国立感染症研究所 感染症情報センター
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細菌性赤痢 細菌性赤痢−2007年(2008年7月25日現在)



 細菌性赤痢は通常1〜3日の潜伏期の後に、全身倦怠感、悪寒を伴う急激な発熱で発症し、発熱が1〜2日続いた後、水様性下痢、腹痛、しぶり腹、膿粘血便などのいわゆる赤痢症状が出現する腸管感染症である。原因菌はShigella属の4つの菌種(S. dysenteriae、S. flexneri、S. boydii、S. sonnei)である。菌種は亜群とも呼ばれ、それぞれA群、B群、C群、D群に該当する。通常、S. dysenteriae、S. flexneri は典型的な赤痢症状を起こすことが多いが、S. sonnei では軽度の下痢、あるいは無症状で経過することが多いとされる。
 細菌性赤痢は1999年4月施行の感染症法に基づく2類感染症として、疑似症患者、無症状病原体保有者を含む症例の届出が、診断した全ての医師に義務づけられた。2007年4月施行の法改正により、細菌性赤痢は3類感染症に変更され、患者及び無症状病原体保有者が届出対象(疑似症患者は対象外)となった。無症状病原体保有者は、探知された患者と食事や渡航を共にした者や、患者と接触した者に対する保健所の調査などによって発見される。
 感染症法のもとで届け出られた細菌性赤痢の過去の年間累積報告数は、2000年843例、2001年844例、2002年699例、2003年473例、2004年604例、2005年553例、2006年490例であり、2007年の報告数(2007年第1〜52週に診断されたもの)は452例であった(図1)。それらのうち、患者(有症状者)は404例、無症状病原体保有者は46例であり、疑似症患者(3月までに届け出られたもの)は2例であった。
 疑似症患者を除く450例は、性別では男性227例、女性223例で、年齢中央値は33歳(0〜88歳)であった。確定または推定として報告された感染地域は、国内161例、国外287例、不明2例であった。死亡例の報告はなかった(但し、届出時点以降での死亡については届出義務はないので十分反映されていない可能性があり、届出時点以降での患者が死亡した場合の追加報告を届出医師や自治体に依頼している)。

国内感染例:
 国内を感染地域とする報告は161例であった(疑似症患者1例を除く)。28都道府県から報告があり、埼玉県(64例)、東京都(20例)、静岡県(15例)、神奈川県(9例)、広島県(8例)の順に多く、また、感染地域の都道府県としては、埼玉県(63例)、東京都(16例)、静岡県(15例)、広島県(8例)、千葉県(7例)の順であった。埼玉県で知的障害者施設〔55例(患者39例、無症状病原体保有者16例)〕、静岡県で保育園〔12例(患者10例、無症状病原体保有者2例)〕、広島県で保育園〔8例(患者5例、無症状病原体保有者3例)〕、東京都で大学の実習〔6例(すべて患者)〕における、またはそれに関連した二次感染を含む集団発生があった。
 161例の性別は男性97例、女性64例で、年齢中央値は30歳(3〜88歳)(男性のみ28歳、女性のみ32歳)であった。年齢群別では、10歳未満30例、10代17例、20代33例、30代26例、40代16例、50代16例、60代13例、70代8例、80代2例であり、20代、10歳未満、30代の順に多かった。20代には知的障害者施設及び大学実習、10歳未満には2件の保育園集団発生、また、30代には同じく知的障害者施設集団発生による報告が含まれている(図2)
 発症月は、集団発生の影響を受け4〜7月が多いが、集団発生を除くと、5月(13例)、6月(10例)、11月(9例)、9月(8例)、10月(7例)の順であり、明らかな季節性は認められなかった(図3)
 検出された菌種は、S. sonnei 135例、S. flexneri 23例、S. boydii 2例、菌種同定不能1例であった(図4)。上述の4つの集団発生は全てS. sonnei によるものであった。

