国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ



沖縄県内における新型インフルエンザ流行状況実地疫学調査報告

          
主に2009年8月25日現在まで
          
国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース(FETP)
国立感染症研究所 感染症情報センター
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要約

2009年8月25日現在の、沖縄県における新型インフルエンザの発生状況を把握し、臨床・疫学的特徴を明らかにすることにより感染拡大防止対策につなげることを目的として、沖縄県庁、各保健所、医療機関を中心に聞き取り調査および情報収集を行った。新型インフルエンザの沖縄県内(以下、県内)一例目が6月29日に認められて以降、定点あたりの県内インフルエンザ患者の報告数をみると、33週(8月10日〜16日)では29.60、34週(8月17日〜23日)では46.31と一貫して報告数の増加を認め、その殆どが新型インフルエンザA/H1N1pdmであった。地域的には、最初沖縄本島中部地区より流行が立ち上がり、徐々に同那覇地区、同南部地区に拡大した。沖縄県では、県全体で季節性インフルエンザの冬季のピークが定点あたり60〜90であることから、8月25日までの沖縄県の状況は、冬季の季節性インフルエンザの流行にも迫る状況であると言えよう。特に沖縄本島内においては、新型インフルエンザは第1波の流行状況にあると考えられる。このような流行の進展は日本本土に先行するものであり、定点あたりの報告数が増加に転じた第31週を含め4〜6週間後の第34〜36週頃にピークに至っている可能性がある。第1波の流行規模(すなわち残る感受性者の状況)によって、第2波以降の流行のインパクトが影響を受けることが考えられる。

年齢群別患者報告数を見ると、全国平均と大きく差は認められず、10歳代後半に最も多くの患者発生を認めたが(年齢中央値:16歳)、特に大部分の公立学校夏期休業が始まって以降(7月18日〜)における定点報告における年齢群別割合をみると20代以上が50%前後を占めていた。8月25日現在までに入院加療を要した例は27例報告され、肺炎または肺炎疑いが7例(37%)、肺炎と気管支喘息重積発作の併発が3例(11.1%)、呼吸苦2例(7.4%)、脳症の疑いが1例(3.7%)、脱水症状などが計4例、不明が10例であった。うち57歳の宜野湾市の男性(血液透析中)が8月15日に死亡し、国内初の死亡例として報告された。本事例の主たる死亡要因は多臓器不全であった。本事例においては、腎機能を考慮して、発症後3日目に1カプセルのオセルタミビル(75mg)が1回投与されていた。死亡例を含む入院加療を要した例の年齢中央値は8歳であった(8月25日現在)。

7月25日以降に実施されたクラスターサーベイランスの結果から、8月4日 6%(1/15件)、8月11日 36%(15/42件)、8月21日 62.5%(20/32件)、8月25日 73%(30/41件)と、夏期休業中にも開業していた保育園からの報告の割合が多く観察され、特徴的な傾向を示した。この間、報告された患者の年代分布も幼児の年齢が増加傾向にあり、クラスターサーベイランスにて観察された傾向を支持する結果となった。今後夏期休業が終了し、学校が再開した後に、再び10歳代の学生を中心とした感染者数の増加が懸念される。

沖縄本島中南部の主たる基幹病院である那覇市立病院、県立南部医療センター・こども医療センター、県立中部病院の救急受診患者状況をみると、感染の拡大に伴い経時的に受診患者が増加しているものの、特に週末の受診者数が、多く認められた。大半の患者において比較的軽症な新型インフルエンザの病状から、患者側により余裕がある時間帯における基幹救急医療期間への受診という行動につながっている可能性が示唆された。発熱患者以外の救急患者受け入れのためにも、行政による住民への広報やメディアに対する情報の共有、他の基幹病院以外の医療機関との連携が急務であると思われた。地域の医師会や行政などにより、そのような取り組みも地域によって実際に行われていた。

 夏期休暇終了に伴う学校における保健・衛生教育の一環としての感染予防対策の実施、感染者による外出自粛の実施、重症患者増加に対する医療体制の確保、重症者の疫学・臨床情報を収集・分析するための入院患者サーベイランスの体制確立、関係機関間での情報共有と連携、リスクコミュニケーションによる住民への情報の効果的な伝達が望まれる。今後も引き続きの情報収集が必要である。




(2009/9/18 IDSC 更新)

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