国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ



新型インフルエンザA (H1N1)に対するワクチン

      2009年5月2日 改定5月27日(原文


新型インフルエンザA(H1N1)に対して効果的なワクチンはもう使えますか?

いいえ。しかし、現在そのようなワクチンを開発している最中です。全く新しいインフルエンザワクチンを完成するには、5〜6か月かかります。


もし、インフルエンザA(H1N1)ウイルスが、今後数ヶ月間で変化したら、何が起こりますか?

今のところ、このウイルスが最初に分離されてから変化したという証拠はありませんし、 ウイルスの変化を予測することは困難です。しかし、世界中の研究室が、とても綿密に状況を監視しています。もし、今後数ヶ月間でこれが起き、そして、そのウイルスが現在のものとそれほど違いがないとしたら、ワクチンはまだ効果的でしょう。もし、なんらか重要な意味を持つ変化がある場合、ワクチンは効果的でなないかもしれなので、WHOはワクチンの組成を修正するよう推奨するでしょう。


インフルエンザワクチン生産に対して、パンデミックの宣言はどのような影響を与えますか?

WHOによるパンデミック警告の宣言は、ワクチン製造業者に対して、即時に季節性インフルエンザワクチンの生産を止め、パンデミックワクチンの生産を開始するような要求に、自動的に移行するものではありません。季節性インフルエンザもまた重症の疾患を引き起こしますから、WHOはこのことに関連して正式な推奨をするかどうか、またいつするかを決定する時には、ウイルスの疫学や重症度のようないくつかの重要な項目に関して検討を行います。WHOは、監督部局やその他の機関、そしてインフルエンザワクチン製造業者ととても緊密に仕事を続けます。


インフルエンザA(H1N1)ワクチンは、パンデミックの疾患を減らすために、どれほど重要ですか?

ワクチンは、インフルエンザの流行あるいは世界的大流行(パンデミック)の時に人々をインフルエンザにかかることから防ぐ最も価値ある方法の一つです。他の方法としては、抗ウイルス薬やその他の薬剤、社会的な距離の確保、個人における衛生等が含まれます。


現在、使用可能な季節性ワクチンは、インフルエンザA(H1N1)に対する防御効果がありますか?

最近の最も信頼性の高い科学的エビデンスでは、季節性インフルエンザワクチンはインフルエンザA(H1N1)に対してほとんど、あるいはまったく防御効果はないであろうということが示唆されています。


WHOは、インフルエンザA(H1N1)ワクチン製造を促進するために何をしていますか?

新型インフルエンザA(H1N1)感染の最初のヒト症例がわかった時にすぐ、アトランタのWHO協力センター(アメリカ合衆国の疾病対策センター[CDC])は行動を起こし、ワクチン候補となるウイルス株を作り出す作業を始めました。WHOはまた、ワクチン製造を開始するに当たり、必要なすべての材料の入手を手助けするべく、世界中のワクチン製造業者との相談を開始しました。WHOは加えて、新型インフルエンザA(H1N1)ワクチンが全ての安全基準に合致し、できる限り早く使用可能にすることを保証するために、各国の監督部局とも一緒に仕事をしています。


なぜWHOは、季節性インフルエンザワクチンからインフルエンザA(H1N1)ワクチンの製造に切り替えるよう、ワクチン製造業者に依頼しないのですか?

WHOは、季節性インフルエンザが毎年300万人から500万人の重症患者を引き起こし、25万人から50万人の人々を死に至らしめることから、季節性インフルエンザワクチンの製造をやめることを推奨しません。従って、季節性インフルエンザに対する継続したワクチン接種は大切です。速く増殖するワクチン候補ウイルス株を開発するためにかかる時間を考えると、季節性インフルエンザの生産を直ちに止めることでパンデミックワクチンをより早く生産させることにはならないでしょう。現時点では、WHOは大規模なワクチン生産が必要とされたときにすぐに取り掛かれるように、ワクチン製造業者と緊密に連携しています。


製造業者は、季節性とパンデミックのワクチンを同時に製造することはできますか?

