国立感染症研究所 感染症情報センター
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細菌性赤痢 細菌性赤痢 2004年



細菌性赤痢は、通常1〜3日の潜伏期の後に、全身倦怠感、悪寒を伴う急激な発熱で発症し、発熱が1〜2日続いた後、水様性下痢、腹痛、しぶり腹、膿粘血便などのいわゆる赤痢症状が出現する腸管感染症である。原因菌はShigella属の4つの菌種(S. dysenteriae、S. flexneri、S. boydii、S. sonnei )である。菌種は亜群とも呼ばれ、それぞれA群、B群、C群、D群に該当する。通常、S. dysenteriae、S. flexneri は典型的な赤痢症状を起こすことが多いが、S. sonnei は軽度の下痢あるいは無症状に経過することが多い。

 細菌性赤痢は、感染症法(1999年4月1日施行)に基づく二類感染症として、疑似症患者、無症状病原体保有者を含む症例の届け出が義務づけられている。過去の年間累積報告数は2000年843例、2001年844例、2002年699例、2003年473例であったが、2004年の報告数(診断日が2004年第1〜53週のもので、2005年1月21日までに報告されたもの)は578例であった。それらのうち疑似症患者が12例あり、無症状病原体保有者は15例であった。無症状病原体保有者は、探知された患者と食事や渡航を共にした者や、接触者の調査などによって発見された者である。疑似症を除く566例については、性別では男性254例、女性312例で、年齢は1〜89歳(中央値29歳)であった。推定感染地域は国内89例、国外462例、不明15例であった。死亡例の報告はなかった。

 国内を推定感染地域とする89例(男性47例、女性42例)について年齢群別にみると、10歳未満18例、10代6例、20代14例、30代13例、40代8例、50代6例、60代10例、70歳以上14例(年齢中央値35歳)で、10歳未満及び70歳以上が多かった(図1)。発症日が不明の3例を除いて発症月別にみると、9月に発症したものが22例と多かった(図2)が、このうち11例は、群馬県の保育園での集団発生に関連した報告であった。都道府県別にみると29都道府県から報告があり、群馬県(14例)、東京都(10例)、埼玉県(9例)が多かった。また、検出された菌種は、S. sonnei 55例、S. flexneri 32例、S. dysenteriae 1例、S. boydii 1例であり(図3)、国外を推定感染地域とするもの(後述)に比し、S. flexneri の占める割合が多かった。

国外を推定感染地域とする462例(男性200例、女性262例)について年齢群別にみると、10歳未満8例、10代23例、20代210例、30代105例、40代40例、50代34例、60代26例、70歳以上16例(年齢中央値29歳)であり、特に20〜30代の女性が多く、全体の40%を占めていた(図1)。発症月別にみると、8月、9月、5月の順に多かった(図2)。また、推定感染国別にみると(複数回答あり)、インド119例、インドネシア70例、中国65例、タイ32例の順に多く、アジアの多い傾向は従来 通りであった。その他、ハワイが15例あり、それらの発症は8月末に集積が認められた(参照:IDWR週報第6巻第36号)。男女共に、インド、インドネシア、中国の3国で約半数を占めており、性別による推定感染国の偏りは認められなかった。また、検出された菌種は、S. sonnei 375例、S. flexneri 68例、S. dysenteriae 7例(インド5例、インド/タイ1例、ネパール1例)、S. boydii 12例(インド7例、インドネシア2例、ネパール1例、パキスタン1例、マダガスカル1例)であった(図3)

 予防の基本は感染経路の遮断であり、特に手洗いの励行は予防の基本である。流行地へ渡航する場合には、生水、氷、生の魚介類、生野菜、カットフルーツなどを避けることが肝要である。 また、特に小児や高齢者では重症化しやすいので注意が必要である。

 なお、細菌性赤痢はサルの間にも感染がみられ、ヒトへの感染源となり得るため、感染症法改正(2004年10月1日施行)により、細菌性赤痢のサルを診断した獣医師に届け出の義務づけがなされた。現在までに報告はない。



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