国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ



福岡市における新型インフルエンザ感染症の集積についての
        実地疫学調査〜中間報告

          
2009年7月2日

福岡市保健福祉局
国立感染症研究所感染症情報センター



 
2009年6月9日から6月20日まで、厚生労働省および福岡市からの依頼に基づき、国立感染症研究所感染症情報センター職員および、同研究所実地疫学専門家養成コースの研修員が現地に派遣され、福岡市保健福祉局と共同で実地疫学調査を実施した。今回の調査においては、福岡市における新型インフルエンザ感染症の集積事例の全体像の把握、および感染源・感染経路・リスク因子の推定、対応への助言等を目的としたが、この中間報告においては、新型インフルエンザと確定診断された症例の記述疫学情報を主に述べることとする。


端緒

 6月6日、福岡県春日市のインフルエンザ定点医療機関を受診した福岡市立板付中学校1年生男子生徒が、福岡県保健環境研究所で実施されたPCR検査にて新型インフルエンザと確定診断された。なお、福岡県内においては、5月25日に米国人男性(糟屋郡志免町滞在)が新型インフルエンザと確定診断されており、本症例は、県内で診断された新型インフルエンザ第2例目であった。

 6月7日には、板付中学校でさらに5名、また福岡市立板付小学校で6名の新型インフルエンザ確定患者が確認された。なお、板付中学校、板付小学校などがある板付中学校区は、博多区の南東部に位置し福岡市南区、福岡県春日市・大野城市などと隣接する地域である。

 福岡県および福岡市においては、国から提示された症例定義に基づいて実施されていた発熱外来における新型インフルエンザの探知以外に、独自の取り組みとして、県下全域において新型インフルエンザのサーベイランスを強化していた。5月19日以降、病原体サーベイランスの強化として、県下198か所のインフルエンザ定点医療機関(福岡市はうち52か所)すべてにおいて、インフルエンザ迅速キットにおいてA型陽性であった場合、新型インフルエンザのPCR検査を実施することとしており、6月6日に診断された板付中学校の症例もこの強化サーベイランスにより探知された。また、本事例の発生をうけて、福岡市においては、6月11日以降、福岡市内の全医療機関において、インフルエンザ迅速キットにおいてA型陽性であった場合、病原体サーベイランスの一環として福岡市保健環境研究所において、新型インフルエンザのPCR検査を実施する体制が整備されていた。

 当初、福岡市は、新型インフルエンザの確定症例については、全例勧告入院への協力を求めていたが、6月9日以降は小児症例について、また6月15日以降は成人についても、症状や感染管理等について一定の条件を満たした場合は、自宅療養も可能ということに方針を変更した。



症例定義と積極的症例探索

 症例定義は、「2009年5月19日以降、6月30日までに、福岡市在住者でインフルエンザ様症状を呈し、PCR検査により新型インフルエンザと確定診断されたもの」 とし、福岡市保健環境研究所および福岡県保健環境研究所における PCR検査による確定例情報を入手した。

 症例情報は市内各区の保健福祉センターによって実施された聞き取り調査結果を使用し、また、入院症例については、福岡市立こども病院・感染症センター、福岡市民病院の協力も得て臨床情報を収集した。



記述疫学

 症例定義に合致した症例は、計71例(男性40例、女性31例)、年齢範囲は2歳〜43歳(中央値11歳)であった。板付小学校児童の症例では、男児17例、女児16例であったが、板付中学校生徒の症例においては、男性14例、女性1例と、性別の偏りがみられた。

 板付中学校区およびその周辺の地域に関連する63症例の所属および背景情報は、板付小学校児童33例(3年生4例、4年生14例、6年生15例)、板付中学校生徒15例(1年生11例、2年生2例、3年生2例)、同中学校教師2例、福岡市立三筑小学校児童1例、福岡市立板付北小学校児童2例、福岡市立弥生小学校児童1例、宮竹幼稚園児2例およびその家族2例(保護者1例、幼児1例)、宮竹小学校児童1例、およびA飲食店(所在地:板付中学校区内)関連3例(従業員2例と家族幼児1例)、板付中学校区内の居住者(成人1例)であった。

 板付中学校区およびその周辺地域と、勤務地および居住地などの関連が判明していない症例として、B銀行C支店行員3例およびその接触者1例、およびカナダからの一時帰国者1例、米国(ハワイ州、ニューヨーク州)からの帰国者3例があった。なお、これら4例を除いて、発症前2週間以内に、海外渡航歴のある症例はいなかった。また、新型インフルエンザの学校等における集団発生が確認されていた地域に、発症前2週間以内に旅行したものはいなかった。

 症例(N=70)の症状の内訳は、発熱(37.0度以上)70例/70例(最高体温の内訳は、38.0度以上39.0度未満32例、39.0度以上40.0度未満23例、40.0度以上6例)、咳59例/70例、咽頭痛37例/68例、全身倦怠感34例/68例、下痢・軟便9例/67例などであり、一部からの情報がとれている症状としては、頭痛27例/30例、鼻汁30例/45例、筋肉痛・関節痛17例/24例、腹痛・腹部異和感8例/13例、嘔気7例/11例、嘔吐2例/9例、結膜充血4例/10例、発疹1例などがみられた。15歳以下の症例57例に限ると、発熱(37.0度以上)57例/57例(最高体温の内訳は、38.0度以上39.0度未満29例、39.0度以上40.0度未満19例、40.0度以上6例)、咳50例/57例、咽頭痛28例/56例、全身倦怠感27例/56例、下痢・軟便9例/56例、などであり、一部からの情報がとれている症状としては、頭痛21例/23例、鼻汁27例/40例、筋肉痛・関節痛11例/15例、腹痛・腹部異和感7例/9例、嘔気6例/8例、嘔吐2例/6例、結膜充血4例/7例、発疹1例などがみられた。

 勧告入院等で、47例が入院加療を受けたが、6月23日までには、全例軽快退院が確認されている。なお、症例の基礎疾患は、喘息が7例(うち既往が3例)、熱性けいれん2例等であった。

 37.0度以上の発熱初日を発症日とした流行曲線では、症例全体の発症日は、6月3日〜6月29日にわたっていた。また、板付中学校生徒・教員では、6月3日〜6月13日、板付小学校児童では6月4日〜6月10日、それ以外では、6月9日〜6月29日の発症日であった。現在も、病原体サーベイランスの強化体制は継続されているが、6月30日現在、福岡市の居住者において、海外渡航歴のない症例は6月17日の発症者を最後に新たな症例は探知されていない。



(2009/7/16 IDSC 更新)
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