国立感染症研究所 感染症情報センター
Go to English Page
ホーム疾患別情報サーベイランス各種情報
高病原性鳥インフルエンザ



新型インフルエンザA(H1N1)の流行状況−更新6

          
2009年5月13日

国立感染症研究所 感染症情報センター

 2009年5月11日午前9時00分(日本時間)現在、WHOからの発表情報、国際会議における情報、米国CDCからの発表情報、各国政府などの情報から、以下に現状をまとめる。ただし、現時点では系統的に集められたデータに乏しく、記述的な情報も含まれるため、現時点での暫定的なまとめであり、今後科学的なデータが出るにつれて変化していくものである。


要約

 WHOなどによると、2009年5月13日午前10時00分(日本時間)現在、世界中で30カ国に おいて5,000例以上の新型インフルエンザ(Swine-origin influenza A/H1N1)感染の 確定例が報告されており、内訳はアメリカ合衆国2,600例(アメリカCDCによれば 3,009例)、メキシコ2,059 例、カナダ330例(カナダ政府によれば358例)などである。死亡例はメキシコ56例、アメリカ3例、カナダ・コスタリカ各1例の計61例である。

 日本では、5月8日にカナダから帰国した日本人4名が入国前(3名)および停留中(1名)に新型インフルエンザA(H1N1)感染確定と診断されている。その後に新たな症例の報告はない。


公式報告数

 WHOによると、2009年5月13日午前9時00分(日本時間)現在、世界30カ国において新型インフルエンザ(A/H1N1swl)感染の確定例5,251例(うち死亡61例)が報告されており、その内訳は、アルゼンチン(1)、オーストラリア(1)、オーストリア(1)、ブラジル(8)、カナダ(330、うち死亡1)、中国(香港含む)(2)、コロンビア(3)、コスタリカ(8、うち死亡1)、デンマーク(1)、エルサルバドル(4)、フランス(13)、ドイツ(12)、グアテマラ(1)、アイルランド(1)、イスラエル(7)、イタリア(9)、日本(4)、メキシコ(2059、うち死亡56)、オランダ(3)、ニュージーランド(7)、ノルウェー(2)、パナマ(16)、ポーランド(1)、ポルトガル(1)、韓国(3)、スペイン(95)、スウェーデン(2)スイス(1)、英国(55)、米国(2600、うち死亡3)である。


感染状況

米国

 米国CDCの最新のアップデート(米国東部時間11:00)によると、全米で45州から、3009例(うち死亡3例)確定患者が報告されているが(http://www.cdc.gov/h1n1flu/update.htm#statetable)、CDCではこの数も氷山の一角である可能性を述べている。実際に、米国の季節性インフルエンザサーベイランスシステムからのレポート、 5月8日付のFluViewによれば(http://www.cdc.gov/h1n1flu/pubs/pdf/FluView_Week17.pdf)、これまで低下傾向にあった季節性インフルエンザの流行は再び上昇し、例年よりも高くなっており、ウイルス別の状況で、A/H1N1(Aソ連型):全体の21.3%、A/H3N2(A香港型):全体の19.1%、B型:全体の52.5%が依然として地域で循環しているとともに、新型のA/H1N1swl(全体の20.7%)と、型別の判定ができないウイルス(全体の19.3%)が混在している(残りは型別が行われていない検体:19.6%)。

 これらの状況および、現在の新型H1N1インフルエンザでは軽症例が多数含まれていること、米国の習慣として軽度の発熱では医療機関に受診しない傾向があることなどを考えると、米国の確定例が報告されている地域では、新型インフルエンザA/H1N1swlの確定症例数よりも多くの症例が潜在していることが考えられる。


カナダ

 カナダのPHAC(Public Health Agency of Canada)からの最新の報告によると(http://www.phac-aspc.gc.ca/alert-alerte/swine-porcine/surveillance-eng.php)、358例の確定例が、9つの州と一つの地域から報告されている。確定例の報告のないのは、ニューファウンドランド、北西地域、ヌナヴァットのみである。

 カナダでの季節性インフルエンザサーベイランスシステムからのレポート、FluWatch(第17週、4/26-5/2、http://www.phac-aspc.gc.ca/fluwatch/08-09/w17_09/index-eng.php#jmp-lan5)からは、カナダでの季節性インフルエンザの流行は、例年の同時期よりインフルエンザ様症状での受診率が上昇していることが指摘されている。これは現在の新型A/H1N1swlの流行の不安によるものであろうとし、臨床検体からのインフルエンザ陽性率は低下していると報告されている。型別判定のできないウイルス株についての報告はない。今後は米国と同様に、季節性インフルエンザサーベイランスの状況にも注意が必要と考えられる。


メキシコ

 メキシコ政府による最新の状況では(http://portal.salud.gob.mx/descargas/pdf/influenza/situacion_actual_epidemia_120509.pdf)、32の州及び連邦区のうち、30の州および連邦区から2,282例の確定症例の報告がある。直近の2日間はゼロ報告となっており、減少しつつあるとの見方もあるが、軽症例については把握できていない可能性もあり、また、次項のScienceからのレポートの数理モデルによる推計によれば、メキシコでは4月後半までに23,000(範囲6,000-32,000)例の感染者があったとされており、実際にはこれまでに報告されている確定症例数を大きく上回る発生患者数があったことが考えられるため、現状では評価できない。


ヨーロッパ

 ECDC(European Centre for Disease Prevention and Control)は欧州連合(European Union: EU)および欧州自由貿易連合(European Free Trade Association: EFTA)地域内の14カ国において210例の確定例があり、4カ国(ドイツ、イタリア、スペイン、英国)において、人-人感染例が存在することを報告している(http://www.ecdc.europa.eu/en/files/pdf/Health_topics/Situation_Report_090512_0800hrs.pdf)。地域における人-人感染による集団発生や孤発例が増加しつつあるものの、この地域内では疫学的リンクが切れた持続的な人-人感染(地域内感染伝播)は記録されていない、としている。


