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2003/6/9 (更新)

重症急性呼吸器症候群(SARS)



国際クルーズ船における
感染予防措置とSARS「可能性例」の管理

(平成15年6月4日)


数カ国に置けるSARSの集団発生に応じる形で世界保健機関(WHO)は、以下のような、仮にSARS「疑い例」あるいは「可能性例」が乗船していた場合の、国際クルーズ船の乗組員と地方の港湾保健当局の対応手法を作成した。クルー(乗り組み員あるいは船員)、船医などの医療スタッフ、クルーズ船運行会社、船主、港湾保健当局等を含む、クルーズ船業界に関わるすべての個人、グループ、担当部局は、この対応手法を熟知しておく必要がある。

SARSの一般的情報と症状
クルーズ船のクルー(乗り組み員あるいは船員)や乗客を含め、海外旅行をするすべての人は、SARSの主な症状と徴候に十分注意を払わなければならない。これには以下のようなものが含まれる:

  ・高熱(>38℃)
 且つ
  ・咳嗽、息切れ、呼吸困難などを含む、一つ以上の呼吸器症状
 且つ、以下のうち一つ以上がある者:
  ・SARSと診断された人とclose contact3(密接な接触)があったこと
  ・SARSの報告がある地域1 への最近の旅行歴(発症前10日間)があること

乗船前スクリーニング
SARSの「最近の地域内伝播」がある地域2 から国際航路の旅行へ参加するすべての乗客およびクルー(乗り組み員・船員)は、乗船に先立ち、症状や患者との接触、SARSの「最近の地域内伝播」がある地域への最近の旅行歴に関しての質問が書かれた、短い出発前SARSスクリーニング用紙を受け取り、記入しなければならない。

1) SARSの症例定義に該当する症状を示す者は、完全に回復するまで旅行をするべきではない。当該保健当局へ連絡し、患者は直ちに医療機関を受診する必要がある。

2) 最近10日間に、SARS「可能性例」と密接な接触 3 をしたと申告したが、健康状態は良好である者も、旅行をするべきではない。このような者は、曝露があった日から10日間、SARSの症状に十分気を付け、地域の保健当局の継続的な経過観察下におくべきであることを勧奨する。

3) 上記のいずれの症状も無く、最近10日の間に、SARS「疑い例」あるいは「可能性例」と接触をしていない者には、SARSに関する情報を提供し、もし仮に、SARSと考えられる何らかの症状が見られたら、直ちに診察を受けるように指導する必要がある。

乗客乗員の管理
予診の後、その船舶の医務官がSARS「疑い例」あるいは「可能性例」が乗船していると判断した時は、以下のような対策が取られる必要がある。

i) SARSが疑われる症例は、隔離区画、キャビン(客用船室)、部屋、船員用船室などへ隔離する。隔離場所は、独立した換気システムとトイレの配管がある方が望ましい。

ii) 呼吸器感染予防策と標準予防策を含む、感染制御対策を取る必要がある4

iii) 介護を行う特定の乗員は、感染予防効果のあるマスク5、手袋、眼防御用装具(ゴーグルなど)を着用し、患者との接触前後に手洗いをする必要がある。
その船舶の指揮官(一般に船長)はSARSが疑われる症例に関して、直ちに次の寄港予定地の医療当局へ警報を発し、必要な搬送、隔離、診療を提供することが可能であるかどうかを判断する。当地にこれらの受け入れ能力が無い場合、あるいはSARS「疑い例」、「可能性例」の病状の重症度によっては、船舶は近くの他の国際港まで航行を続けるように、勧められる可能性もある。

SARS「疑い例」あるいは「可能性例」の症例定義を満たす者に対する隔離区画、キャビン、部屋、船員用船室などの隔離場所から出ることの制限と、感染制御対策は、呼吸器症状が消失あるいは改善を伴っていることを前提に、解熱後10日間は継続しなければならない。また、疾病の状態は症例定義を満たさないが発熱が持続する、あるいは呼吸器症状が改善しない者は、船舶の公共の部分に出てくることは許されないし、他の人達と接触することも許されない。隔離病棟、キャビン、部屋、船員用船室などへの隔離と、その後の症状の経過観察などの感染予防措置を続けなければならない。公共の場の利用再開許可は、次の寄港予定地の保健当局と共同で検討される。船上の接触者はすべて(詳しくは下記を参照)特定し、経過観察を行う。

クルーズ船上で症例管理が進められている間は、船上における高いレベルの清掃と消毒方法を維持する必要がある。患者やその接触者が使用していたキャビンあるいは船員用船室は、WHO 6やその地域の保健当局が推奨する方法に従い清掃し、消毒する必要がある。

