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2003/6/18

重症急性呼吸器症候群(SARS)−79



WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(6月12日、更新第79報)


中国の状況

中国衛生部常務副部長の高強(Gao Qiang)氏とWHO感染症対策局長のDavid Heymann博士は今朝記者会見して、中国におけるSARSの感染対策の現状について発表した。中国衛生部の疾病制御局長Qi Ziaoqiu博士とWHOの中国事務所代表のHenk Bekedam博士も同席した。

これは、SARSの集団発生が始まって以降初めての、中国とWHO双方の高官による共同記者会見となった。

この記者会見は緊迫した一日に及ぶ協議に引き続き行われた。協議ではWHO高官が幾つかの選別された省からのデータや統計資料を検討し、懸念を表明し、率直で詳細な返答を受け取った。

Heymann博士は中国衛生部がWHOチームを積極的に歓迎した姿勢をたたえ、現在SARSを制御・予防するために行われている対策が「すばらしい」ものであると表現した。彼は、保健システムのあらゆるレベルにおける責任ある取り組みと目的意識が、最近中国本土全域で見られる症例数の激減に大きく係わっていることに言及した。

今回の訪問の目的のひとつは、中国がどのようにして症例数をこれだけ急激に減少させることに成功したのかを見極め、当局者に彼らの経験を世界のそのほかの国々と共有するよう働きかけることであった。

Heymann博士は感染制御対策の有効性を示唆するものとして、症例の発症から検知し、隔離するまでの期間が現在短くなったこと、接触者追跡調査が素早く効率的であることなどに言及した。このような対策は、感染した人が他の者へウイルスを感染させ広げて行く可能性がある時間を短縮することになり、その結果ヒト−ヒト感染の連鎖を断ちきることができる段階まで、その成果を近づけることができるので重要である。

このほかの効果的な対策としては、鉄道駅、バスセンター、空港での発熱のチェックを含む受動的あるいは積極的なサーベイランス、全国的なマスメディアを使ったキャンペーンによる国民への情報提供と教育、SARSの症状があるのではないかと疑っている人達を診断する、非常に多数の発熱患者用の診療所の設置などがある。

「市街地も郊外の田舎の地域も含めて国中の人々を動員し、SARSの症例が確実に素早く検知、隔離され、治療されるように、自分たちで発熱していないか観察することを奨励するといった多くの努力が成されていることを知った」と、述べている。

WHOチームが特別の懸念を表明した点として、症例が再度発生した時に、最初の徴候を検知するための信頼できる、継続的に維持可能なサーベイランスシステムが無いこと、WHOが要望している情報の提供に多少の遅れが見られること、国の症例定義の適用に大きなばらつきが見られ、症例の過少報告に繋がること等がある。迅速な情報の共有と解析に関する幾つかの問題は、制度・運営上の問題に端を発しており、特に各省から中央レベルへの情報の流れに関してはそうであると考えられている。

もう一つの重要な問題は、曝露源が分かっていない多数の症例に関してで、このために感染伝播の様式を追跡することが非常に難しくなっている。北京では、SARS患者との接触歴が不明の症例数が、最近50%から70%以上へ上昇した。

今後症例数が再び増加するのを防止するために、WHO高官らは、サーベイランスの強化を特に最高の優先事項として指摘した。本日までの経験から、一例の症例でも、特に感染性が強ければ、爆発的な集団発生を引き起こすことが示されている。

「現在SARSは沈静化の傾向を示しているようであるから、中国でのSARSの制御とサーベイランスシステムを強化する必要性が大きい。このシステムは、今や緊急対応の域を超えて、長期対応のために強化されなくてはならない」と、Bekedam博士は述べた。彼はまた、現在のシステムが疾病の再度の発生増加に直面したときに、「その波を押し返す」ための十分な威力が無いのではないかとの疑問を表明した。

中国におけるSARSの長期展望の中で、Heymann博士もSARSの起源に関する系統だった研究の必要性を強調した。「SARSがどこから来たのか、どのようにしてヒト社会へ伝播したのか、依然としてはっきりとは分かっていない。この疾患が季節性のあるものか、今年は減少したとしても来年また再び流行するのかどうか、分かっていない」と、彼は述べた。

SARSの起源に関して適切な研究が行われない限り、近い将来、あるいは遠い未来に、動物宿主の可能性のあるものからヒトへ、このウイルスが移行することを可能にした最初の条件がいつ繰り返されるのかを予測することは不可能である。

中国におけるSARSの状況の最初の評価は、WHOによって広東省の調査訪問後の4月の終わりに発表されたが、その中で中国のSARS報告に迅速性が無いことを懸念し、またこの集団発生を直ちに、その制御に通常とは異なる特別な対策が必要な公衆衛生上の緊急事態として取り扱わなかったことで、中国政府を批判した。

Heymann博士と他のWHOチームのメンバーは、少なくともSARSに対する即事対応においては、前述の必要な対策が取られていることに満足している。最近の幾つかの選ばれた省への訪問は、中国衛生署とWHOの共同で行われたが、一般の人々の間のSARSへの警戒レベルの高さ、すなわち症状と感染伝播様式、1日に2回の体温のチェックが必要であることが周知されていることを知った。

中国はSARS集団発生の発生源であると考えられている。この国は、昨年の11月中旬に検知された初期の患者の故郷であり、現在世界中で報告されている症例すべてのおよそ3分の2がここから報告されている。

WHOの今回の訪問は、この大きな国の感染制御対策が、症例数の減少傾向を継続させるために適切であることを再度確認し、同様に重要な、症例の検知と再度増加の封じ込めのために、継続維持できるシステムがあることを確認するために計画された。

WHOはまた、記録上最も大きなSARS集団発生の管理を行っている間に得られた著しい量の知見と経験が、他の国々すべてのためにも共有されることを確実にすることを切望している。

今回のSARSの集団発生は、中国のサーベイランスシステムの根本的な弱点を明らかにした。保健基盤への投資が無視された場合、流行の可能性が有るあらゆる疾患が無制限に拡大するために適当な状況をつくり、しばしば国家経済に莫大な代価を要求する。WHOの視点からは、中国のサーベイランスシステムはより柔軟性をもたせ、どのような新興感染症の脅威に対しても、現在よりずっと迅速で首尾一貫性のある対応ができるようにする必要がある。

訪問中に中国当局者は、SARS疑いがある症例へ次のインフルエンザシーズンに対応するための自国の能力に、深い懸念を表明した。インフルエンザの存在は、SARS症例の検知と正確な診断を非常に複雑にする可能性があると共に、「疑い例」の症例数を著しく増加させる可能性もある。

SARSの封じ込めはWHOの目標の最重要なものとして残っている。もしもSARSを封じ込められなければ、世界は、すべての非定型肺炎例、すべての呼吸器症状を伴う発熱患者の院内集積群に対し、SARSの疑いが生じ、広範なパニックを引き起こす可能性が予測される事態に直面することになる。

以前のレポートで、WHOの評価チームは以下のような結論に達している。「もしもSARSを中国で制御下に置くことができないなら、その世界的脅威を制御下における見込みはまったく無い。特に中国の様に大きく、多様性に富んだ国において、SARSの制御に成功することはひとつの大きな挑戦である。それを達成するためのどのような方法においても、効果的な疾病感染対策と症例報告が不可欠なものである。」

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