国立感染症研究所 感染症情報センター
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ブタインフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が確認されたか疑われている患者及び濃厚接触者に対する抗ウイルス薬使用の暫定的手引き
2009年4月29日午後2時45分(アメリカ東部時間)原文

 訳注:本文書はすでに改訂されている。参照および比較の目的のみでこの翻訳を掲示している。


目的:ブタインフルエンザA(H1N1)ウイルス感染の治療と化学的予防に対する抗ウイルス薬の使用に関する暫定的な手引きを提供する。この手引きはブタインフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が確認された症例、および疑われる症例(訳注:原文ではconfirmed, probable or suspected patients。日本の症例定義との混同を避けるため上記のように表現した)及びこれらの濃厚接触者を含む。

ブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルス(Swine-origin influenza virus, S-OIV)感染の症例定義
S-OIV感染が確認された症例(confirmed case)は、急性発熱性呼吸器疾患を有し、CDCにおいて次に示す検査のうち1つ以上のものでS-OIV感染を検査確認できたヒトと定義する:

 1. リアルタイムRT-PCR
 2. ウイルス培養

S-OIV感染のprobable case*は、急性発熱性呼吸器疾患を有し、インフルエンザA型陽性であるが、RT-PCRでH1及びH3が陰性であるヒトと定義する。

S-OIV感染のsuspected case*は、急性発熱性呼吸器疾患を有し、次のいずれかにあてはまるヒトと定義する。

○発症前7日間以内にS-OIV感染が確認された症例であるヒトとの濃厚な接触がある
○発症前7日間以内にS-OIVの1症例以上の確認された症例があるアメリカ合衆国内または国外の地域に旅行した
○S-OIVの確認された症例が1症例以上がある地域に居住している

*訳注:日本の症例定義と明確に区別するために、あえて訳出していない)

感染期間:ブタインフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が確認された症例の感染期間は症例の発症1日前から発症7日後までと定義する。

濃厚接触者は、ブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が確認されたまたは疑われる症例の約6フィート(約1.82m)以内に、感染期間に居たヒトと定義する。

急性呼吸器疾患は、次のうち少なくとも2つの症状が最近おこってきたと定義する:鼻漏または鼻閉、咽頭痛、咳(発熱または発熱した状態の有無にかかわらず)

ハイリスク群:ブタインフルエンザA(H1N1)ウイルス感染の合併症のハイリスク群は、季節性のインフルエンザと同じである(MMWR:インフルエンザの予防と制御:予防接種諮問委員会(ACIP)の勧告、2008年 を参照のこと)。

子供への特別な配慮
アスピリンまたはアスピリンを含有した製品(例:次サリチル酸ビスマス-ペプトビスモル)は、ライ症候群のリスクのため18歳以下のブタインフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が確認されたまたは疑われる症例に投与しないほうがよい。熱の軽減には、アセトアミノフェンまたは非ステロイド系の抗炎症剤のような他の解熱剤を推奨する。
抗ウイルス薬耐性
このブタインフルエンザA(H1N1)ウイルスはノイラミニダーゼ阻害剤抗ウイルス薬であるザナミビル(訳註:商品名リレンザ)とオセルタミビル(訳註:商品名タミフル)に対して効果(感受性)がある。アダマンタン抗ウイルス薬であるアマンタジンとリマンタジンには耐性がある。
抗ウイルス薬治療
ブタインフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が確認された症例および疑われる症例

抗ウイルス薬の使用に関する推奨は、抗ウイルス薬の効果、疾患の臨床像の範囲、抗ウイルス薬使用による副反応、及び抗ウイルス薬感受性のデータにより変わるかもしれない。

抗ウイルス薬治療はブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が確認された症例および疑われる症例に検討すべきである。入院患者の治療及びインフルエンザの合併症に高いリスクがある患者の治療を優先すべきである。


RT-PCRまたはウイルス培養のみがブタ由来インフルエンザA(H1N1)の感染を確定できる。ブタ由来インフルエンザA(H1N1)の迅速抗原検査及び免疫蛍光法検査の精度は知られていない。ブタ由来インフルエンザA(H1N1)に感染しているかもしれないヒトや、それらの検査のどちらかを使用してインフルエンザA型に検査陽性であったヒトに対しては、ブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルスの存在を確認するためにRT-PCRまたはウイルス培養の確認検査をするべきである。迅速抗原検査または免疫蛍光法検査の陰性結果は、ブタ由来インフルエンザA(H1N1)を否定するために使用することはできない。

