国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ



医療機関における新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が
確認されたか疑われている患者のケアにおける感染対策の暫定的な指針

      アメリカ東部時間2009年5月3日午後2時 
               CDC(原文



 この文書は、医療機関(病院、長期ケア施設および外来クリニック、その他の医療提供現場)に対する暫定的な指針を提供するものであり、必要に応じて更新される。


背景

 現在までに、ヒトの新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染症例が、アメリカのいくつかの州およびメキシコの住民において確認されている(最新の表はH1N1インフルエンザのウェブサイトを参照のこと)。これらの症例に関する調査により、新型H1N1ウイルスのヒトーヒト感染が現在進行していることが示唆されている。疾患の徴候や症状はインフルエンザ様疾患―発熱、呼吸器症状(咳・咽頭痛・鼻汁)、頭痛、筋肉痛―であり、嘔吐や下痢のみられた患者もいる。予後が致死的であったものも含め、重症呼吸器疾患の症例が報告されている。

 アメリカとメキシコでヒトに感染した新型H1N1ウイルスは、以前に北アメリカで同定されていない新たなA型インフルエンザウイルスである。このウイルスは、抗ウイルス薬であるアマンタジンとリマンタジンに耐性であるが、オセルタミビルとザナミビルに感受性である。


呼吸器衛生・咳エチケットの実施

 新型H1N1を含め、医療環境におけるすべての呼吸器感染の伝播を防ぐために、感染している可能性のある人への最初の接触時点において、感染制御の方法である「呼吸器衛生・咳エチケット」*を実施すべきである。呼吸器衛生と咳エチケットは、標準予防策の一部分として感染制御実務に取り入れられるべきである。
 医療機関は、ケアを求めて施設のどこから入ってくる患者に対しても、あるいは施設で診察を受ける予約を取る患者に対しても、発熱性呼吸器疾患の徴候や症状のスクリーニングを行うしくみを確立すべきである。症状のある患者を迅速に隔離し評価を行えるような準備をしておくべきである。

* http://www.cdc.gov/flu/professionals/infectioncontrol/resphygiene.htmを参照のこと


施設における不慮の事態に備えた計画の実施

 
アメリカ合衆国における新型H1N1インフルエンザの現状は急速に進展しつつある。医療機関のスタッフは、最新の情報に関して、CDCのH1N1インフルエンザのウェブサイトや州・地域の保健部局のウェブサイトを監視すべきである。医療機関は施設における不慮の事態に備えた対応やパンデミック対応計画を実施するための計画を見直し策定するべきである。これには、患者の数の増大に対応することや、スタッフの数が減るかもしれないことに対する計画などがある。



暫定的な感染対策の勧告

 
新型H1N1の伝播が発生している(州・地域の保健部局によって提供される情報に基づく)コミュニティに患者が存在している場合、以下に述べる感染対策の勧告は、発熱性呼吸器疾患(37.8℃より高い熱に加えて以下のうち1つがある:鼻症状または鼻閉、咽頭痛、咳)の患者すべてに適応すべきである。


 もし患者が新型H1N1の伝播の発生していないコミュニティに居る場合、以下に述べる感染対策の勧告は、発熱性呼吸器疾患(37.8℃より高い熱に加えて以下のうち1つがある:鼻症状または鼻閉、咽頭痛、咳)があり、かつ以下のいずれかに該当する患者に適用すべきである:


  • 過去7日間に新型H1N1ウイルス感染の確認された症例あるいは疑わしい症例に該当する人に対する濃厚接触
  • 7日以内に1人以上の新型H1N1が確認された症例のいるアメリカまたは国外の地域に旅行した


 状況が進展するに従い、感染性のある患者を同定する疫学的リンクを使用する能力は失われ、以下に述べる勧告は発熱性呼吸器疾患のすべての患者に適用することが必要になるかもしれない。状況は監視され、ガイドラインは必要に応じて更新される。



医療機関における患者に対する感染対策

 
医療機関を訪れる患者のスクリーニングは、利用可能であれば陰圧管理の行える場所で行うべきである。


患者配置と搬送

 
新型H1N1が確認された、あるいは疑わしい症例にあてはまる患者が医療機関にケアを求めて受診してきた場合、その患者は直接個室へ搬入し、ドアは常時閉めておくべきである。患者に対応する医療従事者は、本文書にある感染対策の手引きに従うべきである。この手引きの目的のために、「医療従事者(healthcare personnel)」を、その活動が医療あるいは検査室において患者と接することのある職員、学生、契約社員、主治医、ボランティアと定義する。

