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2003/6/30

重症急性呼吸器症候群(SARS)−89



WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(6月26日、更新第89報)


もし(この冬)SARSが戻ってきたらどうなるか?


今週の始めWHOは、世界でも最も被害の大きかった2つの都市である、香港と北京をSARSの「最近の地域内伝播」があった地域の一覧から削除した。トロントと台湾にだけ地域内伝播の連鎖が引き続き存在しているが、これらの集団発生も同様に収束に近づいている。

SARSの突然の出現と急速な拡大による、世界的な公衆衛生上の危機が引き起こされてからほぼ4ヵ月が経ち、終息に近づいている。

新しく独特なコロナウイルス科に属するSARSウイルスは、中国南部で11月中旬に初めて出現した。現時点での重要な問題は、新しい宿主であるヒトの社会から感染伝播の連鎖が断たれたことで追い出されたSARSが、再び流行するかどうかである。

この質問が出てくるのは、エボラやマールブルグ出血熱の原因となる病原体を含む、他の新しく、余りよく知られていないウイルスの挙動のことがあるからである。通常特定の地理的領域に限られてはいるが、これらのウイルスは定期的に出現し集団発生を起こし、その後再びヒトの間で広がるための条件が熟すまで消え失せて、幾つかの動物や環境宿主内に隠れている。

疾患の新興を許す状況についてより理解が深まるまで、SARSが再度表舞台に登場してくるかどうかという質問は開かれたままにしておくべきである。SARSウイルスは、ある動物か、または環境源からヒトへ種を越えて移ったと考えられている。

ニパウイルス、ヘンドラウイルス、ハンタウイルス等を含め、動物からヒトへ種を越えて感染した多くの新しいウイルスは、ひとりの人から他の人へ効率良く広がることができず、したがって急速な国際的拡大の可能性を持つ、大きな、継続した集団発生は起こさなかった。しかしながらSARSウイルスは、すでにヒトからヒトへ広がっていくことができた。病院内の環境条件は、この効果的な感染伝播を著しく増強した。これに加え、SARSはおよそ15%の高い致死率を持ってはいるが、犠牲者(感染した人達)が他者へ感染を広げるのに十分な生存期間を与えており、これは新しいウイルスにとって効果的な生き残り戦略である。

WHOでのSARSの科学領域の調整役であるKlaus Stohr博士は、現在中国に滞在中で、現地の科学者たちとSARSの研究計画を作り、それに優先順位を付ける作業を行っている。SARSウイルスの起源に関する研究が、この研究計画のトップに来る予定である。

一方WHOには、今年後半にSARSが再び表舞台に出てくるとしても、初回の世界的緊急事態で経験したよりは、その影響は軽くなると信じるに足る理由がある。以下の5つの理由が、この意見を支持している。

第1に、世界的レベルの公衆衛生システムに、高いレベルの警戒の段階へ迅速に移行する能力があることが示された。アフリカやインドにおける輸入例の迅速な検知と隔離が、警戒のレベルと一層の拡大を防ぐ効率的対応の両方の良い例である。香港とシンガポールを含む、以前のSARSの「ホット・スポット」の幾つかでは、スクリーニングと検知の手法による高いレベルの警戒を、少なくとも今年の終わりまで継続することを計画している。

第2に、世界中が何をするべきか知っていることである。1世紀以上も古い感染制御手法ではあるが、その手法に最近シンガポール、香港、北京で見られたように、集団発生を完全に終息させる力があることが示された。

第3に、現在の集中的な研究努力の積み重ねにより、SARSに関する科学的知見が増し、より良い感染制御のための方法、特に迅速で信頼性の高い、治療開始時点で利用できる診断検査が開発されることが期待される。

第4に、5月の世界保健総会(WHO総会)において採択された議案により、WHOの集団発生における裁量権の強化が、重要な形で行われた。この議案が施行されることで、WHOは政府の公式報告に頼る受け身の姿勢から、ある集団発生が国際的な公衆衛生に対して危険を及ぼすことを、事実が示唆したら直ちに世界へ警告するという積極的な役割を果たすことができるようになる。

最後に、おそらくはこれが最も重要であるが、国際的に(感染が)拡大する可能性があるあらゆる疾病の症例を、即座にすべて発表する重要性がSARSによって明らかにされた。SARSから学んだことの影響を受けている現在の傾向として、もしもSARSが再び出現しても、いかなる国も症例を隠すことを選ぶとは考えにくい。これに加えて、SARSは本当に長期間隠し通すには(影響が)大きすぎる疾患である。

このような理由からWHOは、例えSARSが再び流行に転じたとしても、驚くほど大きな脅威とはなり得ないと楽観している。

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