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2003/6/12

重症急性呼吸器症候群(SARS)−77



WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(6月10日、更新第77報)


WHOの高官の中国訪問

WHO感染症対策局長のDavid Heymann博士は、保健担当官とSARS集団発生に関して協議し、今後の計画について検討するために、本日中国へ向かう。このほかに、感染症対策部長のGuenael Rodier博士と、SARSに関する国際的対応の実務を調整しているThomas Grein博士もこの訪問団に加わっている。

今回の訪問の目的は、中国に置ける現在のSARSの実情を調査し、次に取るべき対策に関する意見を交換することにある。特に、WHOは中国政府の協力の下、中国におけるSARSの事例に特徴的にみられた、一連の多くの興味深い事実を全面的に活用した研究計画を立案したいと考えている。WHO高官はまた、この疾病を確実に封じ込め、将来的に症例が再発することを予防するために、中国当局がさらに支援を必要とする可能性がある領域を評価検討したいと考えている。

「SARSは多くの不思議な特性を持つ、深刻な疾患である。これを長期に封じ込めることができるかどうかは、科学的疑問の長いリストに解答を見つけられるかどうかにかかっている。中国は世界に対して多くのものを提供できる立場にある」と、Heymann博士は述べている。

早急に協議検討が必要な事項には、症例定義、接触者追跡調査の方法、特定の地域における地域内伝播の広がっている範囲などがある。WHOチームはさらに、病院設備や感染制御対策に必要な物資の供給が、特に貧しい省において適切であるかどうかに関して、再確認したいと考えている。

中国は、他の優先的に対策が必要である疾患、たとえば、長期的には深刻な影響を及ぼすであろうHIV/AIDSや結核などの制圧プログラムのために、SARS封じ込めのために取っている現在の画期的努力を維持していく方法を見つける必要があるだろう。

4月の始めにWHOの評価チームの結果が発表されて以来、保健基盤の脆弱さ、特に中国の貧しい省のいくつかでの不適切なサーベイランス、報告、医療施設が心配されている。WHOも中国保健省も、SARSへの緊急対応が中国本土全域で、すべての新興および流行を起こす可能性がある感染症を、検知・対応するシステムの強化を行う絶好の機会であると受け止めている。このような長期の包括的改善は、多くの専門家が今や目前に迫っていると考えている、次のインフルエンザの世界的流行における中国の対応能力を強化することにもなる。

WHO高官はまた、中国が取ったどの対策が、この国のSARSの集団発生、世界で最も大きい集団発生を、これだけ急速に制御することに繋がったのかを知りたいと考えている。

SARSの最初の症例は、中国広東省で昨年の11月中旬に見つかった。その集団発生は、その後制圧された。当初の研究によると、他のどの地域で見られたよりも低い致死率で、高い治癒率を示していた。これに加え、今年の5月中旬に中国疾病対策予防センター(中国CDC)によって発表された、この集団発生の疫学に関する報告によると、最初の孤発例が野生の狩猟動物との密接な接触と関連づけられ、SARSウイルスが動物宿主(animal reservoir)からヒトへ種を超えて感染したという仮説を支持している。またさらに、広東省の集団発生は潜伏期とハイリスク群の観点から、他の場所での集団発生の臨床像とは異なる幾つかの特徴を示している。

これらの疑問に対する解答を得ることは、SARSに対する理解、これからの進展の予測、新たな地域や封じ込めに成功した地域で症例が再び報告された際に、どのように対応するべきかを知るための、科学的基盤を作ることになる。

過去20年の間に出現した他の新興感染症とは異なり、SARSは自然に沈静化する様子はない。仮にこの疾患を、新しいヒト宿主から「追い出す」ことがあるとすれば、それは迅速な症例の検知と隔離、病院での厳格な感染防止対策、すべての接触者の追跡調査と適切な経過観察といった、単純ではあるが依然有効な感染制御対策を継続的に行うことによって実現できる。

ベトナムとシンガポールは共に、感染伝播の連鎖を断つことに成功し、以後現在までずっとSARSの報告は無い。しかしながら、世界の他の地域で症例が発生している限り、輸入症例が侵入する危険は残っている。

現在の事務総長のGro Harlem Brundtland博士と次期事務総長の李鍾郁(J.W. Lee)博士を含むWHO高官らは、SARSの集団発生に見舞われ、本日までに最も重要な経験を積んだ地域の保健当局者と一連の協議を行うが、今回の中国訪問はそのひとつである。

Brundtland博士は今月の終わりに、香港独立行政区を訪問する予定である。

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