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改訂 CDCのSARS症例定義(要旨)

2003/12/12  MMWR Vol. 52/No. 49(原文

全米州および地域疫学専門家審議会(CSTE:Council of States and Territorial Epidemiologists)は6月26日に、SARS−CoV感染症を国の報告義務疾患のサーベイランスシステムに加えるよう施政方針を定めた。これには、全国的に報告するSARS症例の定義が含まれている。11月3日にCSTEは改訂SARS症例定義を含んだ、新しい暫定施政方針を出した。

改訂症例定義の要旨
今回の改訂は米国におけるサーベイランス上の症例定義の、臨床的、疫学的、臨床検査的症例定義および、症例除外基準に及んでいる。

臨床定義においては、「無症候性」と「軽症」が、「早期(early illness)」となった。
疫学的定義には、1)SARS−CoVへの曝露の可能性が疑われる、2)SARS−CoVへの曝露の可能性が高い、という新たな分類が加わった。
臨床検査上の定義においては、SARS−CoVに関する検査診断技術の向上を反映した。
症例除外基準においては、28病日を過ぎて採取した血清で、SARS−CoV陰性の場合に除外できることを可能にした。

新しい症例定義はまた、それぞれのSARS症例を、「調査対象のSARS報告(SARS RUI)」と、「SARS−CoV感染症」に分類している。「SARS RUI」は感度の高い、特異性の無い症例分類で、全面的に臨床あるいは疫学的な定義に基づく。つまり、集団発生期の「疑い例」、「可能性例」に当たると言える。「SARS−CoV感染症」は、より特異性の高い症例定義であり、特定の臨床および疫学的な定義または、診断検査による確定による。「SARS RUI」は最終的に、SARS−CoVの検査結果により「SARS−CoV感染症」の定義を満たすこともあり得る。

CSTEによる改訂CDC症例定義(2003年12月)

臨床的定義

早期(Early Illness)
  ・以下の2つ以上の症状を有すること:発熱(主観的でも可)、悪寒、戦慄、筋肉痛、頭痛、下痢、咽頭痛、鼻汁
軽・中等度呼吸器症状期(Mild-to-moderate respiratory illness)
 ・38度以上の発熱(註1)、かつ
  以下の1つ以上の臨床的な下気道症状(咳、息切れ、呼吸困難)
重症呼吸器症状期(Severe respiratory illness)
 ・軽―中程度の呼吸器症状の臨床的診断基準に合致し、かつ
  以下の1つまたはそれ以上の所見がある:
           ― 肺炎の放射線学的証拠 または
           ― 急性呼吸逼迫症候群(ARDS) または
           ― 原因が特定できなかった、肺炎またはARDSに相当する剖検所見

疫学的定義

SARSコロナウイルス(SARS-CoV)への曝露の可能性が疑われる
 症状発現前10日以内に、以下の1つ以上の曝露があった例:
   ・SARS-CoV伝播が報告された、または最近の感染伝播が疑われる外国あるいは国内の地域(註2)への旅行
    ・軽・中程度または重症の呼吸器症状期にある人で、SARS-CoV伝播が報告された、または最近の感染伝播が疑われる外国あるいは国内の地域(註2)へ、症状発現前の10日以内に旅行した人との密接な接触がある(註3

SARS-CoVへの曝露の可能性が高い
症状発現前10日以内に、以下の1つ以上の曝露があった例:
  ・SARS-CoV感染症確定例と密接に接触した場合(註3
  ・軽・中程度または重症の呼吸器症状期にあり、症状発現前10日以内の感染伝播の経路が、SARS-CoV感染症確定例からの感染鎖と関連づけられる人と、密接に接触した場合(註3

臨床検査上の定義

SARS-CoVを検出する検査は改良され、その性能特性は評価されている(註4)。
それにより、SARS-CoVの臨床検査上の定義は変化しつつある。以下に示すものはSARS-CoVの臨床検査的確認の一般的基準である:
 ・CDCにより認証された検査(例:酵素免疫測定法)による抗SARS-CoV血清抗体の検出 または 
 ・臨床検体からの細胞培養によるSARS-CoV分離 または
 ・CDCにより認証されたRT-PCR(逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応)によるSARS-CoV RNAの検出、および引き続くレファレンスラボラトリー(CDCなど)における確認

SARS-CoVの最新の臨床検査診断基準に関する情報は以下のウェブサイトで入手可能:
  http://www.cdc.gov/ncidod/sars/labdiagnosis.htm 

除外基準
以下のいずれかに当てはまる場合は、CDCが定めた「SARS-CoV感染症可能性例」も含めて「調査対象のSARS報告(SARS RUI)」から除外してかまわない:
 ・別の診断により病状を完全に説明できる(註5) または
 ・発症後28日以降に採取した血清で抗SARS-CoV抗体が検出できない(註6または
 ・SARS-CoV感染症から後に除外された例との接触を根拠に報告された症例の場合;他に疫学的、臨床検査的定義に合致するものがなければ、報告症例も除外する

症例分類

SARS RUI

SARSが流行していない地域からの症例報告
 ・SARS RUI-1:SARS-CoV感染症の既知症例、あるいは既知のSARS-CoV感染伝播が進行中の地域との、疫学的リンクの無い人からSARS-CoVがもたらされた場合に、最初にSARS-CoVの影響を受けた可能性があるSARSに合致する症例群の中の複数の症例(註7

SARSが流行している地域からの症例報告
 ・SARS RUI-2:軽・中等症の臨床定義に合致し、かつ、曝露の可能性が疑われる疫学的定義に合致するもの(2003年春のCDC定義では疑い例(註8)に相当する)
 ・SARS RUI-3:重症の臨床定義に合致し、かつ、曝露の可能性が疑われる疫学的定義に合致するもの(2003年春のCDC定義では可能性例(註8)に相当する)
 ・SARS RUI-4:早期あるいは軽・中等症の臨床定義に合致し、かつ、SARS-CoVに対する曝露の可能性が高い疫学的定義に合致するもの

