国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ



新型インフルエンザA(H1N1)の流行状況−更新5

          
2009年5月11日

国立感染症研究所 感染症情報センター

 2009年5月11日午前9時00分(日本時間)現在、WHOからの発表情報、国際会議における情報、米国CDCからの発表情報、各国政府などの情報から、以下に現状をまとめる。ただし、現時点では系統的に集められたデータに乏しく、記述的な情報も含まれるため、現時点での暫定的なまとめであり、今後科学的なデータが出るにつれて変化していくものである。


全体の疫学状況

 WHOによると、2009年5月11日午前9時00分(日本時間)現在、世界29カ国において新型インフルエンザ(Swine-origin influenza A/H1N1)感染の確定例4,379例が報告されており、内訳は米国(2254:米国政府によると2532)、メキシコ(1626)、カナダ(280:カナダ政府によると284)、スペイン(93:スペイン政府によると95)、英国(39:英国政府によると55)、フランス(12:フランス政府によると13)、ドイツ(11)、イタリア(9)、コスタリカ(8)、イスラエル(7)、ニュージーランド(7)、ブラジル(6)、日本(4)、韓国(3)、オランダ(3)、パナマ(3:パナマ政府によると15)、エルサルバドル(2)、香港(1)、オーストリア(1)、スイス(1)、デンマーク(1)、アイルランド(1)、オーストラリア(1)、コロンビア(1)、ポルトガル(1)、グアテマラ(1)、スウェーデン(1)、アルゼンチン(1)、ポーランド(1)である。WHO情報に基づく死亡総数は49例(CFR:1.1%)であり、メキシコから45例(CFR:2.8%)、米国から2例(CFR:0.1%)、カナダから1例(CFR:0.4%)、コスタリカから1例(CFR:12.5%)が報告されている。現在までに得られている情報としては、メキシコ以外の死亡例では、それぞれ、先天性の筋・心疾患、慢性的な免疫疾患を有する女性の妊娠、慢性気管支喘息、糖尿病、慢性的な心疾患などの背景を有していた。新たな発生国として、同時刻でWHO情報には含まれていないが、ノルウェー政府からの情報として同国に2例の新規発生がある。

 これらのうち、国内(地域内)での感染伝播を、「確定例が報告されていて、かつ渡航歴がなく、その感染源を追うことのできない確定例が1例以上報告されている地域」とすると、報告されている限りでは、米国1)2)およびメキシコ3)において、地域内感染伝播が存在している地域があると考えられる。カナダにおいては患者数の増加と共に、アルバータ州4などから地域内伝播を疑わせる情報が伝えられている。国内で人-人感染が確認されているのは、上記のメキシコ、米国、カナダに加え、英国、ドイツ、スペイン、韓国の計7カ国である。英国では確定症例が55例(同国政府発表)と急速に増加しているが、主として学校における感染伝播が推定されている。5月10日現在、ECDC(European Centre for Disease Prevention and Control)は欧州連合(European Union: EU)および欧州自由貿易連合(European Free Trade Association: EFTA)地域内の3カ国における36例の人-人感染を報告しているが(院内感染が発生したドイツ2例、家族内感染が発生したイタリア2例、詳細が不明なスペイン9例、濃厚接触者との接触を中心に学校での感染が多い英国23例)、5月10日08時現在(CEST)、疫学的リンクが切れた維持的な人-人感染(地域内伝播)は記録されていない、としている5

 1)  MMWR April 24, 2009 / 58 (Dispatch);1-3、ハワイ州DOHホームページ情報を含む。
 2)  ニューヨーク市当局より高等学校によるアウトブレイクと他の学校への波及が報告されている。
 3)  メキシコ当局より地域的な流行が報告されている。

 4)  カナダ・アルバータ州ホームページ情報などによる。
 5) ECDC situation report update 10 May 2009、による。

 尚、一例でも確定例が出ている国では、感染のリスクが存在するが、地域内感染伝播の認められている地域では、そのリスクはより高くなっていると考えられる。しかしながら、軽症例が増加している情報により、必ずしもすべての症例が把握されているかどうかは不明であり、国ごとの地域内における感染伝播の評価は非常に難しいと考えられる。インフルエンザ症状のある患者の診断に当たっては、現状の新型インフルエンザ(Swine-origin influenza A/H1N1)の状況では軽症例や無症候性感染も含まれることが考えられ、かつ発症の一日前から感染性があることを考えれば、更に広い範囲で感染伝播が見られる可能性もあり、また航空機内や乗り継ぎの空港などで偶然感染することもあり得るので、臨床所見と検査所見をあわせた総合的な判断が必要である。


わが国における状況

 
5月11日午前10時までの状況として、5月8日にカナダ(オンタリオ州)から米国(デトロイト)経由で帰国した大阪府の高校生男性3名・40代男性教師1名において、新型インフルエンザウイルスが検出され、わが国における初の患者として確定している。これまでのところ、いずれも症状は発熱・咳等であったが適切な治療が行われ、徐々に軽快しつつある。現時点で、確定患者を除く、学校関係者32名・乗客14名・乗務員2名に最長10日間の停留が開始されている。航空機同乗者のうち、停留例に含まれない者154名について、3名の外国人を除き、各自治体等において健康観察が実施されている。

 11日10時現在で、感染症発生動向調査に関連して疑い症例調査支援システムに入力された情報では、新型インフルエンザ疑似症の報告は、全部で15例であった。結果については5例程度が否定の情報が入力されているが、最新の2例を除くすべての例で、いずれも地方衛生研究所あるいは国立感染症研究所において新型インフルエンザは否定されたとの情報を得ている。なお、このシステムへは、検疫所からの情報は含まれていない。今後、国内において新型インフルエンザが疑われた例の検査および確定情報の一元化は課題の一つである。

 検疫所における水際の対応が有効に働いた結果、国内への新型インフルエンザの侵入を未然に防げたことが評価される一方で、この体制をいつまで維持するか、維持可能かという議論が今後重要になってくることは、更新情報4(http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009idsc/09idsc4.html)においても述べた。日本との交流が盛んな北米大陸の国々を中心に、世界における患者発生数は4000例を超えており、また、病原性の観点からも、積極的な検査体制が組まれていない可能性が高い地域が少なくない。今回の空港検疫における検出例でも、確定患者を含む生徒・教員の一行が滞在したカナダ・オンタリオ州ハルトン地域からは、5月5日以降の患者発生の報告があり、9日までに累計4名の確定患者が報告されているが、生徒グループの周辺に新型インフルエンザ患者発生が確認されているという状況では無かったようである。今後、市中で感染し、潜伏期間にある状態で入国し、地域内で患者(および集団発生)として発生する状況をいかに迅速に検出し、対応出来るか、ということが重要となってくる。そのための、国内におけるインフルエンザ様疾患等の集団発生(クラスター)を検出し調査する体制、および重症のウイルス性肺炎例などを確実に把握し検査する体制の構築が重要であり、準備を急ぐ必要がある。




(2009/5/11 IDSC 更新)


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