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高病原性鳥インフルエンザ



新型インフルエンザA(H1N1)感染で入院した患者−
カリフォルニアー2009年4月〜5月

     MMWR May 22, 2009 / 58(19);536-541(原文

5月18日、この報告書はMMWRのウェブサイトにEarly Releaseとして
掲載された(http://www.cdc.gov/mmwr


 2009年4月15日と17日に最初の2例の新型インフルエンザA(H1N1)感染がカリフォルニア州の南部2郡で見つかって以来、新型インフルエンザA(H1N1)感染例が世界的に報告されてきているが、ほとんどの症例はアメリカ合衆国とメキシコで発生している[1-3]。アメリカ合衆国では、新型インフルエンザA(H1N1)感染者の症状に関する初期の報告によれば、大半の人が入院を必要とせず、一般に基礎疾患のある人の間でごくまれに死者が出るような、季節型インフルエンザと重症度において同等であるとみられている[2,3]。5月17日現在、カリフォルニアの61の地方保健管轄区のうちの32から333名の確定例と220名の疑いが濃厚な例(probable case)の合計553名の新型インフルエンザA(H1N1)症例が報告されている。553人の患者のうち30名が入院している。カリフォルニアでは新型インフルエンザA(H1N1)感染による死者は出ていない。本報告では5月17日までに入院し、病状の重症度の詳細と潜在的なリスク因子を記載した4人を含む30人の入院症例についてまとめるこの予備的なまとめによれば、大半の新型インフルエンザA(H1N1)感染患者が合併症もなく回復しているが、何人かの患者は重症で病気が長引いている。すべての新型インフルエンザA(H1N1)感染の入院患者は注意深く経過観察をし、発症48時間以後に医療機関を受診した者を含めて抗ウイルス薬の投与を受けるべきである[4,5]。


入院患者のまとめ

 2009年4月20日より、カリフォルニア公衆衛生局(California Department of Public Health)とインペリアル・サンディエゴ両郡の地方衛生部は、病院の感染対策専門家と協力して,両郡の全ての病院(25施設)へ入院した新型インフルエンザA(H1N1)の検査確定患者および疑わしい(probable)症例に対する強化サーベイランスを開始した。3日後の2009年4月23日、カリフォルニア州公衆衛生局はこのサーベイランスを州全域に拡大した。症例は、疑いが濃厚(probable、ヒトインフルエンザH1あるいはH3亜型と判定出来ない、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ反応(rRT-PCR)でインフルエンザA型が検出されることと定義)、ないしは、確定例(Confirmed、CDCプロトコルのrRT-PCR法で新型インフルエンザA(H1N1)陽性と定義)と報告された。カリフォルニアでの型不明の検体のうち96%が、CDCまたはカリフォルニア州公衆衛生局のウイルス・リケッチア実験室(VRDL)によって、新型インフルエンザA(H1N1)と確認された。

 
この報告で、入院例とは新型インフルエンザA(H1N1)の確定例および疑いが濃厚な症例で、24時間以上の入院をした患者である。30例の入院患者のうち、26例は確定例で4例は疑いが濃厚な症例である(確認検査は進行中である)。発症時期は4月3日から5月9日である。報告例は大半がカリフォルニア州南部と中部に位置する11の郡からのものである。最も患者が多いのは、サンディエゴ郡とインペリアル郡の15人(50%)である。人種が判明している26人のうち17人(65%)はヒスパニックである。30人の患者の年齢は、27日から89歳で、平均年齢は27.5歳である。21人(70%)が女性である。4人(13%)は発症前7日間にメキシコに旅行していた。豚や新型インフルエンザA(H1N1)確定患者への曝露があったと報告されている人は30人中ひとりもいなかった。

