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高病原性鳥インフルエンザ
3人の妊婦での新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染-アメリカ合衆国 2009年4月-5月
MMWR Vol. 58 No. 18(2009年5月12日号) CDC(原文

 CDCは2009年4月15日と17日に、アメリカ合衆国において最初の新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスによる呼吸器感染症の症例を確認した(1)。季節性インフルエンザの流行及び過去のパンデミックの期間に、妊婦はインフルエンザに関連する合併症のリスクが高くなっていた(2-5)。さらに、妊娠期のインフルエンザ感染とそれに付随する高熱は、胎児に先天異常及び早産のようなリスクを与える(6)。新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染のサーベイランスの一環として、CDCは新型ウイルスに感染した妊婦のサーベイランスを開始した。5月10日現在、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスに感染した妊婦症例は、15人の確定症例(confirmed case)*よび5人の感染の疑いが濃厚な症例(probable case)*を含む合計20人報告された。データが利用可能な7州13人の女性に関しては、年齢の中央値は26歳(15-39歳)で、3人の女性が入院し、1人が死亡した。この報告は、妊娠期の女性で新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染の3症例の暫定的な調査結果である。新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が確定、疑いが濃厚、または疑わしい(suspected)妊婦は、5日間の抗ウイルス薬投与を受けるべきである。オセルタミビル(訳註:商品名タミフル)が妊婦に対して望ましい治療であり、治療は可能な限り発症48時間以内に開始すべきである。新型インフルエンザA(H1N1) 感染が確定、疑いが濃厚、または疑わしい人との濃厚接触がある妊婦は、ザナミビル(訳註:商品名リレンザ)またはオセルタミビルの10日間の予防投与を受けるべきである。

*:症例定義はhttp://www.cdc.gov/h1n1flu/casedef.htmにある


症例報告

 患者A.4月15日、前日から筋肉痛、乾性咳そうおよび微熱を呈した33歳で妊娠35週の女性が、かかりつけの産婦人科を受診した。女性は、乾癬と軽度の喘息がある以外は比較的健康状態はよく、妊婦用ビタミン剤以外の処方は受けていなかった。患者はメキシコへ最近の渡航はなかった。診療所で迅速インフルエンザ診断検査を行い、陽性であった。

 4月19日、女性は、息切れの憎悪、熱および喀痰を伴う咳があり、地域の救急外来で診察を受けた。女性はroom airにて酸素飽和度約80%、呼吸数約30回/分で、重症の呼吸困難を呈していた。胸部X線では,両側結節性の浸潤影を示していた。患者は気管内挿管を必要とし、人工呼吸管理下におかれた。4月19日に、緊急の帝王切開手術が行われ、その結果、女児を出産した(アプガースコアは、1分後4点、5分後6点)。児は健康で、退院した。4月21日、患者は急性呼吸促迫症候群(ARDS)になった。4月28日に、オセルタミビルの投与を開始した。女性は、広域抗菌薬投与も併用され、人工呼吸管理が継続された。患者は5月4日に死亡した。

 4月25日に、患者あから採取された鼻咽頭スワブ検体が、サンアントニオ都市圏衛生研究所にてリアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(rRT-PCR)で亜型不明のA型インフルエンザ株を示した。検体はCDCのインフルエンザ部門のウイルスサーベイランスおよび診断室に送られ、そこで行われた検査は新型インフルエンザA(H1N1)に対して結論が出なかった。4月30日、鼻咽頭検体が再度採取され、CDCにおいてrRT-PCRにより新型インフルエンザA(H1N1)陽性となった。

 患者B.4月20日、35歳で妊娠32週の健康な女性が、前日からの息切れ、熱、咳、下痢、頭痛、筋肉痛、咽頭痛、および吸入時の胸部痛の症状を訴えて地域の救急外来で診察を受けた。女性は発熱(華氏101.6度 [摂氏38.7度])、心拍数128回/分、呼吸22回/分、room airでの酸素飽和度>97%であった。胸部レントゲン写真は正常であった。迅速インフルエンザ診断検査は陰性であった。患者は非経口の非ステロイド系抗炎症薬、アセトアミノフェンと吸入アルブテロールを処方され、帰宅した。女性は翌日、かかりつけの産婦人科にて鼻咽頭スワブのサンプルを採取され、検体はrRT-PCR検査にまわされた。患者は抗菌薬、吐き気止め、アセトアミノフェン及び吸入コルチコステロイド剤を処方された。患者は完全に回復し、妊娠経過も正常である。

