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2003/6/23

重症急性呼吸器症候群(SARS)−84



WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(6月19日、更新第84報)


SARSは根絶あるいは制圧できるのか

SARSに関する国際会議が、今週の火曜日、水曜日(6月17日、18日)の両日、マレーシアのクアラルンプールで開かれた。この会議はWHOの呼びかけで、SARSの現在の、そして長期の対応に関して技術的助言を提供するために開催された。

新規症例数が次第に減少しているので、その新たなヒト宿主のあいだで、SARSが制圧あるいは根絶ができるのかが、将来へ向けての最も重要な疑問のひとつとなる。天然痘およびポリオ(急性灰白髄炎)を含む、他の多くの感染症における経験から、ある感染症の完全な根絶は、三つの条件を厳密に満たすことができた場合にだけ可能であると言うことが示されている。

第1に、感染伝播を断ち切ることができる効果的な対策、理想的にはワクチンであるが、それが実際に使用可能でなければならない。第2に、利用が容易な診断技術が必要である。その手法は、疾病の伝播に繋がり得るレベルの感染を検出するために十分な感度と特異度を持っている必要がある。最後に起因病原体のライフサイクル上、ヒトに感染することが必須であること、すなわち仮にヒト−ヒトの感染伝播の連鎖が断たれれば、その病原体は生存できなくなる必要がある。介在する動物宿主の存在は、根絶への過程を複雑化するが、その場合も、動物宿主間の感染伝播の連鎖を断つ対策も有るならば、必ずしも不可能ではない。

世界的レベルで疾患の根絶を目指す場合には、感染制御手法は安全で簡便、かつ経済的に入手可能な金額のものでなければならない。症例の検知と隔離を含む、現在のSARSの感染制御対策は効果的ではあるが、非常に時間が掛かり、経済的負担が大きく、社会活動を混乱させる。長期にわたりこのような努力を継続できる国はほとんど無いであろう。

昨日の会議において言及されたように、治療開始時に利用できる適切な診断検査が未だSARSには無く、引き続きこれが最優先事項である。このような検査法は、保健システムと医療保健の資源が大きく異なる国々で利用できるように、十分に簡便且つ経済的である必要がある。

会議に参加していた研究者たちはまた、SARSウイルスの起源と、仮に何か有るとして、動物が感染伝播のサイクルで果たしている可能性のある役割に関して、あまりにも分かっている事が少なすぎることも確認した。幾つかの研究によると、中国の広東省におけるSARSの初期の症例は、中国南部で珍味として食されるある種の野生動物と、屠殺の過程あるいは「wet market」と呼ばれる生鮮市場で直に接した接触歴があったと考えられている。これに加え、これらの野生動物のうち数種からSARS様ウイルスが検出されている。いかなる結論に至るにしても、その前に、緊急に追加の研究がされる必要がある。これらの提起された疑問を解決していくことは、SARSの将来展望を予測する上で大きな助けとなるであろう。

当面のところWHOは、現在入手可能な感染制御法を用いて、ヒト−ヒト間の感染伝播の連鎖を断つ必要性を強調し続けていく。多くの深刻な打撃を受けた地域で、限定された地域においてSARSを制圧することが可能であることを、これらの対策法はすでに実証している。

しかしながら、現在の対策法は長期にわたり維持することができないため、SARSフリーの地域へ輸入症例を輸入、再輸入しないことを含めた、SARSの長期対策においては、明らかに異なるサーベイランスと対応の戦力を必要とする。

その上、非常にわずかな情報しか入手できないことから、科学者たちは、環境条件や季節が再びヒトのあいだで感染が広がることに適した時に、SARSが再び姿を現す可能性を否定することができない。仮にこのような状況が発生した場合、各国は敏感なサーベイランスシステムと適切な対策計画を準備しておく必要があると考えられる。

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