 最も多く認められた入院時の診断症状は肺炎と脱水であった。19人(64%)が基礎疾患を有していた。最も多かったのが慢性肺疾患(例えば、喘息、慢性閉塞性肺疾患[COPD])、免疫抑制に関連する状態、慢性心疾患(例えば、先天性心疾患、冠動脈疾患)、糖尿病、そして肥満である。最も多かった症状は発熱、咳、嘔吐、息切れであった。下痢は多くなかった。胸部X線検査を受けた25人中、15人(60%)が肺炎を疑う異常所見が認められ、そのうち10人は多肺葉性の浸潤、5人は単肺葉性の浸潤が認められた。6人の患者が集中治療室(ICU)に収容され、4人が人工呼吸器による換気を必要とした。5人の患者が妊娠中であった。このうち2人は自然流産や早期破水(胎児はそれぞれ13週と35週)などの合併症を併発した。

 病院でインフルエンザA型の検査を行った24人の患者のうち、16人が迅速抗原検査で陽性、5人が陰性であった。3人は他の方法(2人は直接免疫蛍光抗体法、1人は培養法)で陽性であった。30人の患者のうち誰一人として、血液、尿、喀痰の培養(挿管している患者の場合には気管内吸引物または気管支肺胞洗浄液の培養)で二次性細菌感染を示す証拠が示されなかった。15人(50%)がオセルタミビルの抗ウイルス剤投与を受けた。そのうち5人は症状が出てから48時間以内に投与された。抗ウイルス剤投与を受けなかった15人の中で、6人が発症後48時間以降に医療機関を受診した。既往歴の情報が得られた22人中6人 (27%)が季節型インフルエンザワクチンの接種を受けていた。5月17日までに23人の患者は退院している。平均入院日数は4日である(1-10日の範囲)。7人の患者が入院中で、その平均入院日数は15日である(4-167日の範囲)(表1と2)
表1. 新型インフルエンザA(H1N1) 感染入院患者30人の臨床像
表2.新型インフルエンザA(H1N1) で入院した30人の患者の詳細な臨床像


症例報告

患者3. 生後5ヶ月の女児。2008年12月上旬に27週で早産にて出生し、子宮内成育遅延、動脈管閉塞症および心室中隔欠損を伴う先天性心疾患を持っていた。この新生児は生後に新生児ICUで気管支肺異形成症、長期の人工呼吸を必要とする呼吸逼迫症候群、複数回のステロイド治療、複数回の臨床的敗血症と肺炎、慢性貧血と血小板減少などの複雑な入院経過をたどっていた。生後5ヶ月目には、人工呼吸器から離脱し、高流量鼻カニューレ酸素により良好な状態を保っていた。しかし、入院150日目に乾性の咳と発熱をきたし、胸部X線検査で右肺に新たな浸潤を認め、やがて両肺野の完全混濁をきたした。何回かの血液、尿、痰の培養検査では感染については不明であったが、迅速抗原検査でインフルエンザA型陽性であった。その後カリフォルニア公衆衛生局のウイルス・リケッチア実験室で新型インフルエンザA(H1)と確認された。新生児の感染源については引き続き調査中である。この新生児は再び気管内挿管を行い、発熱の3日後から広域抗生物質とオセルタミビル2mg/kgを12時間ごとに投与された。5月14日の時点で患者は重篤な状態で入院中である。

患者16.29才の健常であった妊婦。妊娠28週で、4月26日に自覚的な発熱、湿性咳, 10日前からの息切れの増悪を訴えて救急外来を受診した初診時の評価として、患者のバイタルサインは微熱(37.6℃)、呼吸数38/分、血圧112/57mmHg、脈拍104/分、酸素飽和度はルームエアで87%であった。胸部X線像で縦隔リンパ節腫大を伴う両側性の肺門間質浸潤が認められた。血算と血液生化学検査については、42%の分葉核球と45%の桿状球および9%のリンパ球といった分画を伴う白血球数増加(11.4/mm3)を除いては正常であった。患者はICUに移り、広域の抗生物質(アジスロマイシンとセフトリアキソン)投与を開始した。何回かの胎児超音波診断は正常であった。何回かの血液、尿、痰の培養検査では感染は不明であったが、迅速抗原検査はインフルエンザA型陽性であった。その後カリフォルニア公衆衛生局のウイルス・リケッチア実験室で新型インフルエンザA(H1N1)と確認された。患者は抗ウイルス剤の投与を受けなかった。患者は次第に回復し、9日後にアモキシリン投与を中止した。