ザナミビルまたはオセルタミビルの抗ウイルス薬治療は、症状を呈した後可能な限り早く開始すべきである。季節性のインフルエンザに関する研究での治療に関する効果のエビデンスでは、発症後48時間以内に治療を開始した場合が最も強い。しかしながら、いくつかの季節性のインフルエンザの治療に関する研究では、発症後48時間以上後に治療を開始された患者に対しても、死亡率または入院期間を減らすことなどの効果があることが示唆されている。推奨される投与期間は5日間である。抗ウイルス薬の使用に関する勧告は、抗ウイルス薬の感受性及び効果に関するデータが量可能になると、変更されるかもしれない。成人または1歳以上の子供におけるブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染の治療に対して推奨される抗ウイルス薬の投与量は、季節性のインフルエンザの推奨量と同じである(表1)。1歳未満の乳児へのオセルタミビルの使用は緊急時使用権限(EUA)に基づき合衆国食品医薬品局(FDA)により最近承認され、1歳未満の乳児に対する投与量は月齢による(表2)。

注:季節性インフルエンザの活動が継続している地域、特にオセルタミビル耐性ヒト型A(H1N1)ウイルスの循環している地域では、ヒト型インフルエンザA(H1N1)感染かもしれない患者に対する適切な経験的治療または化学的予防を提供するために、ザナミビルか、またはオセルタミビルとリマンタジンまたはアマンタジンの混合処方を選択するのがよいだろう。
抗ウイルス化学予防法
ブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染の抗ウイルス化学的予防に関しては、オセルタミビルまたはザナミビルのいずれかが推奨される(表1)。ウイルス曝露後の抗ウイルス化学的予防の継続期間は、ブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が確認された症状のある症例への判明している最終曝露から10日後までである。曝露後の化学的予防は感染期間(症例の発症前1日から発症後7日まで)における接触者を対象とする。もし、接触が7日前以前であれば、化学的予防は必要ない。曝露前の防御に関して、化学的予防は曝露の可能性のある期間を通じて投与されるべきであり、ブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が確認された症状のある症例への判明している最終曝露から10日後まで継続するべきである。オセルタミビルはまた、EUAのもとで化学的予防に利用することが可能である(表3)。

オセルタミビルまたはザナミビルのいずれかによる抗ウイルス化学的予防を、次の者に対して推奨する:

 1. 感染が確認された症例またはprobable caseに対する家庭での濃厚接触者で、インフルエンザの合併症に関してハイリスクである人(例:特定の慢性疾患のある人、65歳以上の人、5歳未満の小児、妊娠中の女性)

 2. ブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が確認された症例やprobable case, suspected caseとの濃厚接触の間に適切な個人防護具を使用していなかった医療従事者または公衆衛生従事者。個人防護具のガイドラインを参照のこと。

オセルタミビルまたはザナミビルのいずれかによる抗ウイルス化学的予防を、次の者に対して考慮してもよい:

 1. suspected caseに対する家庭での濃厚接触者で、インフルエンザの合併症に関してハイリスクである人(例:特定の慢性疾患のある人、65歳以上の人、5歳未満の小児、妊娠中の女性)

 2. インフルエンザの合併症に関してハイリスクであり、感染が確認された症例やprobable case, suspected caseとの濃厚接触(対面)があった、学校または保育園に通う小児

 3. インフルエンザの合併症に関してハイリスクであり(例:特定の慢性疾患のある人、65歳以上の人、5歳未満の小児、妊娠中の女性)、医療機関の働いている領域がブタ由来のインフルエンザA(H1N1)感染が確認された患者の居るところであるかまたは急性発熱性呼吸器疾患のある患者のケアをしている医療従事者

 4. インフルエンザの合併症に関してハイリスクであり(例:特定の慢性疾患のある人、65歳以上の人、5歳未満の小児、妊娠中の女性)、メキシコへ旅行した人(注:メキシコへの必須でない渡航は避けるべきであることを示している渡航勧告が現在出されている)

 5. インフルエンザの合併症に関してハイリスクであり (例:特定の慢性疾患のある人、65歳以上の人、5歳未満の小児、妊娠中の女性)、ブタ由来インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が確認された症例がいる地域で働いている初期対応者
1. ブタ由来インフルエンザの抗ウイルス薬推奨投与量
(表は季節性インフルエンザに関するIDSAガイドラインからの抜粋)

薬剤、年齢階級

治療

化学的予防

オセルタミビル

成人

75mgカプセル、1日2回5日間

75 mgカプセル、1日1回

小児

(年齢、12か月以上)、体重:

