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2003/6/23

重症急性呼吸器症候群(SARS)−85



WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(6月20日、更新第85報)


診断のためのWHOによる症例定義、また、「地域内伝播」のある地域一覧から香港が除かれる日も近い

診断目的のWHOによる症例定義
今週British Medical Journalに発表された論文は、WHOによるSARS「疑い例」と「可能性例」の症例定義が、患者が最も感染力を持つとされる最初の段階にある感染症例を検知するために適切であるかどうかについて疑問を提起した。
British Medical Journal table of contents  

WHOの症例定義は「広く網をかける」手法を取り、SARSウイルスに曝露した可能性のある人すべてを特定し、迅速に隔離することを支援することを目的としている。WHOは引き続き、疑わしい症例は直ちに隔離し、他の可能性ある診断がつくか、あるいは他の病原体が原因と分かるまで継続することを提言する。

この初期の緊急対応時に集団発生を封じ込めるために、現在の症例定義は有効であったが、長期のサーベイランスのためには、より特異的な症例定義が必要であることをWHOは十分に承知している。

信頼性のある治療開始時に利用できる診断検査法が開発されるまで、症状の検討とSARS患者との接触歴の可能性に基づく症例定義が、感染した可能性がある人を発見し、さらに感染が広がる機会を減らす唯一の方法である。したがってWHOは、その他の症状を追加することで症例定義をより感度の高いものにできるかもしれないという、BMJに発表された研究を歓迎する。しかしながら、これは、ひとつの病院を受診した患者を対象とした、ひとつの研究である。さらに、下痢のような症状を定義に加えることで、その症例定義はより多くの偽陽性例を取り上げるリスクを負うことになる。

クアラルンプールでのSARSに関する世界会議の際に、WHOは特により適切な症例定義を決定するワーキンググループ(分科会)を設立した。このグループは、すべての集団発生があった場所からの情報を検討する予定である。

「WHOは、診断検査の改善を最優先事項と考えている。次の(北半球での)インフルエンザのシーズンには、非常の多くの患者がSARSと間違われやすい症状を呈することになる。医療機関を過重負荷に陥らせないためには、適切な診断検査に加え、より特異的で感度の高い症例定義が絶対に必要である。我々はそれを、入手可能な最高の事実に基づいた、国際的協力によって策定する予定である」と、WHO感染症局長のDavid Heymann博士は述べている。

Heymann博士は、少なくとも1年間はSARSのサーベイランスを継続する必要がある、と推測している。WHOのサーベイランスと報告に関する勧告も、緊急対応から継続的警戒へと移行するこの第2段階のために改訂される。

香港の一覧表からの取り下げ近し
来る6月22日の日曜日に、香港での最後のSARS「可能性例」が6月2日に隔離されて以来20日が経過する予定である。週末に新たな症例が検知されない限り、月曜日に、香港は「最近の地域内伝播」が確認された地域の一覧から除かれる。

このSARSの感染制御対応の歴史における非常に重要な成果になるだろう出来事に対して、WHOと香港保健当局の双方は注意深い対応をしている。本日WHOは、6月9日以降に隔離に入ったSARSが疑われている1症例に関する詳細情報を提供された。3種類のPCR法の結果は陰性で、発症後20日の血清抗体検査も陰性であった。

この症例に関する本日の報告は、継続してサーベイランスが積極的に行われ、新規症例が引き続き迅速に検知され隔離されていることを、さらに一層確認したことになる。香港の科学者たちと研究施設は世界有数であると評価されていることから、WHOはこの対象症例がSARSではないことに絶対の自信を持っている。

「地域内伝播」の一覧から除くということは、ヒト―ヒト感染の連鎖が絶たれ、地元住民と旅行者の双方への感染のリスクが取り除かれたことになる。

4月2日にWHOは、香港への「どうしても必要な旅行」以外の渡航をすべて延期するように一般の人々へ勧告した。この勧告は、7週間以上も経って、5月23日に解除された。
旅行勧告は現在、中国の北京市に対してのみ出されている。

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