国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ



小児における新型インフルエンザ A (H1N1)ウイルス感染に対する
予防と治療の暫定的手引き

      アメリカ東部時間2009年5月13日午後3時30分 
               CDC(原文



 本文書は、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染の小児を治療する臨床医に対する暫定的手引きを提供する。さらなる情報が利用可能になると、本手引きは改訂される可能性がある。


乳幼児・小児と新型H1N1ウイルス

 現時点では、流行している新型インフルエンザA(H1N1) ウイルスが子どもに感染を起こした場合どのような影響をもたらすのかについては、詳しくは判っていない。しかし、季節性インフルエンザ、過去のパンデミックの経験から、5歳以下の乳幼児および医学的に高危険群にある小児では、さまざまなインフルエンザ合併症の発現に気を付ける必要がある。5歳以下の乳幼児のうち、季節性インフルエンザで重篤な合併症を起こす危険性が高いのは、とくに2歳以下の乳幼児である。

 子どもの場合には、インフルエンザの病状は他の呼吸器ウイルス感染による病状と、臨床症状からだけでは区別が付けにくい。成人に比べると、子どもでは典型的なインフルエンザ症状(例えば、発熱と咳)が発現しにくく、幼児では発熱とむずかるだけで受診することが多く、咳や他の呼吸器症状を呈することがないこともある。

 子どもではインフルエンザに関連した死亡例は、少数ではあるが季節性インフルエンザでもあり、全米で年間およそ92例である。インフルエンザとブドウ球菌、とくにMRSAの重感染による死亡例は子どもでも時折みられてきた。

重篤例にみられる症状

  • 無呼吸
  • 多呼吸
  • 呼吸不全
  • チアノーゼ
  • 脱水
  • 意識状態の変化
  • 著しい易刺激性



発達障害の子ども、および慢性疾患をもつ子ども

 ある群の子どもは、インフルエンザ感染に伴う合併症の危険に晒される。2003-2004年シーズンの季節性インフルエンザで死亡した153例の子どもの検討では、33%は基礎疾患をもっており、このような子どもはインフルエンザ関連合併症をきたす危険性が高く、20%は他の慢性疾患があり、47%は罹患前には健康な子どもであった。慢性神経疾患、神経筋疾患は全体の約1/3に及んでいた。

 他に、6ヶ月未満の乳児、免疫抑制状態にある子ども、妊婦、慢性腎疾患、心疾患、HIV/AIDS、糖尿病、喘息とその他の呼吸器疾患、鎌状赤血球症、慢性疾患で長期にわたりアスピリンを使用している子どものすべてが高危険群に入る。さらに、呼吸機能に影響を与えるさまざまな疾患、例えば知的障害や発達障害、脳性麻痺、脊髄神経障害、痙攣性疾患、代謝性疾患、その他の神経筋疾患などの子どもは、高危険群としてよい。

 その他、合併症の危険性が高くなる子どもとしては、栄養障害のある子ども、長期間嘔吐と下痢を繰り返し補充液を飲用している子ども、また代謝性疾患のひとつである中鎖acyl-CoA dehydrogenase (MCAD)欠損症で長くは絶食状態が続けられない子どもなどが挙げられる。神経系疾患、代謝性疾患をもつ子どもの多くは、自分から体調が悪い、悪くなってきたと申告できないので、インフルエンザ感染の診断が遅れ、合併症が加わりやすいことになる。さらに、HIV感染の子どもで抗レトロウイルス薬を服用してこなかった子どもを対象とした検討で、インフルエンザはもっとも重篤な疾患で、入院を余儀なくされていた。この場合、細菌感染の頻度は非HIV感染児に比べてより高いものであった。


子どもについての特別な配慮

 アスピリンやアスピリンを含有する薬剤(例、サルチル酸ビスマスーPepto Bismol)は、新型インフルエンザ A (H1N1)の確定例、疑診例のいずれでも、18歳以下の子どもには処方してはならない。Reye症候群併発の可能性があるからである。解熱のためには、他の解熱剤、アセトアミノフェンまたは非ステロイド抗炎症剤が推奨される*。

 4歳以下の子どもでは、まずヘルスケア・プロヴァイダー(日本では小児科医)に相談し、勝手に市販の風邪薬を服用させてはならない。

 *註:わが国では、ボルタレン、ポンタールの使用が禁止されている。


新型インフルエンザ A (H1N1)ウイルスの抗ウイルス剤による治療と予防

 この新型インフルエンザ A (H1N1)ウイルスは、抗ウイルス薬、ザナミビルとオセルタミビルなどのニューラミダーゼ阻害剤に感受性がある。しかしアマンタジンやリマンタジンには抵抗性である。

 新型インフルエンザ A (H1N1)ウイルス感染の治療と予防に、オセルタミビル、ザナミビルが使用できる。ウイルス薬を使用する際には、CDC: current recommendations”を参照のこと。抗ウイルス薬を推奨するかどうかは、抗ウイルス効果、副作用、ウイルスの薬剤感受性などの変化により変更されていく。現時点での情報は、”CDC: side effects associated with oseltamivir and zanamivir”を参照のこと。