 上記のごとく、米国での季節性インフルエンザサーベイランスにおいて、新型のA/H1N1swlが混在しつつある状況は、いずれの地域でもみられる可能性があり、一例でも確定例が出ている国では、感染のリスクが存在する。地域内感染伝播の認められている地域では、そのリスクはより高くなっていると考えられるが、軽症例が増加していることや、国による受診行動の違いにより、必ずしもすべての症例が把握されているかどうかは不明であり、国ごとの地域内における感染伝播の評価は非常に難しいと考えられる。インフルエンザ様症状のある患者の診断に当たっては、現状の新型インフルエンザA/H1N1swlの状況では軽症例や無症候性感染も含まれることが考えられ、かつ発症の一日前から感染性があることを考えれば、更に広い範囲で感染伝播が見られる可能性もあり、また航空機内や乗り継ぎの空港などで偶然感染することもあり得るので、臨床所見と検査所見をあわせた総合的な判断が必要である。


現状の新型A/H1N1swlに関する評価

 WHOは、これまでに判明している状況から、インフルエンザパンデミックの深刻度の評価(http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009who/090511assess_severity.html)を公表したが、同じく、The WHO Rapid Pandemic Assessment Collaborationは、Scienceに、Pandemic potential of a strain of influenza A(H1N1): Early findingsを発表した。この報告では、メキシコでの発生、国際的な伝播の初期データ、そしてウイルス遺伝子の多様性を分析し、感染性と重症度について早期の評価結果を示している。

 一人の感染者からその感染性を有する期間全体で感染させる平均的な人数である基本的再生産数(R0)は感染性の重要な尺度であり、現在利用可能なデータから複数の方法で推定することができる。

 まず、指数的な増加を仮定し、その患者増加率を累積の感染者数と、推定された流行開始日と流行規模から推測すると、La Gloriaでの流行の開始を2月15日とすると、R0は地理的なback calculationのモデルによって1.24-1.36になる。またインフルエンザのこれまでの推定された世代の期間の分布を事前分布と仮定し、ベイズ法を用いた集団遺伝学的分析によるとR0は事後的な中央値1.22,95%信頼区間[1.05,1.60])となる。第3に、R0は流行の動向から推定することができ、メキシコ政府によるLa Gloriaの流行調査から、臨床的な罹患率は年齢によって大きく異なり、15歳以下では61%であるが15歳以上では29%まで低下する。La Gloria全体での罹患率は過去のパンデミックとほぼ同じか高い。La Gloriaのデータに年齢によって感受性が異なり、また年齢によって接触対象が異なる疫学モデルを適用すると、最尤法によって推定されたR0は1.58,95%信頼区間[1.34,2.04]である。第4に時間に依存した基本的再生産数を、メキシコにおける確定例の報告の時系列から推定することができるが、これらのデータはサーベイランスの変更や、おそらくは同時に広がっている季節性のインフルエンザと症状が同じであるという非特異性から大きな不確実性を含んでいる。しかし、大幅に報告漏れがあること、またサーベイランスが強化された4月17日以降報告漏れが改善したこと考慮して開発された分析モデルによると、メキシコにおける再生産数は4月まででポアソン推定法で1.37,95%信頼区間[1.24,1.59] 、おそらく分散が大きいためにより望ましい負の二項分布推定では1.47,95%信頼区間[1.21,1.88]であった。

 以上の結果から、感染性は季節性のインフルエンザよりも着実に高く、過去に起こったインフルエンザパンデミックにおけるR0の低い方の推計値とは相応なものであると結論されている。


 致死率(Case Fatality Rate: CFR)については、確定例のWHOへの公式な報告に基づけば、これまでのところ、米国では0.1%、メキシコでは2.7%、カナダでは0.3%、全体では1.2%(61/5251)とされている。但し、これは分母の数が大きく影響しているので、これをもって現在の重篤性の指標にはできないと思われる。

 本論文では、メキシコにおける4月30日までの9例の確定、92例の疑いの死亡に基づき、感染から確定まで、あるいは感染から死亡までの期間が似通っていると仮定すれば、Interval-censored case count モデルから、確定死亡、疑い死亡のデータからは、CFRは0.3-0.6%と推計できる(確定死亡だけでは0.03-0.06%)。他の方法、より悲観的なcountry presence/absenceモデルを使用すれば、確定死亡と疑い死亡からは0.8-1.5%(確定死亡だけでは0.08-0.15%)と推計できる。この推計は現在すでに新たなデータが利用可能で、すでに変わっているが、それ以前のデータとしてここに報告されている。またLa Gloriaのデータを用いて推計すると、確定死亡は1例、この一例以外の616例の死亡のうちH1N1感染によるものがこれ以上なければ、CFRの95%CIは0-0.6%、あと一例あれば、0.04-0.9%となると報告されている。

 重篤性については、軽症例や不顕性感染例など相当なことが不確実のままであり、この論文後も新たなデータも利用可能になり、今後も継続的な評価が必要であるが、本論文では、臨床的な重篤さは1918年スペイン型インフルエンザに見られたものよりも軽く、1957年アジア型インフルエンザに見られたものと同程度と考えられると結論されている。






(2009/5/13 IDSC 更新)


 * 情報は日々更新されています。各ページごとにブラウザの「再読み込み」「更新」ボタンを押して最新の情報をごらんください。

Copyright ©2004 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.