SARS-CoV感染症
 ・SARS-CoV感染症 疑い例:重症呼吸器症状の臨床定義に合致し、かつ、SARS-CoV に対する曝露の可能性が高い疫学的定義に合致するもの
 ・SARS-CoV感染症 確定例:臨床的に矛盾のない症状(早期、軽・中等、重症)で、臨床検査で確認されたもの

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註1:38度以上の測定し記録された体温が望ましい。しかしごく少数ではあるが臨床的判断で、発熱の記載がなしでもこの診断基準に合致する患者が考えられる。発熱に関する患者の自己申告、解熱剤の使用、免疫不全状態あるいは免疫抑制治療の存在、医療機関を利用できない状況、体温を測定する能力の欠如などが考慮される要因となる。報告された情報に基づく初期の症例分類は変わる可能性があり、再分類が必要となり得る。
註2:特定される場所のタイプは様々である(例:国、空港、都市、建物、建物の階)。CDCの「旅行アラート」から除外されて10日後(潜伏期1回分)目まで、その場所は曝露の可能性がある地域として分類される。患者の旅行は旅行アラートの解除される以前か、その最後の日に発生していなければならない。CDC旅行勧告が有効である場所における外国の空港を通過する乗り継ぎは、「曝露の可能性疑い」の疫学的基準に合致する。CDC旅行アラート・勧告に関する情報、および適切な日付を確認するための情報は以下のウェブサイトにある:
 http://www.cdc.gov/ncidod/sars/travel.htm 
註3:密接な接触とは以下のいずれかと定義される:SARS患者の看護または介護をしたか、一緒に暮らした、発病しているか症状が軽快して10日以内のSARS患者の呼吸器分泌液あるいは体液へ、(患者に接している際あるいは汚染された物質を解して)直接的接触をした高い可能性がある場合。密接な接触の例には、キス、抱擁、食事・飲用食器の共有、近距離(90cm以内)での会話、理学的診察、その他の直接の肉体的接触が含まれる。密接な接触に含まれないのは、人のそばを歩いて通り過ぎた、待合室や職場で短時間一緒に過ごしたなどである。
註4:SARSの病原因子(SARS-CoV)の同定により、血清学的診断としては酵素免疫測定法や免疫蛍光測定法が、臨床検体中のSARS-CoV RNAの検出にはRT-PCR(逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応)が急速に開発された。これらの測定法は、SARS-CoV感染の進行した時期には抗体およびRNAを検出するのに非常に感度がよくかつ特異的である。しかし、二つの検査法はともに、病期の早い段階で感染を検出する感度は低い。SARS-CoV感染の初期の患者の大多数は、呼吸器およびその他の分泌物に低いウイルス力価を示し、抗体反応を示すには時間を要する。SARS-CoV抗体検査は発症後8−10日目から陽性になり始め、14日目までには大抵陽性になる。しかし時折、発症後28日目まで陽性にならないこともある。SARS-CoVの最新の臨床検査的診断定義に関する情報は以下のウェブサイトで入手できる:
 http://www.cdc.gov/ncidod/sars/labdiagnosis.htm 
註5:他の診断を下す際に考慮する要因としては、SARS-CoV感染症の曝露に関する疫学的定義の強固さ、他の診断に対する検査の特異度、他の診断の臨床所見と経過への合致性が含まれる。
註6:現在のデータによると、SARS-CoV感染症の患者の95%以上が、SARS-CoVに対する抗体反応を示す。しかし医療当局者は、もし抗体反応を示すことが出来ない合理的な懸念材料があるならば、血清学的反応がないことに基づいて症例を除外することをしない選択をする可能性もある。
註7:SARSが再発生した場合、どの集団が最初にSARS-CoVの影響を受ける可能性が高いかに関する合意ガイダンスは、CDCとCSTEの間で作成の途上にある。放射線学的に確認された肺炎、あるいは明らかな原因のみられない急性呼吸逼迫症候群(ARDS)で入院が必要な、発症前10日以内に以下のリスク因子のひとつがある患者に対しては、SARS-CoV感染症は少なくとも鑑別疾患として考慮すべきである:
 ・中国本土、香港、台湾への旅行、あるいは、これらの地域のいずれかに最近旅行した患者への密接な接触
 ・SARS-CoV曝露リスクのある職業の従事者(例:患者と接触する医療従事者や、生きたSARS-CoVを取り扱う検査室で働く者)
 ・他の診断がつかない非定型肺炎の小集団患者の一部
これらの患者を検出、評価、管理するためのガイドラインは以下の以下のウェブサイトで入手できる:http://www.cdc.gov/ncidod/sars/absenceofsars.htm 
註8:2003年のSARS流行期中に用いたCDCの症例定義は以下であった:
疑い例
 ・軽・中等症の呼吸器症状の臨床定義に合致し、かつ、SARS-CoVへの曝露の可能性が
 疑われる疫学的定義に合致するが、臨床検査定義のいずれにも合致せず、除外定義
にも合致しない または
 ・説明のつかない急性呼吸器疾患で死亡し、剖検が行なわれず、SARS-CoVへの曝露の可能性が疑われる疫学的定義に合致し、臨床検査定義および除外定義のいずれにも合致しない
可能性例
重症呼吸器疾患の臨床定義に合致し、かつ、SARS-CoVへの曝露の可能性が疑われる疫学的定義に合致するが、臨床検査定義および除外定義のいずれにも合致しないもの


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2003/12/15掲載

 
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