国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ



小児における臨床像

          
2009年9月15日
          
国立感染症研究所感染症情報センター

流行しているパンデミックA(H1N1) 2009ウイルスが小児に感染を起こした場合の病態については、詳しくは判っていない。しかし、季節性インフルエンザでは、5歳以下の乳幼児および基礎疾患のある児では、インフルエンザウイルス感染を発端とする合併症の発生リスクが高いことが知られている。これを踏まえれば、これらに該当する児がパンデミックA(H1N1)2009ウイルスに罹患した場合には合併症をきたす可能性に注意が必要である。また、これまで流行のみられた欧米では5歳以下での入院率が他の年齢群よりも高いことが報告されている。

臨床像

我が国で小児のパンデミックA(H1N1)2009ウイルス感染後の臨床像をまとめた研究報告は現在のところ見られていないが、パンデミックA(H1N1)2009のアウトブレイク初期(5月中旬〜6月中旬)に行われた国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)、およびFETPの調査結果では、15歳以下の症例62例(大阪5例、福岡57例)中、発熱(38.0度以上)59例/62例(95.2%)、咳55例/62例(88.7%)、咽頭痛31例/61例(50.8%)、全身倦怠感31例/61例(50.8%)、下痢・軟便9例/61例(14.8%)となっている

(大阪における新型インフルエンザの臨床像 (第二報)

(福岡市における新型インフルエンザ感染症の集積についての実地疫学調査〜中間報告)またこの結果は、英国、フランス、キプロスといった諸外国からの小児のインフルエンザA(H1N1)感染者の臨床症状の報告結果1‐3)と比較しても同様である。

米国CDCは、緊急を要する重症化の徴候として以下の7つの症状を挙げており、これらの症状を有する患者を診察した際には、注意が必要である。(Interim Guidance for Clinicians on the Prevention and Treatment of Novel Influenza A (H1N1) Influenza Virus Infection in Infants and Children

・頻呼吸や呼吸困難

・蒼白、チアノーゼ

・水分摂取不良

・頻回の嘔吐

・意識あるいは意思疎通不良

・機嫌が悪く、抱っこされることを嫌がる

・インフルエンザ様症状は治まったが、再び発熱し、咳が悪化

治療について

新型インフルエンザ A (H1N1)ウイルスはアマンタジンやリマンタジンには抵抗性を示すため、治療については、現時点ではほとんどの株が感受性を有するとされているリン酸オセルタミビル(商品名:タミフル)またはザナミビル(商品名:リレンザ)が有用とされている。投与量は季節性インフルエンザに準ずる(国内医療機関における新型インフルエンザ(A/H1N1)抗ウイルス薬による治療 ・予防投薬の流れ Ver.2)。

また季節性インフルエンザを含むウイルス疾患において解熱目的でジクロフェナクナトリウム製剤やメフェナム酸を使用することは、インフルエンザ脳症発症時の予後不良因子とされていること(インフルエンザ脳症ガイドライン)から、インフルエンザ脳症患者への使用は禁忌となっており、小児のインフルエンザ発症時の解熱目的でのこれらの薬剤の使用は控えるべきである。

またCDCは、ライ症候群併発の可能性を考慮しアスピリンおよびアスピリンを含有する薬剤の使用を禁忌としていることを考慮し、解熱剤を使用するのであればアセトアミノフェンが望ましい(小児における新型インフルエンザ A (H1N1)ウイルス感染に対する予防と治療の暫定的手引き)。

10代の季節性インフルエンザ患者に対するリン酸オセルタミビルの使用と異常行動に関しては、明らかな因果関係が否定されておらず、現在でも国内において使用が制限されている。しかし日本小児科学会より、治療の有益性が危険性を上回ると判断された場合、患者・両親の承諾の下、使用することは可能であるとの提言が示されている。これは、1歳未満の乳児に関しても同様である。また、米国CDCからも1歳未満の乳児を含む小児のインフルエンザ患児に対するオセルタミビルの使用が示されており、臨床的に必要であると判断された場合には厳重な監視下でリン酸オセルタミビルを使用することは妥当であろう。また吸入薬であるザナミビルは5歳以上で国内健康保険適応となっている。

http://www.cdc.gov/h1n1flu/childrentreatment.htm (英語版)

http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009cdc/CDC_children_treatment.html (日本語訳)

インフルエンザ脳症について

季節性インフルエンザウイルス感染に伴ったインフルエンザ脳症などの神経合併症に関しては以前から報告がされており、各年とも低年齢の乳幼児が多く、2004〜2007年に報告された690例のうち、約半数の344例が0〜9歳であった。パンデミックA(H1N1)2009ウイルス感染によるインフルエンザ脳症症例は、厚労省報道発表資料によると平成21年8月22日現在、我が国では7例報告されており、パンデミックA(H1N1)2009ウイルスの気道感染であっても、季節性インフルエンザと同様に神経合併症を発症しうることが確かめられた。パンデミックA(H1N1)2009ウイルス感染後のインフルエンザ脳症については、米国西部テキサス州からも4例の報告がある。(日本語訳

我が国の過去の季節性インフルエンザでの報告では、インフルエンザ脳症の80%が5歳以下の子供に起き、典型的にはインフルエンザ発症後1〜2日以内に神経症状が認められる4,5)。症状は痙攣、意識障害、錯乱、興奮、異常行動で、50%近くが完全回復するが、20%に軽度、10%に重度の後遺症が残り、20%が死亡している5)。なお、急性脳炎(ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、東部ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎及びリフトバレー熱を除く)は2003年11月5日より、定点把握対象疾患から全数把握対象疾患となっており、インフルエンザ脳症を診断した場合、急性脳炎としての届出が必要となる。インフルエンザ脳症の診断・治療などの詳細はインフルエンザ脳症ガイドラインを参照のこと。

文献)


1)  Smith A, Coles S, Johnson S, Saldana L, Ihekweazu C, O'Moore E. An outbreak of influenza A(H1N1)v in a boarding school in South East England, May-June 2009.Euro Surveill. 2009 Jul 9; 14 (27).

2)  Guinard A, Grout L, Durand C, Schwoebel V. Outbreak of influenza A(H1N1)v without travel history in a school in the Toulouse district, France, June 2009. Euro Surveill. 2009 Jul 9; 14 (27).

3) M Koliou, E S Soteriades, M M Toumasi, A Demosthenous, A Hadjidemetriou. Epidemiological and Cinical Characteristics of Influenza A(H1N1)v Infection in Children: The first 45 cases in Cyprus, June-August 2009. Euro Surveill. 2009: 14 (33).

4)Morishima T, Togashi T, Yokota S, et al. Encephalitis and encephalopathy associated with an influenza epidemic in Japan. Clin Infect Dis 2002; 35: 512-517.

5) Wada T, Morishima T, Okumura A, et al. Differences in clinical manifestations of influenza-associated encephalopathy by age. Microbiol Immunol 2009; 53 :83-88.





(2009/9/16 IDSC 更新)
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