15 kg以下

1日60 mg、2回に分割

30 mg、1日1回

15-23 kg

1日90 mg、2回に分割

45 mg、1日1回

24-40 kg

1日120 mg、2回に分割

60 mg、1日1回

40 kg超

1日150 mg、2回に分割

75 mg、1日1回

ザナミビル

成人

5 mg×2(合計10 mg)の吸入1日2回

5 mg×2(合計10 mg)の吸入を1日1回

小児

5 mg×2(合計10 mg)の吸引、1日2回(7歳以上)

5 mg×2(合計10 mg)の吸入を1日1回(5歳以上)

1歳未満児

1歳未満児は季節性のヒト型インフルエンザウイルス感染で合併症を起こす高い危険性がある。ブタ由来インフルエンザH1N1ウイルスのヒト感染の特徴は現在研究中であり、年長児や成人に比べて乳児がブタ由来H1N1感染に関連した合併症に対してより高い危険性があるかどうかは分かっていない。オセルタミビル(あるいはザナミビル)使用の安全性データは、1歳未満の乳児からは利用可能なものが限られており、オセルタミビルは1歳未満の乳児での使用に関して認可されていない。利用可能なデータは、季節性のインフルエンザ治療に関するオセルタミビルの使用によるものである。これらのデータは重篤な副作用が稀であることを示唆しており、アメリカ感染症学会(IDSA)が季節性のインフルエンザに感染した1歳未満の乳児にオセルタミビルを使用することに関して、”…この若年層におけるオセルタミビルの安全性と効果に関する限定された後ろ向きデータは、今のところ年齢に特異的な薬剤に寄与する毒性を示していない”と最近述べている(季節性インフルエンザに関するIDSAガイドライン参照)。

乳児は典型的にはインフルエンザの有病率及び死亡率が高いので、ブタ由来インフルエンザA(H1N1)感染の乳児はオセルタミビルを使用する治療により利益を得るかもしれない。

表2. 1歳未満児のオセルタミビルを使用した抗ウイルス薬治療の推奨量

年齢

5日間の治療推奨量

3カ月未満

12 mg 、1日2回

3-5か月

20 mg 、1日2回

6-11か月

25 mg 、1日2回

表3. 1歳未満児のオセルタミビルを使用した抗ウイルス化学予防の推奨量

年齢

10日間の化学予防法の推奨量

3ヶ月未満

この年齢群での使用のデータが限られているため、是非とも必要であると判断される状況を除き推奨しない

3-5ヶ月

20mg、1日1回

6-11ヶ月

25mg、1日1回



医療機関は、ブタ由来H1N1インフルエンザと確認された重症の乳児、あるいはブタH1N1が確認された患者に曝露した乳児においてオセルタミビルの使用の検討する際に、安全性及び使用量のデータが欠如していることを知っておく必要があり、オセルタミビルを使用した時に副作用に関して乳児を注意深く監視するべきである。本年齢層に対するオセルタミビルに関する追加情報を参照のこと。
妊婦
オセルタミビル及びザナミビルは”妊娠期分類C”薬物、すなわち妊娠中の女性に対するこれらの薬物の安全性を評価するために実施された臨床研究はない。妊婦及びその胎児に対する抗ウイルス薬の影響は分かっていないので、潜在的な利点が胎芽または胎児への潜在的なリスクを上回る正当性が得られる場合に限り、オセルタミビルまたはザナミビルを妊娠期に使用すべきである。製造者が包装内に挿入している文書を参照すべきである。しかしながら、妊娠中にオセルタミビルまたはザナミビルを服用した女性において、およびオセルタミビルまたはザナミビルを服用した女性から生まれた乳児において副作用は報告されていない。妊娠は、オセルタミビルまたはザナミビル使用に対して禁忌であると考えるべきではない。オセルタミビルは全身作用があるために妊婦の治療に好まれている。予防薬としての選択は不明確である。ザナミビルは体内吸収が限定される理由で望ましいかもしれない。しかしながら、ザナミビルは吸入による投与なので、特に呼吸器系障害のリスクのある女性において、ザナミビルに関連する呼吸器系合併症を考慮する必要がある。
副作用及び禁忌
抗インフルエンザウイルス薬についての禁忌や副作用を含んだ詳細な情報に関して、下記を参照のこと:

季節性インフルエンザに関する抗ウイルス薬:副作用及び副反応
MMWR:インフルエンザの予防及びコントロール:予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP)の勧告、2008年
  MMWR August 8, 2008 / 57(RR07);1-60

抗インフルエンザウイルス薬の副作用はアメリカFDAのMedwatchのWebsiteに報告したほうが良い。


(2009/5/6 IDSC更新)


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