国立感染症研究所 感染症情報センター
Go to English Page
ホーム疾患別情報サーベイランス各種情報
高病原性鳥インフルエンザ



2009年5月19日現在の神戸市における新型インフルエンザの臨床像(暫定報告)

          
2009年5月20日

国立感染症研究所感染症情報センター、神戸市保健所

※注:本文書はすでに改訂されている。参照および比較の目的のみでこの掲示をしている。


背景

 
2009年5月16日、日本で初めてとなる新型インフルエンザA(H1N1swl)の最初の3例が神戸市によって報告された。その後、新型インフルエンザは、兵庫県北部や西部、あるいは近隣の大阪府にて検出が相次ぎ、2009年5月19日午前1時現在、全国で163例に上っている。本まとめは、5月19日現在まで神戸市内において確定例となり、入院あるいは外来にてフォローされた43例について、国内事例の臨床像に関する情報を医療機関に迅速に提供し、新型インフルエンザの診療の資することを目的としている。

 なお5月19日現在、感染症法上、新型インフルエンザ等感染症は2類と同等に分類され、入院の上での治療を行うことが必要とされている。そのため、新型インフルエンザ患者全例に対して、神戸市でも当初入院による治療が行われた。本稿においても、法的に入院を要したこれらの患者を対象としている。しかしながら、医療機関における対応病床が満床になるなどの状況が直ぐに発生し、かつ、臨床的に軽症である患者が多いことが示唆されたことから、5月18日より神戸市や大阪府などでは、臨床上入院を必要とする患者についてのみの入院へと切り替えた。

 本稿をまとめるにあたり、実際の患者の診療に多忙を極める、神戸中央市民病院、西神戸医療センターの全面的な協力をいただいた。



入院時における概要


患者属性・基礎疾患の有無

 
患者は43例で、年齢中央値は17歳(5〜44歳)で、殆どが10代後半の若者あった。男女比は1:1.3(19例:24例)である。基礎疾患についての情報を得られた者が38例あった。呼吸器疾患として慢性気管支喘息を挙げた者が6例あった(15.8%)。糖尿病、心疾患、免疫不全、悪性腫瘍などの背景を持つ者はいなかった。24例の女性の中で、妊娠の可能性があると答えた者はいなかった。


季節性インフルエンザワクチン接種歴および2008-2009年シーズンのインフルエンザ罹患

 
インフルエンザワクチン接種歴と冬のインフルエンザ罹患歴との関係を見た。昨シーズン(2008-2009年)前の季節性インフルエンザワクチンの接種歴については、情報の得られた42例中22例(52.4%)においてワクチン接種歴が認められた。また、2008-2009年冬季のインフルエンザ罹患歴については、情報の得られた40例中3例(7.5%)が、インフルエンザに罹患したと患者本人が答えた。


インフルエンザ迅速検査

 
インフルエンザ迅速検査実施については、43例全例の新型インフルエンザ検査確定例(RT-PCR陽性者)について情報を得られた。発症日から迅速検査の検体採取日までの中央値は1日(0-4日)であった。迅速検査A型陽性の診断は23例(53.5%)についてなされていた。一方、迅速検査A型陰性の診断は20例(46.5%)であったが、これは発症から検査までの期間が短いことも影響していると考えられる。また、迅速診断検査キットの種類別についての情報は得られていない。


入院時の臨床像

 
43例の入院時の臨床像は以下のようなものである。約90%に38℃以上の高熱を認めた。60〜80%の頻度で挙げられた症状は倦怠感、熱感、咳、咽頭痛であった。鼻汁・鼻閉、頭痛は約半数において認められた。嘔吐や下痢の消化器症状は約10%弱に、結膜炎は7%に認められた。神経学的症状は認めた者はいなかった。


入院時の検査所見

 
代表的な検査所見としては、データの得られた20人に関する入院時の末梢白血球 3200〜11400(中央値5100)/mm3、CRP 0.1〜9.2(中央値1.3)mg/dl、7人に関するGOT 13〜64(中央値20)IU/dl、GPT 7〜168(中央値13)IU/dlであった。臨床上、肺炎を疑われた症例はなかったため、胸部レントゲンは検査されていない。


治療の概要

 
治療として、43例中39例が抗インフルエンザウイルス薬の投薬を受けていた。投与の内訳は、タミフルが19例、リレンザ吸入が20例であった。年齢群別にみると、9歳以下の1例はタミフル内服を実施し、10歳代の36例のうち、タミフル内服が13例(36.1%)、リレンザ吸入が20例(55.6%)、非投与が3例(8.3%)であった。20歳以上の6例のうち、5例に対してタミフルが投与されていた。1例は抗インフルエンザウイルス薬非投与で、その理由は不明だが、発症より検査確定まで3日の経過を経ていた。発症から抗インフルエンザウイルス薬投与に至る日数の中央値は1日(0-4日)であった。他の抗生剤として、各1名ずつ抗菌薬が処方されていた。


入院適応

 
患者の大半は入院を要する臨床状況ではなかった。5月19日現在、人工換気を行う対象者は無く、また、死亡例も発生していない。臨床的な観点から大半は直ぐに退院となり、自宅における健康観察を行う対象となっている。5月19日現在、長期的な予後については不明だが、現時点までの状況では、季節性のインフルエンザと臨床像において類似しており、全例を入院させる医学的必要性はないことが示唆される。1例のみ、入院を継続することが合理的であると考えられた患者があった。その患者の状況について症例報告として以下に述べる。


(参考)入院が必要と考えられた一例

症例: 20歳代の女性。5月16日夕方より頻回の下痢と38℃台の発熱出現*、咳(-)、鼻水(-)、咽頭痛(-)、頭痛(+)、下腹部痛(++)、関節痛(+)、悪心(-)、全身倦怠感(+)、にて入院となる。現症として咽頭は軽度発赤しており、下腹部に圧痛がある以外には著変を認めない。この日の検査データとしては、末梢血で白血球 5100/mm3、血小板 17.0 x 104/μl、CRP 9.2mg/dl、咽頭拭い液あるいは鼻汁にて行われたインフルエンザ迅速検査A(-)B(-)、RT-PCRにてインフルエンザA(H1N1swine)陽性であった。タミフル、ブスコパンを処方され、輸液が行われた。5月19日現在、依然入院中だが、臨床症状は徐々に改善している。腹痛の原因については精査中である。

*2009年5月21日修正



(2009/5/21 IDSC 更新)
 * 情報は日々更新されています。各ページごとにブラウザの「再読み込み」「更新」ボタンを押して最新の情報をごらんください。

Copyright ©2004 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.