利用可能なすべてのエビデンスに基づいて検討されるべきいくつかの可能性のある選択肢があります。


新型インフルエンザA(H1N1)ワクチン開発の過程はどのようなものですか? ワクチン株は決定されましたか? もしそうなら、誰によってですか?

パンデミックワクチンは、定義によって、パンデミックウイルスから製造されます。インフルエンザA(H1N1)ウイルスに対するワクチンは、ワクチンウイルスが卵か細胞のいずれかで増殖する過程を含むインフルエンザワクチン製造工程を使って製造されます。さらなる生産・製造を経て、適したワクチンウイルスが選ばれ、WHO世界インフルエンザサーベイランスネットワーク(WHO Global Influenza Surveillance Network)の中の研究室の協力作業(collaborative work of laboratories)を通して継続して吟味されます。これらのワクチン候補は、病原性がないことを動物モデルによって確認されます。また、要求に応じて、興味をもつ全ての製造業者が入手可能です。このようなワクチンウイルスの利用可能状況に関しては、おそらく5月末ごろ、WHOウェブサイトにおいて公開することを予定しています。

*訳註:WHOのウェブサイトには、下記の情報が掲載されています。
NYMC X-179A株
http://www.who.int/csr/resources/publications/swineflu/2009_05_27_X179Aa.pdf

CDC IDCDC-RG15株
http://www.who.int/csr/resources/publications/swineflu/2009_05_27IDCDCRG15a.pdf

NIBSC NIBRG-121株
http://www.who.int/csr/resources/publications/swineflu/2009_05_27_NIBRG121a.pdf


パンデミックアラートのフェーズ5において、インフルエンザA(H1N1)ワクチン候補ウイルスを製造業者に配布するに先だち、動物(“フェレットテスト”と呼ばれるもの)における安全性を確認する必要がありますか?

安全性に関して妥協することはできません。インフルエンザA(H1N1)ワクチン候補ウイルスの感染によるなんらかの所見(体重減少や肺病理所見等)が、季節性インフルエンザウイルスで見られるものよりもより広範囲に起こるかもしれないので、それゆえ、インフルエンザA(H1N1)ワクチン候補ウイルスのフェレットにおける感染実験は必要不可欠です。


インフルエンザA(H1N1)ワクチンは、どのぐらい早くに使えるようになりますか?

最初のインフルエンザA(H1N1)ワクチンは、最初のウイルスが同定されてから5〜6か月以内に利用可能になるかもしれません。これに先立ち、最適なワクチンの組成を選定する臨床治験においてボランティアに接種するための少量の治験用ワクチンが利用可能になるでしょう。そのワクチンに対する国家当局による監督認可が、製造工程と同時進行で実施されます。国の監督当局は、ワクチンの質と安全性において妥協することなく、効率的にその過程を推し進めます。製造工程における遅れは、ワクチンを作るために使われるワクチン株の増殖がよくないことによって起こりえます。


製造業者はどのように選ばれるのですか?

現在、ワクチンを製造するライセンスを得たインフルエンザワクチン製造業者が非常に多くあります。要求があれば、ワクチン株はそれらの業者の各々に対して提供され、さらに、季節性インフルエンザワクチンに対してはまだライセンスを持っていないけれども、インフルエンザA(H1N1)ワクチンを製造する用意をしている有資格のワクチン製造業者にも提供されます。


インフルエンザA(H1N1)パンデミックワクチンに関して、世界の製造能力はどうなのでしょうか? H5N1ワクチンの世界の製造能力と同じですか?

