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2003/7/10

重症急性呼吸器症候群(SARS)



SARS:伝播の連鎖を断つ
(7月5日)


今や台湾(中国)が、SARSの「最近の地域内伝播」があった地域の一覧表から外され、この新しい疾患のヒト−ヒト感染の伝播の連鎖は世界的に断たれたことになる。

最後の「可能性例」が隔離されたか、その場を離れたか、死亡したかのいずれかの後20日が経過した時に、集団発生の場で感染伝播の連鎖が断たれたと考えられる。この20日間のあいだに、感度の良いサーベイランスが行われているにもかかわらず、新たな症例が検知されなかった場合に、このウイルスがヒト宿主から消滅したと考えることができる。

6月の終わりにWHOは、世界で最も大きな被害を受けた2つの地域である、香港(中国香港特別行政区)と北京で、感染伝播が阻止されたと発表した。トロントと台湾がこれにすぐ続き、台湾は7月5日に伝播があった地域の一覧表から除かれた。

世界中の集団発生が起こった地域において、SARSウイルスはその新たなヒト宿主から押し戻された。これは4ヶ月前には聞いたことも無く、特に危険でほとんど何も分かっていない新しい疾患に対しての、目覚しい成果である。

しかしながら世界は、SARSに対して警戒を解いてはいけない。疾患が封じ込められたと思われたトロントで、5月の終わりに見られた症例の再発生は、SARSの抵抗性と驚くような事態を招く可能性を、真剣に思い起こさせる出来事である。

最初の−そして最も謎の多い−感染の連鎖
最初の症例は、中国の広東省で2002年の11月中旬に発生したことが、現在分かっている。SARSがあまねく世界へ向けて運び出されたのは、広東省から来た感染していた医師が、香港のメトロポール・ホテルの9階の911号室にチェックインした、2003年の2月21日である。

どのようにして起こったのかは謎のままであるが、そのホテルのひとつの階がSARSの国際的な感染拡大の舞台となった。最低限14人の宿泊客と来訪者が、トロント、香港、ベトナム、シンガポールの病院システム内へウイルスを運んで行った。直近ではさらに、ホテルを離れた後に具合が悪くなり、フィリピンで入院していたイギリスからの二人の宿泊客も、SARSに感染していたことが帰国後の検査によって分かった。未だに理由ははっきりとしていないが、香港のホテルに滞在中に感染した者のうちでこの二人の患者だけが、他の場所で大きな集団発生を引き起こさなかった。

トロント、香港、ベトナム、シンガポールで起きた最も早い時期の、最も深刻な集団発生はすべて、このホテルを訪れた客によって引き起こされた。最初の「世界的警報(global alert)」が3月12日に発令される前のこの時期には、院内で急速に感染拡大する能力がある重篤な疾患が出現したことに関して、誰も気づいていなかった。初期の患者に対応した病院スタッフは、生命を救おうと積極的に戦う過程で、自らを感染の危険から防ぐことができなかった。

結局この疾患は院内で急速に拡大し、スタッフ、他の患者、来訪者に感染し、家族やその密接な接触者が感染するに従って、より広い社会の中へ広がって行った。集団発生が大きくなるにつれて、「輸出症例」の数も増加し、ついには30の国と地域から症例の発生が報告された。

効果的な捜査活動
WHOと各国保健当局は迅速に行動しなければならなかった。これらの感染伝播の連鎖を追跡することが、集団発生を制御するために鍵となる対策のひとつとなった。例えばシンガポールでは、5人の患者が合計206症例の集団発生のうちの103例の発生に関与していることが分かった。

その他の集団発生を阻止する対策には、症例の迅速な検知と隔離、接触者の自宅隔離、渡航制限などが含まれる。数百もの「発熱クリニック(fever clinics)」の開設と、マスメディアを利用して、一般の人々に一日に数回の体温の検査を奨励した結果、症例の検知はさらに向上した。

WHOが発令した「世界的警報(global alert)」と、3月15日のより強力な緊急旅行勧告によって、輸入例を経験していたほとんど全部の国が、それ以上の感染伝播を完全に、あるいは続く症例数を非常に少数に抑えることができた。このようなことは、高い警戒心を持って、その症状に気を付け、対処することによって可能となった。台湾(中国)は唯一の例外であり、あるひとつの病院の感染制御措置に生じた対策の緩みから、症例が爆発的に発生したが、これもまた、SARSが如何に容赦ないかを示す例である。

SARSは21世紀に入って最初に現れた、重篤で容易に感染する新興感染症である。しかしながらその封じ込めは、数世紀も昔からの感染制御対策をまじめに遂行することで達成された。少なくとも今のところは、SARSを打ち負かしたのは結局、これらの様な昔ながらの対策であった。

残っている問題点
現時点で最も急を要する解決すべき疑問点は、SARSが再び発生するのかというものである。起源が発見されなかったエボラウイルスの様に、SARSもいずれかの動物宿主に、あるいは環境宿主に隠れ、このウイルスにとって新しい「ヒト宿主」の間に拡大できる条件が整ったら、再び出現するのを待っている可能性がある。SARSもまた、他の多くのウイルス性の呼吸器感染症と同じように、気温と湿度が上昇すると消滅し、涼しい季節が来ると再び現れてくるという行動を取る可能性がある。

このような理由で、WHOは緊急対応に対する努力から、上述のそしてそれ以外の多くの重要な疑問に答えることに焦点を当てた研究計画へと、近々活動を移していく予定である。例えば、分かっているすべての感染伝播の連鎖が断たれた後でも、集団発生の形で再燃するまで検知できない位に低いレベルで、感染伝播が継続して行くことは可能である。

しかしながらひとまず、一層の国際的拡大を阻止するというWHOの第一の目標は、実現しつつある。

関連リンク
Severe acute respiratory syndrome (SARS) [感染症情報センター緊急情報:SARS]
最新情報、ニュース、更新情報、指針、旅行勧告、症例数、「最近の地域内伝播」があった地域の一覧表。WHOからのSARSに関する情報すべてを掲載。

SARS:status of the outbreak and lessons for the immediate future [pdf 104kb]
2003年5月20日の世界保健総会(WHA)のために準備された報告。

Global conference on severe acute respiratory syndrome [日本語(要旨)]
2003年6月17-18日に、マレーシアのクアラルンプールで、SARSに関するWHOの世界会議を開催し、疫学、臨床管理、研究成果を検討し、世界的な感染制御戦力を討議した。

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