 患者Bは、救急外来を受診する前に3日間メキシコに滞在していた。最近、家族のうちメキシコやアメリカ合衆国の数名にインフルエンザ様疾患を呈したものがあり、女性の女のきょうだいがその前の週に肺炎で入院していた。4月21日に患者Bから採取された鼻咽頭スワブ検体の検査は、サンディエゴの海軍ヘルスリサーチ研究所で実施されたrRT-PCR検査にて、亜型不明のインフルエンザA型を検出した。CDCでの追加検査で、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染と確認された。

 患者C.4月29日、29歳の妊娠23週の女性が、前日からの咳、咽頭痛、寒気、熱感、衰弱があり、妊婦健診を受けている家庭医を受診した。患者は喘息の既往歴があるが、喘息の治療は受けていなかった。報告によると、女性が発症する前の週に10歳の息子が同様の症状を呈していた。7歳になるもう一人の息子は、母と同じ日に発症し、母と一緒に診療所を受診した。診療所で下の子は頻回な咳があり、診療所の職員によってマスクの着用を促された。この家庭医の診療所における患者Cの鼻咽頭検体の迅速インフルエンザ診断検査は、陽性であった。女性はオセルタミビルを処方され、女性は同日遅くに服用を開始した。女性の症状は合併症なく快方に向かい、妊娠も順調である。

 患者Cは最近メキシコへ渡航していなかった。7歳の息子も4月29日にオセルタミビルを処方されたが、インフルエンザの検査は行われなかった。患者Cを診察した医師もまた妊娠していた (妊娠13週)。その医師はオセルタミビルで予防投与を開始し、今のところ無症状である。

 4月29日に採取された患者Cの鼻咽頭スワブは、ワシントン州公衆衛生研究所で検査され、亜型不明のインフルエンザA型株を検出した。CDCでの追加検査で、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染と確認された。

編集記:

本報告は、妊婦での新型インフルエンザA(H1N1)の3症例の暫定的な詳細情報を提供するものである。3人の妊婦症例に関する追加情報及び本疾患に感染した他の妊婦の情報は、州の保健部局からの報告に基づいてCDCによってとりまとめ中である。本報告で示された3人の妊婦は全員、他の妊婦でない感染した女性の臨床症状と同様の急性熱性呼吸器疾患の症状で発症した。1人の患者(患者A)はARDSを発症し、死亡した。新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスに感染した妊娠していない患者において最もよく報告される症状は、熱、咳および咽頭痛であった (1)。

 新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染の合併症に対して誰が最もリスクが高いのかを決定するにはデータが不十分であるが、季節性インフルエンザの流行(2,3)および過去のインフルエンザのパンデミック(4,5)においては、一般的に、妊娠していない女性と比べて妊婦はインフルエンザに関連する罹患および死亡のリスクが高いことが知られている。合併症のリスクの増大は、妊娠中に発生するいくつかの生理的変化に関連があると考えられており、それには心血管、呼吸器及び免疫系の変化などがある(7)。喘息のような慢性疾患のある妊婦はインフルエンザに関連する合併症のリスクが特に高い(2)。妊婦はインフルエンザの合併症のリスクが高いので、予防接種実施諮問委員会及びアメリカ産婦人科学会は女性に対して3価の不活化インフルエンザワクチン接種を推奨している(8)。


 循環している新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスは、ノイラミニダーゼ阻害抗ウイルス薬のオセルタミビル及びザナミビルに感受性がある(1)。外来患者におけるプラセボを対象とした無作為試験では、これらの薬剤を発症から48時間以内に開始すれば、季節性インフルエンザの重症度と症状のある期間を低下させ、また限られた季節性インフルエンザの入院患者間の観察研究データではあるものの、発症後48時間を過ぎてから服薬開始した時でさえ、オセルタミビルが死亡を減らすことを示している(8)。さらに、オセルタミビル及びザナミビルはインフルエンザに曝露したのちすぐに使う場合、高い発症予防効果がある(8)。妊娠中にこれらの薬剤を使用した場合の安全性または有効性に関しては、限られた情報しかない(9,10)。しかしながら、利用可能な限られた情報及び知られている妊娠中のインフルエンザ合併症のリスクを勘案して、胎児への潜在的なリスクよりもこの新型ウイルスに対して期待される抗ウイルス薬治療の効果による利益の方が上回るであろう。したがって、CDCの暫定的手引きは、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が確定、疑いが濃厚、疑わしい妊婦は、5日間の抗ウイルス薬治療**を受けるべきであるとしている。