H5N1のワクチンの製造能力においてなされた見積もりとH1N1ワクチンのものに関しては、自動的に同じものになるであろうとは想定することはできません。H5N1とH1N1は異なったウイルスであり、H1N1ワクチンを効果的なものにする抗原量は、H5N1のそれとは異なるかもしれません。それゆえ、正確に推定することは不可能です。しかしながら、これらの考察にもかかわらず、2009年5月15日にWHOによる実施されたサーベイによると、12か月で最大49億接種が製造可能と考えられました。これは幾つかの状況が合致した場合のみ、すなわち、とりわけインフルエンザA(H1N1)ワクチンの生産効率が、季節性インフルエンザで通常得られる効率とほぼ同等であり、また、製造業者がH5N1インフルエンザにおいて示されたワクチン組成を最大の容量の節約(“dose-sparing”、例えばより少量の活性成分を使うといったような)として使ったときにのみ、可能となります。世界の製造能力としてさらに保守的に推計すると、少なくとも年間10億から20億接種になります。これは、我々が防御を獲得するために何回のワクチン接種数があればよいかまだ分からないために、自動的に接種人数に換算することはできません。


インフルエンザワクチンの製造能力は、地理的にどのような配分になっていますか?

今日の世界的な生産能力の90%近くがヨーロッパと北アメリカ、さらにかなりの製造能力がオーストラリアと日本に分布しています。しかしながら、過去5年間、途上国の6つの製造業者がインフルエンザワクチンを生産する技術を獲得し始め、WHOからの技術的および資金的援助を受けています。


インフルエンザA(H1N1)ワクチンの大規模な製造に関して、最近のWHOの推奨はどのようなものですか?

WHOの専門家による顧問団(Strategic Advisory Group of Experts、SAGE)による推奨に基づき、WHOは可能な限り速やかに、臨床治験におけるインフルエンザA(H1N1)ワクチン候補を評価するための材料を製造業者が用意できるように、どのウイルス株を製造に使うべきかに関する推奨を作成すべきであると同時に、現在の北半球における季節性ワクチンの製造を継続するべきであるとしています。感染により被害を受けやすい人々を免疫するための季節性ワクチンを持たないことにより引き起こされる結果や、現在のインフルエンザA(H1N1)ウイルスの重症度や蔓延に関する不確かさ、基本資材の入手可能性が考慮に入れられています。


インフルエンザA(H1N1)ワクチンの保管規定はどのようなものですか?

ワクチンは、2℃から8℃の間で、冷蔵で保管される必要があります。


これまでの間、HIVやマラリアのような致死的な病気に対するワクチンの開発は不可能でした。効果的なインフルエンザA(H1N1)ワクチンの開発において、科学的あるいは他の障害がないということに関して、どの程度確かなのでしょうか?

典型的には、インフルエンザワクチンの開発は、問題を引き起こすことはありません。インフルエンザワクチンは、何十年ものあいだ人に対して使用され、安全で効果的であることが知られています。効果的なワクチンは、シーズンごとに作られています。しかしながら、わかっていない一つのカギはワクチンウイルス生産の効率です、なぜなら、製造業者のシステムにおいて幾つかの株が他のものよりも増殖がよいことがあり、新型インフルエンザA(H1N1)株のふるまいがまだわかっていないからです。新しい組み換え技術が開発中ですが、まだ使用は認可されていません。


インフルエンザA(H1N1)ワクチンは、全ての人々において有効ですか?

現在までの情報によると、これに関してはデータがありませんが、一方で有効ではないとする理由もまたありません。


インフルエンザA(H1N1)ワクチンは安全ですか?

ライセンスを受けたワクチンは、とても高い安全性基準が適用されたものです。全ての可能な対策が、新型インフルエンザA(H1N1)ワクチンの安全性を確保するためにとられるでしょう。


アメリカ合衆国で経験された1976年の豚インフルワクチンによる合併症(ギランバレー症候群)を繰り返すことは、どのようにして避けられるのですか?