患者18. 閉塞性睡眠時無呼吸の履歴のある32才の男性。3日間の発熱、悪寒および湿性咳の症状で、5月5日に救急外来を受診した。患者はこの2週間、目まいの訴えに対して副鼻腔炎の診断でアモキシシリンを内服していたと述べていた。患者のバイタルサインとしては体温37.3℃、血圧89/58mmHg、脈拍84/分であった。胸部の理学的所見では、両肺のエア入りは良好であったが、胸部X線像は両肺野に浸潤を認めた。血算と血液生化学検査については、94%の多核好中球と4%のリンパ球を含む、白血球数増加(13.8 /mm3)を除いては正常であった。動脈血液ガス検査では呼吸性アシドーシスとルームエアでpO2 80mmHgの低酸素血症が認められた。患者はICUに入院となり、経験的広域抗菌薬の投与を受け、翌日低酸素血症の悪化に伴い気管内挿管が必要となった。当初の微生物学検査とインフルエンザ迅速抗原検査では陰性であったが、入院第2病日には患者にオセルタミフルの投与が開始された。迅速抗原検査と気管支肺胞洗浄液のウイルス培養が繰り返され、インフルエンザA型陽性、引き続いて新型インフルエンザA(H1N1)と確認された。患者は回復し、入院第5病日に抜管され、入院10日後に退院した。

患者29. 87歳の女性。最近診断された乳ガン(恐らく腹部への転移)、高血圧、糖尿病、冠状動脈疾患, 脳血管疾患、慢性腎不全、肥満などの持病があり、娘に意識不明状態で発見され、4月21日に救急外来に搬入された。患者は受診2日前から発熱、咳、衰弱気味を呈し、あらたに起座呼吸と両足の浮腫を訴えた。患者は車椅子を使用し、最近の旅行の履歴は無く、病人との明瞭な接触歴も無かった。患者は緊急処置室では発熱はなく、血圧57/39mmHg、脈拍57/分、呼吸数14/分、酸素飽和度はルームエアで87%であった。心電図で非Q波性心筋梗塞が疑われた。胸部X線像で両肺野の肺炎と著明な心肥大を伴ううっ血型心不全を認めた。検査異常としては白血球数増加(13.4/mm3),軽度の貧血(ヘマトクリット34%)、軽度のクレアチニン上昇(1.8mg/dL),アラニンアミノトランスフェラーゼ(36単位/L),アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(160単位/L)上昇、著明なトロポニン(29.43ng/mL)とクレアチニンキナーゼ(653IU/L)上昇であった。患者は呼吸停止となったため、気管内挿管し、低量のドーパミン投与を開始し、心筋梗塞、うっ血性心不全、肺炎、敗血症の疑いでICUに入院した。胸部CTでは、右中葉の完全な無気肺と両側性に上肺葉にスリガラス状陰影、そして両側性胸水を認めた。気管支鏡検査で右下肺葉の気管に大きなカリフラワー状の塊が認められた。何回かの血液、尿、痰の培養検査では感染は不明であったが、迅速抗原検査ではインフルエンザA型陽性であった。その後カリフォルニア州公衆衛生局のウイルス・リケッチア実験室で新型インフルエンザA(H1N1)と確定された。患者は入院継続中であるが、重篤な状態で集中治療中である。

報告者:J Louie, MD, K Winter, MPH, K Harriman, PhD, D Vugia, MD, C Glaser, MD, B Matyas, MD, D Schnurr, PhD, H Guevara, MS, CY Pan, E Saguar, R Berumen, E Hunley, S Messenger, PhD, C Preas, D Hatch, MD, G Chavez, MD, California Dept of Public Health. P Kriner, MPH, K Lopez, MD, Imperial County Public Health Dept; D Sunega, D Rexin, San Diego County Health and Human Svcs; Los Angeles County Swine Flu Surveillance Team, Los Angeles County Dept of Public Health; S Roach, J Kempf, Tulare County Health and Human Svcs Agency; R Gonzalez, L Morgan, MPH, San Bernardino County Dept of Public Health, California. N Barnes, MS, L Berman, MS, S Emery, MPH, B Shu, MD, KH Wu, PhD, J Villanueva, PhD, S Lindstrom, PhD, Influenza Div; D Sugarman, MD, M Patel, MD, J Jaeger, MD, E Meites, MD, N Dharan, MD, EIS officers, CDC.