 ザナミビルも妊娠中に利用可能であるが、オセルタミビルの方が全身的吸収の観点から妊婦への治療に関して好まれる(10)。理論的には、体内吸収が良いことは、呼吸器系以外の場所(例えば胎盤)においても、より効果的にウイルス量を抑えるかもしれないであろうし、母子感染に対して、より優れた防御作用を示すかもしれない。治療される妊娠していない女性への勧告と同様に、理想的には発症から48時間以内に、できるだけ早くオセルタミビルの治療を開始したほうが良い。さらに、例え発症後48時間を経過したとしても、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が確定、疑いが濃厚、または疑わしい状態で入院した妊婦は、オセルタミビルを投与されるべきである (8)。できるだけ早い治療開始は極めて重要である。さらに、アセトアミノフェンによる妊婦の発熱の治療は、母体の高熱が胎児及び新生児に対する悪影響と関連することがあり、重要である(6)。

 妊婦へ医療(ケア)を提供する施設を含む全ての医療施設において、患者は、最初の接触の時点で熱性呼吸器疾患の兆候及び症状をスクリーニングされるべきであり、このような患者に対しては、迅速に別の部屋に誘導され、評価されるべきである。外来患者用の医療施設及び分娩室は、呼吸器疾患のある患者及び付き添うかもしれない友人または家族に関する取り扱いの方法を策定し、実施すべきである。確定、疑いが濃厚、または疑わしい症例との濃厚接触があった妊婦は、ザナミビルまたはオセルタミビルによる予防投与を10日間受けるべきである。妊婦患者の予防投与に関して、望ましい抗インフルエンザ治療薬は定められてはいない。ザナミビルは、より全身吸収が限定されることによる利益があるかもしれないが(9)、咳あるいはひどい鼻づまりの様な呼吸器症状のある場合は、吸入投与であるため使いにくいかもしれない。患者Cを診察した産科医は、曝露後すぐに予防内服を始めた。

 重症な合併症のリスクがより高いという理由で、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスのアウトブレイクの公衆衛生対応は、妊婦に対しては特に考慮すべきである。妊婦と新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスに特化した問題に関する暫定的手引きは、http://www.cdc.gov/h1n1flu/clinician_pregnant.htmで閲覧できる。新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスに関する追加情報はhttp://www.cdc.gov/h1n1fluで閲覧できる。臨床医は、州あるいは地域の保健部局またはCDCに、妊婦の新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染症例を報告することが望まれる。

**:手引きはhttp://www.cdc.gov/h1n1flu/clinician_pregnant.htmにある

謝辞

 本報告の所見は部分的に、カリフォルニア州Imperial郡公衆衛生部S Munday医師、M Rios医師、カリフォルニア州サンディエゴ海軍ヘルスリサーチセンターのP Kammerer医師、C Myers博士及びT Hawksworth氏の貢献に基づいている。


文献

1.      Novel Swine-Origin Influenza A (H1N1) Virus Investigation Team. Emergence of a novel swine-origin influenza A (H1N1) virus in humans. N Engl J Med 2009;361. [E-pub ahead of print].

2.      Dodds L, McNeil SA, Fell DB, et al. Impact of influenza exposure on rates of hospital admissions and physician visits because of respiratory illness among pregnant women. CMAJ 2007;176:463–8.

3.      Neuzil KM, Reed GW, Mitchel EF, Simonsen L, Griffin MR. Impact of influenza on acute cardiopulmonary hospitalizations in pregnant women. Am J Epidemiol 1998;148:1094–102.

4.      Freeman DW, Barno A. Deaths from Asian influenza associated with pregnancy. Am J Obstet Gynecol 1959;78:1172–5.

5.      Harris JW. Influenza occurring in pregnant women. JAMA 1919;72:978–80.

6.      Rasmussen SA, Jamieson DJ, Bresee JS. Pandemic influenza and pregnant women. Emerg Infect Dis 2008;14:95–100.

7.      Jamieson DJ, Theiler RN, Rasmussen SA. Emerging infections and pregnancy. Emerg Infect Dis 2006;12:1638–43.

8.      CDC. Prevention and control of influenza: recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP), 2008. MMWR 2008;57(No. RR-7).

9.      Freund B, Gravenstein S, Elliott M, Miller I. Zanamivir: a review of clinical safety. Drug Saf 1999;21:267–81.

10.  Ward P, Small I, Smith J, Suter P, Dutkowski R. Oseltamivir (Tamiflu) and its potential for use in the event of an influenza pandemic. J Antimicrob Chemother 2005;55(Suppl 1):i5–21.

(2009/5/24 IDSC 更新)
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