ギランバレー症候群は、神経系における急性の疾患です。インフルエンザを含む様々な感染症のあとでみられます。研究によると、毎年の季節性インフルエンザワクチンは、100万接種あたり一人から二人の割合でギランバレー症候群のリスクを増すことが示唆されています。1976年のインフルエンザワクチン接種キャンペーンの間、このリスクが100万接種あたり10人程度に増し、ワクチンが回収されるまでに至りました。

インフルエンザA(H1N1)ワクチンは、確立された基準によって製造される予定です。しかしながら、それらは新しい製品であるためにヒトに対してわずかに異なった反応を起こす危険性をはらんでいます。ワクチン接種後の全ての重篤な副反応の綿密な監視と調査が必要不可欠です。安全性を監視するシステムは、新しいパンデミックインフルエンザワクチンの実施において、なくてはならない戦略です。 インフルエンザワクチンの製造における質のコントロールは、1970年代より確実に改善しています。


インフルエンザA(H1N1)ワクチンとその他のワクチンを同時に接種することは可能ですか?

不活化インフルエンザワクチンは、その他の注射で接種するワクチンと同時に接種することは可能ですが、異なった部位に接種するべきです。


全ての人に十分なインフルエンザA(H1N1)ワクチンがありますか?

パンデミックインフルエンザに対して、世界の人々に接種するに十分なワクチンを作るためにかかる推定時間は、ワクチン製造業者が効果的なインフルエンザA(H1N1)の1回接種分にどのぐらいの活性物質(抗原)が必要か、そして一人につき1回で良いのかあるいは2回必要なのかを決めることができるまでわかりません。

過去2年間、アジュバンドの発見と使用を含む研究の推進とともに、生産施設の拡大により、インフルエンザワクチンの生産能力は、飛躍的に増加しました。アジュバンドは、ワクチンをより効果的なものにするために、ひいては活性物質(抗原)を節約するために添加される物質です。


WHOのワクチン使用における公平性に関する展望はどのようなものですか?

WHO事務局長は、現在の状況への対応として、国際的な団結を呼び掛けています。WHOは、対応手段に対する全ての国々における公平で平等なアクセスという目標を、最も優先度の高いものとして掲げています。WHOは、製造業者に対して、将来的なインフルエンザA(H1N1)ワクチンは国連機関の買い上げとすることの要求を出しています。加えて、インフルエンザA(H1N1)ワクチンを前もって購入する契約を行なっている国からの寄付は望まれるものであり、途上国にとってより無理なく買えるようにするためにも、ワクチン製造業者との段階的な価格の調整が議論される予定です。


将来的にインフルエンザA(H1N1)ワクチンは誰に優先的に接種しますか?

この決定は、各国の機関によってなされるものです。手引きとして、WHOは パンデミックの展開をリアルタイムで追い、その所見を公表していきます。情報が利用可能になれば、ハイリスク群をより明確に決定し、ワクチン接種対象群を定め、ひいては限られた供給が最大限の効果を得られるようにすることができるかもしれません。


WHOは、大規模なインフルエンザA(H1N1)ワクチン接種キャンペーンを行いますか?

いいえ。各国の機関が、その国のパンデミック行動計画に応じて、ワクチン接種キャンペーンを実施することになります。WHOは、多くの人々への接種をより迅速にかつ効果的にできるように、例えば複数回使用可能なバイアルのようなものにワクチンを詰めることができるかどうかを検討しています。


パンデミックウイルスに対して、途上国の多くの人々へ接種することはどの程度実現可能ですか?

途上国は、大規模キャンペーン時のワクチンの供給において、重要な戦略と現実的な経験を持っています。根幹となる問題は、実現可能かどうかではなく、適切な量のワクチンをいかにタイムリーに手に入れるかです。


例年、季節性ワクチンはどのぐらい使用されていると推定されていますか?

現在のところ、毎年、年間5億接種未満です。


季節性インフルエンザワクチンは引き続き利用可能ですか?

現時点で、季節性インフルエンザの生産を止める様な推奨はなく、製造業者は北半球における2009-2010年シーズンのインフルエンザワクチンの生産を完了するように積極的に努力しています。


(2009/6/2 IDSC 更新)

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