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ポリオ ブタ連鎖球菌

WHO 更新情報
  

中国におけるブタの連鎖球菌Streptococcus suis に関連した
感染症の集団発生:更新

2005年8月16日 WHO(原文

 最近報告された四川省でのブタ連鎖球菌(Streptococcus suis )の集団発生の調査の終了に向けて、中国衛生部はこの集団発生に関して、WHOと更に細部に渡る情報共有を行った。ブタ連鎖球菌の国際的専門家のグループがWHOにより召集され、中国衛生部により提供された情報に基づき検討し、今回のヒトでの集団発生がブタ連鎖球菌を病原体とするものとして矛盾がないとした。


調査の詳細

 本日までに中国衛生部は、この集団発生に関連して215症例の発生を報告した。これらのヒト症例のうち、39例が死亡した。8月5日以降、新たな症例は報告されていない。中国により提供されたデータは、7月の第2週から第4週にかけてピークとなり、その後急速に減少していった集団発生を示していた。当局は、一旦疫学的調査が実施されたのち、数人のヒト症例が検知されたと報告している。

 初期の症例は腎症候性出血熱が疑われたが、検査結果から否定された。さらに多くの症例が、発熱、全身倦怠、嘔気、嘔吐、多くの例でそれに引き続く髄膜炎、皮下出血、中毒性ショック、意識障害など、様々な臨床徴候を呈して報告された。ほとんどすべての患者の職業は、地元の農業従事者や肉屋であり、約80%が男性で、病豚の屠殺や精肉の販売に携わっていた人々であった。40%以上の症例が50歳から60歳の間であった。

 その後、いくつかのヒトから採取された検体の診断検査により、血清型2型のStreptococcus suis による感染を確認した。中国農業部との共同調査により、この地域の豚における同菌の存在が確認された。当局は、ヒト検体の検査の結果、他の細菌は検出されなかったと報告している。豚におけるウイルスの検索もまた検討され、インフルエンザウイルスとニパウイルスは検出されなかったと報告された。

 当局はまた、ここまでの調査結果に基づくと、ヒト−ヒト感染の証拠はまったく無く、また患者の治療に当たっている医療従事者にも感染はみられていない。しかしながら中国衛生部は、なぜ、近年見られていた集団発生に比べ、特に今回が非常に大きく、また非常に多くの死亡者を出したのかを確認するために、さらに調査が必要であると述べている。


国際的専門家らによる現時点での評価

 WHOの技術スタッフを含む豚連鎖球菌の専門家グループは、この集団発生について検討するために8月9日に電話会議を行った。全般的に専門家らは、Streptococcus suis の血清型2型の検査診断結果の妥当性に関しては何ら懸念を示さなかった。臨床像は、ヒトにおいて強い毒性を示す豚連鎖球菌の株、あるいは複数の株であったとして説明が付くものと、彼らは感じていた。

 豚連鎖球菌感染症はヒトでは稀であると、専門家らは繰り返し述べていた。1960年代に初めてヒトでの感染報告があり、それ以後世界中から、ヒトの間での集団発生が少数報告されている。世界的にStreptococcus suis の遺伝子解析は進められたが、20から30%の遺伝子の機能は依然として明確ではないと、専門からは言及した。

 今回の四川省(Sichuan Province)の集団発生と関連した菌株と、中国や他の国々で過去に発生した際の株を比較することはもちろん、これらの検体についてさらに検査を進めることが有益であると、専門家らは示唆した。中国当局は、こういった研究が実施されることを強く希望していると表明した。

 専門家らはまた、小児の患者がいないことを含め、この集団発生において、ヒトからヒトへと感染が広がったことを示唆する疫学的情報が無いことを指摘し、それを安心材料と感じている。彼らはまた、血液のような感染性のものに、非常に密接な接触をしない限り、ヒト−ヒト感染は先ず起こらないと言っている(医療機関内でしか、先ずおこらない状況である)。

 専門家のグループは、関与している豚連鎖球菌の毒性がより強かったとしても、生あるいは調理が不十分な豚肉を摂取することで、罹患に繋がる可能性はあり得るかもしれないが、適切に調理した豚肉を摂取することが感染リスクを増すとは考えにくいと繰り返し述べた。この集団発生は、一方で食品安全、畜産と動物の屠殺業務(特に貧しい、裏庭農場や田舎の地域で)、他方で増え続ける動物由来感染症との関連という、広く世界的な問題点を再び提起する。

 集団発生の国内および国際的拡大という点においては、専門家らも中国当局と同様に、集団発生地域およびその周辺からの生きた豚の移動と、食肉処理した豚および豚肉の売買について、注意深く制御し、監視して行くことが必要だという意見である。中国は、以上を確実に行うために、厳格な対策をすでに実施していると述べている。

 中国衛生部はこの集団発生の過程を通じて、定期的な更新情報をWHOへ提供してきた。WHOは引き続き状況を監視し、喜んで中国衛生部へ支援を提供する。


(IDSC:2005年8月22日掲載)


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