変な脅威になるという証拠は認められていない。


(2009/12/10 IDSC 更新)

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