編集者註

 
カリフォルニアにおける新型インフルエンザA(H1N1)感染の入院患者の初期のサーベイランス結果は、大半の患者が短期間で退院していることを示している。慢性疾患のない健康であった患者は合併症も無く、平均2.5日の入院期間(1-7日の範囲)で回復した。3分の1の入院患者は胸部X線検査で多肺葉性の浸潤が認められたが、わずか9%の患者がオセルタミフルの治療を受けただけだった。にもかかわらず大半の患者で良好な結果が得られた。 5人の妊婦のうち、2人が後遺症を発症した。しかしながら、その後遺症に関して先行する新型インフルエンザA(H1N1)感染がどのような役割を果たしたかは不明である。

 カリフォルニアにおける入院患者のうち数名は重い症状を呈し、入院が長引いている。ICUで治療を受けたカリフォルニアの6人の患者のうち3人は、引き続き集中治療を必要としていることが注目される。超高齢であることや、複合して衰弱化させる基礎疾患などが、これらの患者の重症度と関係しているのかもしれない。慢性基礎疾患と妊娠は、従来から季節型インフルエンザでの合併症のリスクを高めることと関係しているとされているが[6]、軽度の慢性肺疾患を持つ比較的健常な1人の患者(患者18)が集中治療と人工呼吸を必要とした。どの年代が新型インフルエンザA(H1N1)感染後に入院や後遺症の危険度が高いかについては、より多くのデータが必要である。

 5月15日までにカリフォルニア公衆衛生局の実験室に送られた約11.600の臨床検体のうち、9%がrRT-PCRでインフルエンザA陽性であった。そのうち、季節型インフルエンザの比率はA/H1が23%で、A/H3が28%であった。この結果はカリフォルニアでは季節型インフルエンザが持続して流行しており、インフルエンザ様症状や迅速抗原検査の陽性結果の原因となっていると思われる。この調査では迅速抗原検査で検査された症例の67%が陽性と出ているが、カリフォルニア州公衆衛生局のウイルス・リケッチア実験室が主に外来患者の検査で確認した事例では、偽陽性と偽陰性が良く見られている。従って、カリフォルニア州公衆衛生局はrRT-PCR法での検査の重要性を強調している。カリフォルニア州公衆衛生局はまた、rRT-PCR検査、サブタイピングそしてその他の検査のために、カリフォルニアの医師に対して発熱性の呼吸器疾患で入院または死亡した患者の呼吸器検体を収集することを推奨している。

カリフォルニアの検査ガイドラインについての情報はhttp://ww2.cdph.ca.gov/programs/vrdl/pages/diagnostictestingforswineinfluenzaA(H1).aspx. を参照のこと。新型インフルエンザA(H1N1)治療ガイダンスとその他のCDC勧告はhttp://cdc.gov/h1n1flu/guidanceを参照のこと。


参考文献

1. CDC. Swine influenza A (H1N1) infection in two children?southern California, March?April 2009. MMWR 2009;58:400-2.

2. Dawood FS, Jain S, Finelli L, et al. Emergence of a novel swine-origin influ-enza A (H1N1) virus in humans. N Engl J Med 2009;361[online].
Available at http://content.NEJM.org/cgi/content/full/nejmoa0903810.

3. CDC. Outbreak of swine-origin influenza A (H1N1) virus infection?Mexico, March?April 2009. MMWR 2009;58:467-70.

4. CDC. Novel influenza A (H1N1) virus infections in three pregnant women-United States, April-May 2009. MMWR 2009;58:497-500.

5. McGeer A, Green KA, Plevneshi A, et al; Toronto Invasive Bacterial Diseases Network. Antiviral therapy and outcomes of influenza requiring hospitalization in Ontario, Canada. Clin Infect Dis 2007;45:1568-75.

6. CDC. Prevention and control of influenza: recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP), 2008. MMWR 2008;57(No. RR-7).



(2009/6/1 IDSC 更新)

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