2003/7/4

重症急性呼吸器症候群（SARS）−93

WHOによる重症急性呼吸器症候群（SARS） 多国同時集団発生の報告 （7月2日、更新第93報）

WHOは本日カナダのトロントを、SARSの「最近の地域内伝播」がある地域の一覧から外した。最後の「可能性例」は6月12日に検知され、直ちに隔離された。新たな症例の発生無しに20日間、あるいは潜伏期の2倍の期間が経過したとき、ヒト−ヒト感染の連鎖は断たれたと考えられる。

「これは公衆衛生上、非常に大きな成果であり、世界的危機の最終段階であることを望んでいる。トロントは特に困難な集団発生に直面した。我々はSARSが多くの予期しないことや痛手を引き起こす、難しい疾病であることを学んだ」と、WHO感染症局長のDavid Heymann博士は述べた。

「この疾患により日々の生活を乱され、脅かされた、カナダの医療従事者やその他の人々の健闘を、我々皆で讃えるべきであろう。このウイルスが再び第二の集団発生を起こしたとき、医療従事者は戦いを続け、今それに勝利した。また、ウイルスやその疫学に関する情報を迅速に提供し、世界中の公衆衛生に大きな貢献をしたカナダの科学者たちの献身も、記憶に止めておく必要がある。」

トロントは、2月後半にウイルスが中国南部から外へ持ち出され、世界的に拡大していったときに、最初に影響を受けた地域のひとつである。WHOは4月23日に旅行者に対して、トロントへの「どうしても必要な旅行」以外の渡航を避けるように勧告した。この勧告は1週間後に解除された。5月14日に、トロントは「最近の地域内伝播」が有る地域の一覧表から削除されたが、結局二度目の集団発生でウイルスが姿を現した5月26日に、再掲載されることになった。

初期の最も深刻なSARSの集団発生のすべてが、香港のメトロポールホテルの9階で2月21日一晩だけ過ごした、中国の広東省からの感染医師への接触に遡ることができた。同じ階の宿泊客あるいは訪問客の最低限16人が感染した。この中のひとりは、Princes of Wales Hospitalでの香港における集団発生の発端者と特定されている。この他の人達は、帰国した際にウイルスを運んで行き、トロント、ベトナム、シンガポールでの集団発生の原因となった。

ひとりの感染者から、このように多くの宿泊客や訪問客にウイルスが広がっていったメカニズムはまだ完全には解明されていない。ホテルの従業員はひとりも感染していなかった。

もうひとつの謎は、なぜSARSウイルスは高次の医療施設でより効率良く拡大して行くのかである。トロントの集団発生の深刻さには別な要因が関与しているであろうと考えられた。疫学的あるいは個々の事例に見られる事実から、高次病院でより頻繁に行われる特定の手技、たとえば難しい気管内挿管やネブライザーの使用が感染のリスクを増加させているのではないか、ということが示唆される。

トロントと同時に、初期に患者発生が見られた他の地域での集団発生が始まったときには、院内で急速に広がる可能性を持つ新しい疾患が、中国で現れたことを誰も未だ認識していなかった。人命を救おうと努力を続けていた病院スタッフは、自らを防御する必要性に気づかなかった。結果として、SARSウイルスは院内で急速に広がり、そして他の患者、病院来訪者、スタッフとの密接な接触者が感染するに連れて、より広い社会へと広がっていった。

3月12日にWHOが、SARSに対する世界的警報を発して以降、明らかに台湾は例外として、輸入症例を経験したすべての国で、その症例からの感染者を完全に防ぐことができたか、あるいは非常に少数の二次感染者に止めることができた。

本日トロントが削除されたことで、台湾が世界中のSARSの「最近の地域内伝播」が有った地域として最後に残った。

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