 エアロゾルを産生すると考えられる手技(気管支鏡、待機的気管内挿管、吸引、ネブライザによる薬剤の投与など)を行う際は、1時間あたり612回の空気交換を伴う空気管理を行うことができる陰圧の空気感染隔離室(airborne infection isolation room, AIIR)を使用してもよい。空気は直接外に排気してもよいし、高性能微粒子空気フィルタ(HEPAフィルタ)による濾過ののちに再循環させてもよい。医療機関は、手術室、集中治療ユニット、救急部、処置室なども含めたAIIRにおける適切な陰圧機能を監視して文書に記録する。

 隔離予防策下にある患者の輸送に対する手順を守る。医療機関は、感染が疑われる患者が施設内の他の部署(放射線部や検査室)へ搬送される場合および他の施設に搬送される場合に、情報を伝達する手順が定まっていることを確認する。症状のある患者は病室の外に出る場合は分泌物を抑えるためにサージカルマスクを着用すべきであり、頻繁に手指衛生を行うよう勧められ、呼吸器衛生・咳エチケットを行うべきである。


隔離室に入室する医療従事者の制限

 
隔離されている患者の部屋に入る医療従事者は、直接的患者ケアを行う者に限定すべきである。


隔離予防策

 
患者の部屋に入るすべての医療従事者は標準予防策と接触予防策を実施し、新型H1N1に対して検査中または確定して隔離中の患者に対するケアを行う場合はそれに加えて眼の防護具を使用する。手袋やその他の器具を外した直後、およびいかなる呼吸器系分泌物に対する接触の後でも、石鹸と流水による手洗いかアルコールベースの手指消毒薬を使用する手指衛生を常に遵守する。患者の部屋に入る際には、非滅菌の手袋とガウン、および眼の防護具を着用すべきである。(医療機関における個人防護具を見よ)

呼吸器防護具

 
新型H1N1インフルエンザが確認されているかまたは疑われて隔離されている患者の部屋に入る医療従事者は、フィットテストを事前に行なった上で使い捨てのN95マスクあるいは相当の防護具(例えば強制空気浄化装置、Powered air purifying respirator)。呼吸器防護具は患者の部屋に入る時に着用しなければならない(訳注:原文では「患者の部屋に入る時に着用しなければならない」とあるが、本来、「患者の部屋に入る前に着用しなければならない」、であるべき)

 この勧告は、季節性インフルエンザに対する現行の感染対策の手引きと異なることに注意されたい。現行の手引きでは、患者ケアの際に医療従事者がサージカルマスクを着用することを推奨している。呼吸器防護具(訳注:N95マスクあるいはそれ相当以上)の使用に関する理論は、この新しいウイルスに特異的な伝播様式に関してより多くのことがわかるまで、より保守的な方法が必要とされるからである。本勧告は、2006年10月に出された「インフルエンザパンデミックの際の医療機関におけるサージカルマスクとN95マスクの使用計画に関する暫定的手引き」にも要約されている。


訪問者の管理

 新型H1N1感染に対して隔離されている患者に対する訪問者は、その患者の感情的福利やケアにとって必要な人に限定する。入院前や入院中に患者と接触した訪問者は、新型H1N1の感染源になりうる。従って、病院に入る前に急性呼吸器疾患に関する適切なスクリーニングができるよう、また、患者の部屋に居る際の個人防護具の使用やその他の防護(例:手指衛生、環境表面への接触を限定する)に関する適切な指示を行えるように、訪問のスケジュールを定めて管理する。訪問者は医療機関内での動きを制限するように指示されるべきである。

 訪問者にはガウン、手袋、眼の防護具、呼吸器防護具(N95マスク)を提供し、患者の部屋に入る前に医療従事者はそれらの使用法を教えるべきである。

予防策の期間

 隔離予防策は、発症後7日間ないしは症状の消退までのいずれか長い方の期間、継続する。

 新型H1N1感染患者は、発症の前日から発症後7日間は感染性があると考えるべきである。発症後7日以上症状が継続している人は、症状が消退するまで感染性があると考えるべきである。小児、特に若年の子供はさらに長期間、感染性があるかもしれない。

