国立感染症研究所 感染症情報センター
Go to English Page
ホーム疾患別情報サーベイランス各種情報
高病原性鳥インフルエンザ
学校でのブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染症−ニューヨーク市、2009年4月
MMWR Vol. 58 No. 17(2009年5月8日号) CDC(原文

 2009年4月24日、CDCはテキサスとカリフォルニア州におけるブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルス(Swine-origin influenza virus, S-OIV)感染確定例を8例報告した1。アメリカ合衆国の患者から分離された株は、ひきつづきメキシコの患者から分離された株と遺伝子学的に同じであることがCDCにより確認されている。4月24日以来、アメリカ(註1)をはじめ、世界各国(註2)で新型インフルエンザ感染患者数は増加している。4月28日現在、アメリカのS-OIV感染患者の約半数(45人)がニューヨーク市のある高校の学生または職員で確認されている。この報告書はニューヨーク市保健・精神衛生局(New York City Department of Health and Mental Hygiene、DOHMH、以下市保健局)による、初期のアウトブレイク調査の様子と、45名中44名の患者の詳細(1名の患者はニューヨーク市外に居住しているため調査には含まれていない)についての報告である。この調査からの暫定的な結果は、患者の症状は季節性インフルエンザと似ているということである。市保健局は今後もS-OIV感染の疫学および/または臨床症状の重症度に変化がないかどうか引き続き監視を続ける。


疫学的および検査室調査

 
4月23日、市保健局はニューヨーク市内の高校(以下A高校)からおおよそ100名の軽い(合併症のない)呼吸器疾患が発生しているとの報告を受けた。A高校は全校生徒2,686名、スタッフ228名からなる。4月23,24日の両日で222名の学生が体調不良を訴えて保健室を訪れ、そのまま帰宅している。市保健局は、4月24日にメキシコでの大規模なS-OIV(とあとになってわかったのだが)のアウトブレイクの報告を受けていたので、即座に職員をA高校に派遣し、症状のある生徒から鼻咽頭ぬぐい液の採取を試みた。4月24日(金曜日)には保健室の先生によって検知された5名の新規発症生徒と、近くの医師によって検知された4名の新規発症生徒の鼻咽頭スワブを採取した。週末の間に、月曜日の学校の臨時休校が決まった。呼吸器疾患の原因がS-OIVの可能性もあるため、4月24日を皮切りに、市保健局は体調不良を訴えて学校を早退した残りの213名の学生についても連絡を取ることを試みた。電話をした時点で症状が出てからまもない人に関しては、鼻咽頭サンプル採取のため特定の救急外来受診を指示した。市保健局はA高校の近くにある開業医に、有症状の高校の生徒や職員から検体を採取するためのキットを配布した。4月26日、市保健局によって24日に集められた9つの検体のうち7つがS-OIV陽性とCDCにより確認された。4月26日から28日の3日間に、救急外来と地域の開業医から集められた42検体のうち、88%に当たる37名のサンプルが同様にCDCによってS-OIV陽性と確定され、この時点で合計44例の新型インフルエンザ感染例を確認した。

 4月27日の時点で感染が確認されていた44名に対し、同日市保健局は電話調査を行った。患者の年齢の中央値は15歳(範囲14歳〜21歳)、1名の先生(21歳)を除いてすべて学生で44名中31名(70%)が女性、30名(68%)は白人でヒスパニック人でない人、7名(16%)がヒスパニック系、2名(5%)が黒人、5名(11%)がその他であった。また、患者のうち4名が症状発症1週間前にアメリカ国内旅行を、1名が症状発症7日前にArubaに旅行していた。テキサス州、カリフォルニア州、メキシコへの旅行者はいなかった。

 病気の発症日は4月20日から24日にかけて、10名(23%)が4月22日に、28名(64%)が23日に発症している(図参照)。高頻度に見られた症状は咳(43名、98%)、発熱(42名、96%)、倦怠感(39名、89%)、頭痛(36名、82%)、咽頭痛(36名、82%)、鼻汁(36名、82%)、悪寒(35名、80%)、筋肉痛(35名、80%)であった。嘔気(24名、55%)、上腹部痛(22名、50%)、下痢(21名、48%)、息切れ(21名、48%)、関節痛(20名、46%)は頻度が低かったものの、多くの人で共通にみられた症状である。体温の最高値を報告した35名の平均は39℃(102.2F)(範囲37.2℃〜40.0℃、99.0〜104.0F)であった。全体として、42名(95%)の患者が発熱と咳または咽頭痛の少なくとも1つの症状を報告しており、CDCのILIの症例定義を満たした。27日の調査の時点では、37名(84%)が症状は落ち着いている、または改善していると答えており、3名(7%)が悪化(このうち2名は後日改善したと報告あり)、4名(9%)が全快と答えた。1名が失神を認め入院したが、一晩経過観察ののち翌日に退院している。