次の港への到着時
1. 保健当局の医務官がSARS「疑い例」あるいは「可能性例」を診察し、船上で接触した可能性がある人すべてを特定し、診察し終えるまで、誰一人下船することはできない。

2. その港湾の医務官が、体調の悪いクルーあるいは乗客がSARSの症例定義を満たすと判断した場合は、必要な全ての予防的措置を取りつつ、そのクルーあるいは乗客を下船させ、最も近い医療施設へ搬送する。もしもその患者がSARS「可能性例」と診断された場合は、接触者は自発的に隔離にはいることを求められ、接触後10日を経過するまで旅行することが許されない。

3.  SARS「疑い例」あるいは「可能性例」がクルーズ船から運び出された後直ちに、患者が隔離され看護されていたキャビンあるいは船員用船室の清掃と消毒を、徹底して行うことが必要である(下を参照)。

4. その地方の保健当局はすべての乗客乗務員に対し、SARSの症状および感染の伝播に関する情報を提供しなければならない。

5. 他のクルーや乗客に、ひとりもSARSと考えられる症状を示す者がいないと保健当局が確認した後に、その船は次の寄港地へ向けての出発許可がでる可能性もある。

接触者対応
SARS「疑い例」7 あるいは「可能性例」8 の接触者すべてに、SARSの症状および感染の伝播に関する情報を提供するべきである。彼らは10日間の積極的サーベイランス下におかれ、自発的隔離を遵守するように指導されなければならない。船上の専任の医療スタッフが接触者の経過を観察し、毎日体温の記録を行う必要がある。出港地と帰港地の双方に、SARS接触者が乗船していることと、取られている対策を直ちに連絡しなければならない。もしも、10日間の自主隔離と観察の結果、接触者がSARSの症状を発症しなかった場合は、経過観察は解除される。

SARS「疑い例」あるいは「可能性例」が使用していたキャビンあるいは部屋の消毒
清掃と消毒に係わるスタッフには、感染予防に関して十分な説明を行う必要がある。SARS患者が隔離されていた領域(病棟、キャビン、船員用船室)の清掃と消毒を行う際には、感染予防措置を遵守しなければならない。隔離領域を清掃する者は、適切な個人防御用具(手袋(両手)、適切な呼吸器の防護が行えるマスク5、ゴーグルなどの眼の防御用具、使い捨てのガウンなど上から羽織るもの)を着用する必要がある。この領域は、次亜塩素酸ナトリウム(ブリーチ)とホルマリン9、クロロメタキシレノール(chloro-mete-xylenol:PCMXのことと思われる)、あるいはこれらと同等の薬剤で消毒する必要がある。患者が触れたと考えられる表面や物はすべて、特に注意して清掃する必要がある。SARSの可能性がある症例が使用した、シーツやタオルのような素材は、徹底的に洗浄し、消毒しなければならない。清掃用具はすべて、使用後に消毒しなければならない。疑わしい症例の体液(たとえば吐物)によって汚染された領域は、HEPAフィルター10 付き掃除機が利用できるとき以外は、掃除機を用いて清掃してはならない。消毒剤入り洗浄剤を用いたモップがけ(固い表面の場合)あるいは、蒸気洗浄(絨毯の場合)を行うことが推奨される。

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1. WHO「最近の地域内伝播」が疑われる地域を参照
2. WHO「最近の地域内伝播」が疑われる地域を参照
3. Close contact(密接な接触):SARSの「疑い例」あるいは「可能性例」の看護をしていた、同居していた、又は気道分泌物や体液に直接接触した場合を言う。
4. WHOウェブサイト [日本語:感染症情報センター]を参照
5. N/R/P 95/99/100、またはFFP 2/3、またはこれと同等の国家工業基準(NOISH N, R, P 95, 99, 100)、あるいはEuropean CE EN149:2001 (FFP 2, 3)と EN143:2000 (P2)、または製造国におけるこれと同等の全国的/地域的基準を満たすもの
6. Lamoureux VB. Guide to Ship Sanitation. WHO. 1967
7. SARS「疑い例」の症例定義はWHOウェブサイト参照
8. SARS「可能性例」の症例定義はWHOウェブサイト参照
9. 次亜塩素酸ナトリウムを100 mg/lへ希釈したものと、ホルマリンの5%溶液(ホルムアルデヒドガスの40%水溶液)
10. HEPAフィルター:High Efficiency Particulate Air Filterのことで、無菌室などで使われている集塵力の高いフィルターで、0.3ミクロンの粒子を99.7%除去するとされている。最近では、市販の空気清浄機や掃除機にも使われるようになってきている

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