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2003/6/24

重症急性呼吸器症候群(SARS)−86



WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(6月23日、更新第86報)


香港を「最近の地域内伝播」のある地域一覧から削除

WHOは本日、香港をSARSの「最近の地域内伝播」があった地域の一覧から取り下げた。6月2日に最後の症例が隔離されて以来、最大潜伏期の2倍に当たる20日が経過した。
広く地域社会から最後の症例が取り除かれ20日が経過すると、ヒト−ヒト感染の連鎖は断たれたと考えられ、したがってこの地域住民と旅行者双方にとってのリスクは除かれたことになる。

「これは非常に特筆すべき成果である。香港は人口密度が高く、中国本土との境界が不明確で、非常に制御が難しい集団発生のひとつが起こった。ここでの感染制御の成功により、世界中が今やSARSの脅威に対してより安全になったと感じることができる」と、WHO感染局長のDavid Heymann博士は述べた。

SARSは2月の終わりに、最初に中国南部から香港へ運び出され、それからハノイ、トロント、そしてシンガポールへ運ばれた。香港のホテルの911号室に宿泊した、広東省から来た感染症状のあった医師との、未だに解明されていない経路による接触で、およそ16人余りのこのホテルの9階の宿泊客と訪問者が感染した。Prince of Wales病院での、香港の最初の集団発生の発端者は、この2月の決定的な日に同じ階に宿泊していた知り合いを訪問している。これに続く患者集積群も、その後このホテルへ結びつけられた。

集団発生が香港の病院を襲った時点では、SARSは未だ危険な新興感染症とは特定されていなかった。医師も看護師も、患者の隔離と自分たちの予防措置が必要なことに気づかず、命を救おうと奮闘しているうちに自分たちが最初の犠牲者となった。非常に不幸な事例として、3月4日に入院したPrince of Wales病院での発端者の場合、1日に4回ジェット・ネブライザーで処置を受け、おそらくはこれが、ウイルスをエアロゾル化して感染拡大の機会を大きく増加させたと考えられた。

3月の終わりには、結局は300以上に達した、ほぼ同時に発生した新規症例の大きな集積群が、淘大花園(アモイガーデン)集合住宅のひとつの建物へ遡って結びつけられた時、香港は大きな痛手を被った。環境中の感染源の存在か、またはウイルスの空気感染の可能性さへも考えられたこの出来事は、地元の研究者のチームにより調査された。この集団発生は、「不運な」環境条件の集積によって垂直に連結されたアパートが汚染されることになったと考えられている。この結論は以後の追加研究によって確認されて、SARSウイルスが空気感染する可能性に対する恐怖を緩和した。

最初の症例集積群が認められてから、香港当局者は隠し立て無く、誠実で、十分なSARSに関する情報を、一般とメディア両方に提供してきた。香港はまた、彼らの一流の科学者、疫学者、臨床家たちからの協力の恩恵も受けた。彼らは、種々の集積群の原因となった症例を突き止め、起因病原体の特定、診断検査の開発、治療プロトコルの作成などの取り組みの最前線に立った。

香港は、中国本土以外での最も大規模な集団発生に遭遇し、他の地域でのより小さい集団発生を成功裏に封じ込めた感染防止対策の多くを、他に先駆けて利用した。継続して警戒を続けることが極めて重要では有るが、香港が今やウイルスに打ち勝ったのは非常に喜ばしいことである。

4月2日にWHOは、香港への「どうしても必要な旅行」以外の渡航を延期することを検討するように、一般の人々へ勧告した。この勧告は、7週間以上経って、5月23日に取り下げられた。

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