強化サーベイランス

 4月26日、市保健局はオンラインによる自己申告のILIサーベイランスをA高校の学生、職員、高校にかかわる人の家族を対象に開始した。学生と職員に対してサーベイランスへのリンクを添付したeメールによって参加を呼びかけ、その後毎日催促のメールが送られた。4月27日から始まる週は、すでに市保健局、学校の間で休校するということが決定しており、積極的なサーベイランスを学校で行うことは現実的ではなかった。このサーベイランスの最終的な結果はまだ出ていないが、解析初期の段階では、ILIの定義を満たす症状を報告している学生や職員関係者が非常に多く、ILIがすでに広く拡大していることがわかる。何人かの学生は、オンライン調査で、4月20日の前の週にメキシコに旅行したと答えている(これらのうちS-OIVが確認された人はいない)。多くの人が調査を行った時点で症状を呈していた。

 市保健局はニューヨーク市在住の人を対象に、発熱を伴う呼吸器疾患(ILI)が原因で入院した重症症例を積極的にサーベイランスするシステムを開始した。4月26日、市保健局職員がニューヨーク市にある集中治療室、および小児集中治療室の設備を備える61全部の病院に電話調査を毎日行うことを開始し、重症S-OIV疑い患者の検索を行った。症例の定義は38℃以上の発熱に加え、次の症状のうち少なくとも1つを満たすものとした:急性呼吸逼迫症候群(ARDS)、肺炎、呼吸器不全。市保健局の医師が可能性例について見直し、原因がはっきりしない症例に関しては鼻咽頭ぬぐい液の採取を推奨した。検体はニューヨーク市の公衆衛生検査室にてインフルエンザAウイルスについて検査され、型が確定できなかった検体に関してはCDCに検体を郵送してさらなる検査を行った。積極的サーベイランスでは、より詳細な検査が推奨される重症入院ILI症例が毎日1〜2例程度発見された。検査結果はまだ得られていない。

 強化された受動的サーベイランスも進んでいる。医師に対しては、発熱と説明のつかない肺炎や呼吸器不全を伴った症例があった場合には市保健局に報告するよう、毎日保健アラートネットワークを通じてお願いしている。報告された症例に関しては、すべて市保健局の医師により確認され、報告した医師に連絡を取り、必要があれば鼻咽頭ぬぐい液を採取する準備を整えている。さらに、市保健局では、次のような症候群サーベイランスも行っている:救急外来に受診する発熱およびILI患者、オセルタミビルを含む抗インフルエンザ薬の売上、学校の欠席率。

図.学校での発症日別ブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染確定症例数−ニューヨーク市、2009年4月

編集記:

 
現時点において、A高校でのアウトブレイクはアメリカにおけるS-OIVの集団発生報告例では最大である。この調査結果から、季節性インフルエンザと症状が似ていることがわかった(ただし、季節性インフルエンザにおいて症状が重症化しにくい集団と分かっているが)。ハイリスク群の疾患の重症化のリスクについては未定である。ニューヨーク市における疾患の広がりについても、調査段階である。

 S-OIVに対する地域の対策策定において、市保健局はこの数年来準備してきたパンデミック対策計画の一部を、今回のニューヨーク市におけるアウトブレイクに特徴的な特性に合わせて修正した。これまでのニューヨーク市で認められる病気の広がりをもとに、市保健局は重症者患者積極的サーベイランスに力を入れた。なぜなら、ウイルスの病原性や疾患の疫学的変化を迅速に検知し、それによって抗ウイルス薬投与やコミュニティーにおける疾患の制御の手法の方針を転換することを直ちに検討しなくてはならないからである。この議論は公衆衛生検査室の能力を優先的に使用する必要性によって影響された。つまり、もしS-OIVと診断された場合、市保健局の公衆衛生的疾病コントロールに対する勧告に影響を及ぼすような臨床的あるいは疫学的特性をもつ症例の検体から優先的に検査するというものである。市保健局の現段階の最大の目的は、感染患者の重症度と、患者の疫学と臨床像の変化をいち早く捉えることである。ニューヨーク市での積極的な疾患の封じ込めは、ウイルスが外部から来たものであり、多くの場所ですでに感染の報告があることを考えれば、無謀であることは分かる。