医療従事者の監視

 
新型H1N1ウイルスの伝播が発生しているコミュニティでは、医療従事者は発熱性呼吸器疾患の徴候や症状に関して毎日監視されなければならない。これらの症状を呈した医療従事者は、職場に出勤して来ず、あるいはすでに勤務中であれば患者ケア活動を止めて上司や感染対策担当者に知らせるということを、教育されていなければならない。

 新型H1N1ウイルスの伝播が発生していないコミュニティでは、新型H1N1感染の検査をされているか隔離されている患者がいる部署で働いている医療従事者は、発熱性呼吸器疾患の徴候や症状に関して毎日監視されなければならない。これには、外来部門あるいは救急部において患者と接する医療従事者が含まれる。これらの症状を呈した医療従事者は、職場に出勤して来ず、あるいはすでに勤務中であれば患者ケア活動を止めて上司や感染対策担当者に知らせるということを、教育されていなければならない。

 発熱性呼吸器疾患のない医療従事者は、業務を続行してよい。新型H1N1に無防備な曝露をしてしまった無症状の医療従事者は、抗ウイルス薬の予防内服を開始している場合は、業務を続行してよい。(新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染患者及びその濃厚接触者に対する抗ウイルス薬使用の暫定的手引きを参照のこと)


体調不良の医療従事者の管理

医療従事者は、発熱性呼吸器疾患のある場合は職場に出勤して来るべきではない。
 新型H1N1ウイルスの伝播が発生しているコミュニティでは、発熱性呼吸器症状を呈した医療従事者は、7日間ないしは症状の消退までのいずれか長い方の期間、職務から外されるべきである。

 新型H1N1ウイルスの伝播が発生していないコミュニティで、発熱性呼吸器症状を呈していて新型H1N1の患者がいる部署で働いている医療従事者は、7日間ないしは症状の消退までのいずれか長い方の期間、職務から外されるべきである。

 新型H1N1ウイルスの伝播が発生していないコミュニティで、発熱性呼吸器症状を呈していてしかも新型H1N1の患者がいる部署で働いたことのない医療従事者は、職務復帰に関する医療機関のガイドラインに従うべきである。


PPEと抗ウイルス薬の管理

 
医療機関は、N95マスクを含むPPEと抗ウイルス薬の適切な配置がなされているよう確認するための計画を実施する。


環境感染対策

 季節性インフルエンザのシーズン中に使用される定型的な清掃と消毒の方策は、新型インフルエンザH1N1の環境管理にも適用できる。衣類、器具、医療廃棄物の管理も、季節性インフルエンザの際に実施する手順に準じて行うべきである(「医療機関における環境感染対策のガイドライン、2003」を参照のこと)


医療機関へのアクセス制限

 医療機関は、発熱性呼吸器疾患の徴候や症状がある場合に直ちにスタッフに知らせる必要性などの病院の指針に関して、患者や訪問者にタイして指示をする掲示物を、病院の入り口に掲示するべきである。新型H1N1の伝播が認められるコミュニティにある医療施設は、入り口を限定すべきである。


現在の2008年〜2009年用の季節性インフルエンザワクチンの投与

 
季節性インフルエンザワクチンが新型H1N1ウイルスに対する免疫を付与するとは予想されていない。しかし、アメリカ合衆国のいくつかの地域では、季節性インフルエンザが未だに流行している。インフルエンザワクチン接種はこれらの季節性インフルエンザに有効であり、季節性インフルエンザ症例が未だに発生している地域におけるワクチン未接種の患者には接種され続けるべきである。


★N95マスクの使用は、職業安全衛生管理局(OSHA)の規制に沿った完全な呼吸器防御計画に即していなければならない。スタッフは、N95マスクの使用に対して医学的に問題がなく、フィットテストを実施し、以下に関する訓練を受けているべきである:N95マスクの正しいフィットテストと使用、安全に外して廃棄すること、N95マスクの医学的禁忌。(呼吸器防護とフィットテストの手順を参照のこと)


N95マスクとその他のタイプの呼吸器防護具に関する情報は以下:

呼吸器防護具の資料:自宅や職場での準備として、避難用のフード、ガスマスク、その他の呼吸器防護具を買うかどうかに関する決断をする際に知っておくべきこと

医薬食品局および医療機器・放射線保健センター:PPE-マスクとN95マスク



(2009/5/14 IDSC 更新)

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