ISARSトップ >
 

 

2003/7/2

重症急性呼吸器症候群(SARS)−91



WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(6月30日、更新第91報)


SARSの研究:特許の影響と特許出願


WHOは、6月15日以来世界中のどこからも新たなSARS「可能性例」の報告がないので、緊急対応から、SARSの将来的再興を防止するための研究をベースとした計画に移行しつつある。

SARSのウイルスの起源についての理解や、動物宿主や環境中の感染源から種を越えてヒトへ感染が可能になった状況について、十分に理解されていないままで再び流行することになった場合、世界はSARSに対して無防備であると考えなければならない。前出の様な点に付いて解明されなければ、集団発生の将来的展開は、その終息を含めて確実性をもって予測することはできない。

バーチャルネットワークに参加した研究施設が昼夜を分かたず研究した結果、1ヵ月以内にSARSコロナウイルスが特定された。ウイルスゲノムの完全な塩基配列は、ほとんどその直後に決定された。

これらの科学的躍進は診断検査の開発を支援し、3月後半に320人以上の人々を巻き込んだ淘大花園(アモイ・ガーデン)集合住宅での患者集積の様な、例外的な集団発生の調査を強力に促進した。また、動物宿主と昨年の11月中旬に中国南部で検知された最初のヒト症例を結びつける、初期の試みの助けにもなった。

SARSの科学的測面の理解が更に深まるかどうかは、国際的協力の継続にかかっている。WHOは切望されている動物に関する研究を行う為に、もうひとつのネットワークを設立しつつある。

WHOはまた特許と特許出願が、SARSの診断検査、治療、ワクチンが開発され、現場での利用が可能となる速度や、これらの技術に対する価格設定に、どのように影響するか観察する予定である。

現時点では、SARS関連の発見の特許の取得が、どのような影響を及ぼすかを知るには時期尚早である。しかしながら、特許出願用紙に記入を始めること自体は、SARSの科学的共同研究を継続することに何ら障害を引き起こすものではない。

「発見の防衛」の意味で特許を利用することは、科学者が発見を行う努力を重ねる上で、又それに続く発見を将来行うために、広く他の研究者にその発見が入手可能になるようにしていく上で一般的に認められていることであり、生物科学の最も協力的伝統に基づいている。

長期的に見ると、SARSの特許権がどのように行使されるかにより、将来の新たな感染症による集団発生での、研究者や公衆衛生当局者の協力意欲へ大きく影響する可能性がある。

したがってWHOは確実に、開発されたどのような知的財産の功績も適切に帰属し、そのような発見のライセンス化により得た利益が適切な目的だけに使われており、この革新的努力に対する適切な報償が、あらゆる人々が利用できる検査、治療、予防的措置を開発する努力に必要以上の妨げとならないように、このような共同研究の委託条件の緩和を検討する必要性があるかについて検討する予定である。

SARSが明らかに示したように、高度に流動化した、相互に関連し依存し合った社会における新疾患の出現は、医療領域以外に、また、集団発生で最悪の被害を受けた領域を遙かに越えて、深刻な影響をもたらすことになる。このような、「脆弱性の共有」の感覚は、継続的国際協力の強い動機付けとなると考えられている。

----------------------------------------


 
  IDSCホームページへ