 今現在、ニューヨーク市内の医療関係者は、市保健局より、重症で理由の説明できない発熱を伴う呼吸器系疾患を有する患者、あるいは、ILI症状は軽い(合併症を伴っていない)がILIの集団発生(ILI患者が3例以上)に関連している場合に限って、該当する患者をすべて報告するように助言されている。ニューヨーク市の医療機関は、重症で、理由の説明できない呼吸器疾患を有する者にはインフルエンザA型の検査を行うように助言されているが、ILI症状が軽い患者に対しては疾患が重篤になるリスクがある場合を除いて検査を勧めていない。市保健局は1)ブタインフルエンザウイルス感染確定例、可能性例、疑い例、あるいは重症の説明不能な発熱性呼吸器疾患でブタインフルエンザの検査結果を待っている人、あるいは2)合併症を有していない軽症のILI患者で基礎疾患(慢性心疾患、腎疾患、免疫不全など)を有し、インフルエンザ感染により疾患が重症化しやすい人に、オセルタミビルまたはザナミビルの治療を推奨している。市保健局は、軽症(合併症を伴っていない)ILIの治療は発症後48時間以内に限り推奨している。抗ウイルス薬の予防投与は1)適切な個人防護具を着用せずにブタインフルエンザ感染確定例、可能性例、疑い例にケアを提供した医療従事者、2)新型インフルエンザ感染確定例・可能性例・疑い例の無症状の家族または濃厚接触者で、インフルエンザ重症化のハイリスク群に含まれる人または医療者本人、に推奨される。軽症(合併症を伴っていない)ILIの人は症状発症後7日間、または症状消失後24−48時間でいずれか長い方、自宅にとどまり、くしゃみや咳をするときは覆い、頻繁に手洗いをするように助言されている。しかし、新型インフルエンザウイルスの検査や、推測に基づいた抗ウイルス薬を用いた治療は推奨していない。医療者のガイダンスは、市保健局の保健アラートネットワークから得ることができる(http://www.nyc.gov/health/nycmed)。市保健局によるブタインフルエンザの情報は次のサイトを参照のこと(http://www.nyc.gov/health , http://www.nyc.gov/html/doh/downloads/pdf/cd/swine_flu_faq.pdf)。

 ブタインフルエンザに対するCDCの治療と予防投与に関する暫定的な手引きはhttp://www.cdc.gov/flu/swine/recommendations.htm を、感染対策の暫定的な手引きは http://www.cdc.gov/swineflu/guidelines_infection_control.htmを参照のこと。ブタ由来インフルエンザのさらなる情報は http://www.cdc.gov/flu/swine/index.htm で得ることができる。


References

1. CDC. Swine influenza A (H1N1) infections?California and Texas, April 2009. MMWR 2009;58:437?9.

2. CDC. Update: infections with a swine-origin influenza A (H1N1) virus?United States and other countries, April 28, 2009. MMWR 2009;58:433?4.

3. CDC. Prevention and control of influenza: recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP), 2008. MMWR 2008;57(No. RR-7).

註1 アメリカでは、4月29日現在91例の確定症例が報告されていた、それには1例の死亡も含まれる(テキサス州)。州別では、以下が報告数である:New York (51), Texas (16), California (14), Kansas, Massachusetts, Michigan(各2), Arizona, Indiana, Ohio(各1)。さらなる情報はhttp://www.cdc.gov/swinefluを参照のこと。

註2 アメリカ国外では、4月29日現在、合計57例の確定症例が報告されており、それには7例の死亡も含まれる(メキシコ)。国別では、以下が報告数である:メキシコ(26)、カナダ(13)、英国(5)、スペイン(4)、ドイツとニュージーランド(各3)、イスラエル(2)、オーストリア(1)。さらなる情報はhttp://www.who.int/csr/don/2009_04_29/en/index.htmlを参照のこと。                            
   

(2009/5/18 IDSC 更新)
* 情報は日々更新されています。各ページごとにブラウザの「再読み込み」「更新」ボタンを押して最新の情報をごらんください。

Copyright ©2004 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.