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2003/6/27

重症急性呼吸器症候群(SARS)



SARSのような世界的規模の健康への脅威に対する戦略に国際的支持(抄訳)
(平成15年5月28日)


2003年5月19日から28日の間にジュネーブで開かれた第56回の世界保健機関(WHO)の総会、世界保健総会(WHA)は本日閉会を迎えたが、WHOメンバーの192カ国の保健相を含む2000人が参加し、WHOの政策や将来的な公衆衛生における役割について論じた。

5月21日に無記名投票によって、世界で始めての公衆衛生条約が採択された。これは、4年間に及ぶ根気強い折衝の結果が身を結んだもので、タバコのコントロールに関する条約骨子である。これによって現在から未来に渡り、数百億人以上の人が、タバコの被害から免れることができるであろう。現WHO事務局長Gro Harlem Brundtland博士は、これを「世界の公衆衛生上の歴史的瞬間」と呼んだ。

同じ5月21日に、次期事務局長として韓国の58歳の医師、李鍾郁(Jong-Wook Lee)博士が選出された。彼はWHOで20年間の経歴を持ち、結核とワクチン予防可能疾患の部門の長を務めていた。彼は、リーダーシップの必要性を説き、直ちにGOARN(世界的な集団発生警報と対応のためのネットワーク)の拡大と強化に乗り出すと言っている。

2004年から2005年の2年間のWHO実行予算として$8.8億強が認められた。これは、2.9%あるいは$2.5千万の予算増加になる。

WHOと加盟各国のネットワーク計画
総会では、SARSに関する討議が大きな部分を占めたが、世界保健規則(IHR)の改正とSARSに関する2つの議案が可決された。IHRの最終案は2005年のWHAに提出される。この中心となるのは、あらゆる情報源からの集団発生情報の確認と、必要な場合に当該国の依頼無しでも対象地域での調査を行うためのWHOの裁量権である。

参加各国は、また、緊急時のWHOとの円滑なコミュニケーションの確保の必要性と共に、SARSが今世紀最初の脅威であることを確認した。

会期中にWHOは、中国とその周辺地域のSARS対策と感染症サーベイランスと集団発生対応の基盤整備に関する、公私共同出資の$1億プロジェクトの立ち上げを発表した。次期事務局長の李鍾郁(Jong-Wook Lee)博士は、世界の感染症対策における、このようなプロジェクトの重要性を強調した。

インフルエンザの次の世界的流行が避けられないところであるのは周知のことだが、ワクチンで予防できるにもかかわらず、年間3〜5百万人の重症者と、25〜50万人の死亡者を出しており、世界的にも、各国内においても対策が十分であるとは言えない。そのため総会では、インフルエンザの世界的流行と年間の流行の予防とコントロールに関する決議を採択した。これには、老年人口において2006年までに50%、2010年までに75%に予防接種率を引き上げるなどが含まれており、事務総長にはワクチンや治療薬の均等な流通に関する支援が求められた。

眠り病(Trypanosomiasis)も年間6千万人を脅威にさらしており、アフリカ各国のツェツェ蝿の根絶に支援が呼びかけられた。

「暴力」も健康に大きな被害を及ぼすもののひとつであり、より焦点を絞った、相互協力により社会のあらゆる部分での暴力の防止に努めることになった。決議のなかでは、問題点の正確な把握や、暴力の犠牲者に対する社会的、法的な支援、暴力に結びついた原因などに関するより適切な情報の収集も呼びかけられた。

多くの視覚障害が予防できるにもかかわらず、貧しさ故に1億以上もの人が視力障害に苦しんでいる。予防できる視力障害の発生の追放を目的に、1999年に「Vision 2020--Right to Sight」の世界的活動が開始された。これに関する決議で、各国はWHOの協力の下Vision 2020に沿った、国家計画を2005年までに設立し、2007年までに施行することになった。

麻疹は40年間も有効で、経済的にも適正なワクチンがあったにもかかわらず、2001年の推計で3千万の症例が世界中で発生し、75万人が死亡しており、小児のワクチン予防可能疾患の中で、最大の死亡者を出している。その多くがサハラ以南のアフリカに集中していることから、WHO-UNICEFの2005年には1999年に比べ死亡率を半減するという計画への、経済的支援が求められた。

漢方を含めた、伝統医学や代替医学には科学的根拠が証明されていないことが多く、その安全性や有効性も不明なことが多い。伝統医学に関する決議では、国家単位でWHOの戦略を採用し、こういった医学の実施に関する規約や安全性のモニタリングを行うと共に、これらの分野の従事者の地位の保全や医学の保護を目指すことが決められた。

製薬製品における知的財産権に関する決議では、期限付きでこういった研究のアンバランスを無くし、公衆衛生上の利益に反さない方向付けを行うための団体を設立し、発展途上国を脅かす疾病に対する新規治療薬や、その他の薬剤の開発への資本投入状況などを含めて分析し、必要な助言をすることなどが決められた。

食品に起因する疾患が増加しており、国際的な食品安全基準の設置に高い優先順位を与えることが必要である。Codex委員会の活動のFAO/WHOによる評価に関する決議では、一層の各国の参加協力が呼びかけられた。

国際的化学物質マネジメントに関する決議案では、環境やその他のセクターからの参加に加え、保健・健康セクターからの参加が求められた。2005〜2006年に向けてその対策をとりまとめる予定である。

パレスチナを含む、占領地区におけるアラブ人の健康と支援に関する決議案では、この地区における保健・医療関係者の行動の自由を保障するためと、医療品の補給に関する何らかの対策を直ちに取るように、WHO事務総長への要請が出された。現状の健康被害の調査も依頼した。

総会では、HIV/AIDSに対する保健面からの新たな世界戦略を支持した。国ごとの対策の早急な必要性が強調された。

5才未満の小児の死亡を減少するための、若年成人及び小児保健と発達における対策の議案が承認された。7つの優先領域が活動のために決められたが、この中には5才未満の死亡原因の半数以上を占める、栄養と予防可能・治療可能な感染症が含まれている。

Alma-Ata 25周年記念のプライマリーヘルスケア会議に関する議案では、事務総長に、ここ四半世紀の問題を洗い出し、今後の対応策の決定を図るように要請が成された。

小児の生活・保健環境のラウンドテーブル会議が開かれ、小児の生活環境の改善のためのWHOへの提言などを取りまとめた。

総会では、SARSをはじめて認識し、そのウイルスのために亡くなったCarlo Urbani博士に追悼の意を表した。

次回、第57回世界保健総会は2004年5月17〜24日にジュネーブで開催予定である。

WHAで採択された決議の総覧
 
さらに詳しい情報を希望する方は以下のジュネーブ本部のWHO情報官までお問い合わせください。

Rebecca Harding, Tel. +41 22 791 3229; Mobile: +41 79 509 0651;
E-mail: hardingr@who.int;
Melinda Henry,Tel. +41 22 791 2535; Mobile: +41 79 477 1738;
E-mail: henrym@who.int;
Christine McNab, Tel. +41 22 791 4688; Mobile: +41 79 254 6815; E-mail: mcnabc@who.int; or Iain Simpson
Tel. +41 22 791 3215; Mobile: +41 79 475 5534; E-mail: simpsoni@who.int

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