国外感染例:
 国外を感染地域とする報告は287例であった(疑似症患者1例を除く)。感染地域別では、従来どおりアジアが231例(80.5%)と際立って多く、次いでアフリカ39例(13.6%)であった(図5)。国別では、アジア地域ではインドネシア、インド、中国、ベトナムの順に多いが、これに次いでアフリカのエジプトが多かった(表1)。報告数の多い感染地域や感染国の傾向は、従来とほぼ同様であった。
 287例の性別は男性128例、女性159例で、年齢中央値は34歳(0〜76歳)(男性のみ34歳、女性のみ33歳)であった。年齢群別では、10歳未満10例、10代15例、20代88例、30代77例、40代33例、50代32例、60代26例、70代6例であり、特に20代、30代が多い傾向は従来どおりであった(図2)
 発症月は、1月(40例)、3月(37例)、8月(29例)、9月(27例)が多く、長期休暇を反映していると考えられる(図3)
 検出された菌種は、S. sonnei 244例、S. flexneri 33例、S. boydii 5例、S. dysenteriae 3例、S. flexneri 及びS. dysenteriae 1例、菌種不明1例であった(図4)。日本を含む感染国毎の報告数を、菌種別に表に示した(表1)
 国外感染例の診断及び報告数の増減に関しては、海外での流行状況や流行地への渡航者数など様々な要因の関与が考えられるが、検疫法改正によりコレラが検疫感染症でなくなったことから、2007年6月以降は、検疫所で下痢などの申し出のあった者に対する検便が実施されなくなった。有症状者であっても、症状が軽いなど理由で入国後に医療機関を受診しない者もいることが予測されるので、この点も報告数減少に影響する一要因として考慮する必要があると考えられる。検疫所からの細菌性赤痢の届出は、前年の2006年4月〜第52週は国外感染例として報告された282例中105例、2007年は同287例中81例(うち1〜5月が71例)、また、2008年では第30週(〜7月27日)までに国外感染例は103例の報告があるが、検疫所からの報告はなかった〔届出医療施設名が国まで報告されるようになったのは2006年4月以降〕。

症状:
 患者404例について、報告された症状をみた。届出票にあらかじめ記載されている症状では、下痢389例(96.3%)、発熱272例(67.3%)、腹痛191例(47.3%)、膿粘血便56例(13.9%)、しぶり腹48例(11.9%)であった(表2)。膿粘血便は、S. flexner(i 30.2%)でS. sonne(i 10.6%)に比して有意(p<0.001)に高かった。また、S. boydii の症例数は7例と少ないが、しぶり腹のみられた頻度(57.1%)が、S. flexneri (11.3%)、S. sonnei (10.9%)に比して高い傾向にあった。また、その他の症状として自由記載されていたものでは、嘔気・嘔吐41例(10.1%)、頭痛29例(7.2%)が多かった。
 一方、無症状病原体保有者46例の菌種は、S. sonnei 42例(同菌種総数381例の11%)、S. flexneri 3例(同56例の5.4%)、S. dysenteriae 1例(同3例の33.3%)であった。

 赤痢菌は腸管出血性大腸菌と同様に、微量の菌により感染が成立するため、感染が拡大しやすく、健康被害も生じやすい。特に小児や高齢者では重症化しやすいので注意が必要である。近年日本で発生している細菌性赤痢の大半は国外感染であり、国内感染についてはそれらの国外感染者からの二次感染や輸入食品の汚染による国内感染が推測されている。細菌性赤痢の感染予防策としては、充分な加熱調理や石鹸による手洗いの励行が基本である。渡航に際しては、渡航先の流行状況を把握すると共に、流行地へ渡航する場合には生水、氷、生の魚介類、生野菜、カットフルーツなどを避けることが肝要である。さらに二次感染を防ぐためには、患者や無症状病原体保有者を早期に探知して治療し、排菌しなくなったことを確認する必要がある。

(補)細菌性赤痢のサルの報告
 細菌性赤痢はサルの間にも感染がみられ、ヒトへの感染源となり得るため、2004年10月1日施行の感染症法施行令の改正により、細菌性赤痢のサルを診断した獣医師に届け出が義務づけられた。2004年には報告はなく、2005年に5都道府県から45例、2006年に6都道府県から45例、2007年には3都道府県から51例の報告(2008年5月17日現在)があった。報告されたサルのほとんどは輸入後の検疫(法定検疫または自主検疫)によって発見されたものである。



感染症発生動向調査週報 2008年第34号に掲載)


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