治療

 
新型インフルエンザ A (H1N1)ウイルス感染の抗ウイリス治療には、オセルタミビルか、ザナミビルが推奨される。これまでは、1歳以上の子どもの治療にはオセルタミビルが承認されてきた。新型インフルエンザ A (H1N1)ウイルスに感染した1歳以下の乳児に対しても、最近緊急処置としてオセルタミビル治療が承認された(Emergency Use Authorization; EUA)。オセルタミビル量は、1歳以上の子どもでは体重により決め、1歳以下の子どもでは月齢により決める。ザナミビルは7歳以上の子どもで承認されており、吸入法が用いられる(表1)

 ザナミビル、オセルタミビルによる治療は、症状のはじまりとともにできるだけ早く開誌すべきである。季節性インフルエンザでの検討によると、治療効果は病状を認めてから48時間以内に開始するのがもっとも効果的である。しかし、季節性インフルエンザでの他の検討によると、病状を発してから48時間以降に治療を開始した場合でも、死亡率の低下、入院期間の短縮などの点で効果が認められている。治療期間は5日間が推奨されている。


1歳以下の乳児の治療(表2)

 1歳以下の乳児は、1歳以上の子どもの場合と比べて、通常の季節性インフルエンザでは併発症に関して高危険群に入る。とくに6ヶ月未満の乳児のインフルエンザ合併症の併発の危険性は高い。1歳以下の乳児は、過去のパンデミックの折にも併発症の危険性が高かったことが知られている。1歳以下の乳児の季節性インフルエンザ治療におけるオセルタミビル、ザナミビルの使用に関して安全性データは限られているが、少なくとも重篤な有害事象はきわめて稀である。

 新型インフルエンザA (H1N1)感染を起こした1歳未満の乳児のオセルタミビル治療は、EUAの承認の下、最近FDAによる承認も得られた。使用量は月齢から決める。”CDC guidelines for treatment guidance in this age group”を参照のこと。またEUAに”ついての情報は、”Emergency Use Authorization of Tamiflu (oseltamivir)”を参照。


抗ウイルス薬による予防(表3)

 新型インフルエンザ A (H1N1)感染に対する抗ウイルス薬による予防には、オセルタミビルかザナミビルが推奨される。オセルタミビルは、1歳以上の子どもには承認されている。しかし1歳以下の乳児にも、EUAの承認の下に新型インフルエンザ A (H1N1)感染の予防にオセルタミビルを使用することはできるが、EUAは、予防投薬について3ヶ月未満の乳児例には、状況が命に関わるとの判断がなければ適用されないとしている。1歳以上の子どもの使用量は体重により決め、1歳以下の乳児の使用量は月齢で決める。ザナミビルは5歳以上の子どもに予防投薬が承認されている。

 ウイルスに暴露後の予防投薬期間は、新型インフルエンザA (H1N1)ウイルス感染が確定し病状の悪化した例に遭遇した日から10日間である。かなり限られた場合ではあるが、抗ウイルス薬は感染例に暴露される前の予防にも用いることができる。詳しくは”CDC: anti-viral guidance link”を参照のこと。


健康を維持するための一般的注意

 新型インフルエンザ A (H1N1)ウイルスの感染を特異的に予防するワクチンは、まだ入手できない。多くの子どもが毎年秋〜冬に行っている季節性インフルエンザが、この新型インフルエンザA (H1N1)ウイルスに対しても、そこそこの予防効果があると期待するのは難しい。しかし部分的にせよ効果があるかどうかの検討は始まっている。

 父母と介護者には、その子どもの他のワクチンが予定通り済んでいるかどうかを確かめることにより子どもの健康を維持することの方が重要である。HIV/AIDSなど、治療を必要とする慢性疾患をもつ子どもの父母は、個別の疾患の治療薬をきちんと服用しているかどうかをぜひ確かめてほしい。


子どもを診ている診療所小児科医へのメッセージ

 その子どもの家族が電話で相談をしてきたときのために、health care providerが使用できる3-5分のショート・メッセージを用意していただきたい。その折には、新型インフルエンザ A (H1N1)の基本的知識、緊急対応するべき状況とは?、子どもの健康を維持する方法は?、詳しい情報を得るための手段などについても述べていただきたい。

他のガイダンス情報

  • 一般
  • 在宅の病児のケア
  • 臨床医向けのガイダンス
  • 抗ウイルスガイドライン



表1:オセルタミビル、ザナミビルの推奨された治療量・予防量



表2:1歳以下の乳児に対するオセルタミビルの推奨治療量




表3:1歳以下の乳児に対するオセルタミビルの推奨予防量




*いずれもCDC: H1N1 Flu; “Interim Guidance on Antiviral Recommendations for Patients with Novel Influenza A (H1N1) Virus Infection and Their Close Contacts”より引用。

(訳:横浜市立大学小児科 教授 横田俊平先生)



(2009/5/27 IDSC 更新)

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