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2003/6/6(最新)



 
SARSコロナウイルスに関する
検査対応について(3訂)

(国立感染症研究所 感染症情報センター)

 

1. SARSにおける病原体検査方針

(1)

国立感染症研究所ウイルス第三部第1室(以下感染研)ではSARSコロナウイルスに関する特異的検査を行うが、それ以外の既知の病原体の検査は地衛研もしくは病院検査部で行う。

(2)

疑い例(suspected case)、可能性例(probable case)全員についてSARSコロナウイルス特異的ウイルス学的検査を実施する。
疑い例(suspected)でSARSコロナウイルス特異的検査において、複数の施設の結果が陽性であった場合、その時点で可能性例(probable case)として扱う。

(3)-1

(SARSコロナウイルス以外の病原体検査) 
 すべての疑い例(Suspected case)、可能性例(Probable case)について、原則的には地衛研もしくは病院検査部において、通常の病原体取り扱いに準じて飛沫感染、接触感染の予防に特に留意をしながらBSLレベル2で既知の肺炎を起こす(異型肺炎含む)病原体の一次スクリーニングを行うものとする。これには、一般細菌培養、迅速診断法(連鎖球菌など一般細菌、レジオネラ、クラミジア、マイコプラズマ、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルス、その他について、地域における患者発生状況を考慮して、必要な病原体について検討する)、血清学的方法(マイコプラズマ、クラミジア)を含む。

(3)-2

SARSコロナウイルスの検査対応

(3)-2a

SARSコロナウイルスの分離
(3)-1に加えて、すべての疑い例(Suspected case)、可能性例(Probable case)について、ウイルス分離が可能なBSLレベル3施設を有する地衛研ではSARSコロナウイルスを目的としたウイルス分離を行う。SARSコロナウイルス分離に使用する培養細胞はVeroE6とする。LLCMK2細胞は当初疑われていたhuman metapneumovirusについて感受性があるが、SARSコロナウイルスには感受性はない。CPEが出現した場合には培養上清、培養細胞、当該臨床検体を感染研に送付する。地衛研においてウイルス分離が困難である場合は、臨床検体を感染研に送付する。感染研に送付する場合は、原則として行政検査として対応するため、「5.検体受付」に基づいて実施する。

(3)-2b

SARSコロナウイルスの遺伝子検索
 SARS:診断検査の入手状況と検査方法の実際(5月1日 5訂)
   ・臨床検査結果の解釈に関する提言
   ・SARSの臨床検査に対する提言
http://idsc.nih.go.jp/others/urgent/update45-lab.htmlを参照のこと。

地衛研においてRT-PCR法を用いてSARSコロナウイルスの検出を試みる際は、上記マニュアルRT-PCR法によるSARSコロナウイルス遺伝子の検出(国立感染症研究所ウイルス第三部第1室)を参照し実施する。複数の施設での陽性確認が必要であるため、陽性結果が得られた場合は感染研にも検体を送付する。地衛研において実施が困難な場合は、臨床検体を感染研に送付する。送付に際してはウイルス分離と同様行政検査として「5.検体受付」に基づいて実施する。


2. 病原体検査のための検体採取方針

現行のSARSコロナウイルス特異的病原体検査はこれまでの研究成果から得られた方法を用いて、現在日本で実施可能である検体検査です。研究途上の検査方法ですので、今後の研究の進展により、方法あるいは検体採取方法が変更になる場合がありますので、ご留意下さい。そのため、現在のところ医療上の診断目的としては認可されておらず、また感度が十分とは言えない場合があります。陰性であっても疾患としてのSARSを否定するものではありませんのでご注意下さいますようお願い申し上げます。また、多くの検体依頼が寄せられているため検査結果を迅速に還元できない場合があります。

以上のことをご考慮の上、SARS検査(行政上及び研究目的)への協力を被験者、被験者が小児の場合はその保護者に十分説明の上、インフォームド・コンセントを頂いた上でお送り下さいますようお願い申し上げます。

頂いた検体についてはSARSコロナウイルス感染の検査及び研究目的以外には使用しないことをあらかじめお断りいたします。


1)SARSの診断検査のための検体採取についてPeiris JSM et al.:Clinical progression and viral load in a community outbreak of coronavirus-associated SARS pneumonia: a prospective study. Lancet 361, 1767-1772, 2003WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)多国同時集団発生の報告(6月2日、更新第71報) 診断検査の現状と中国での研修コース)を参照のこと。

 検体の採取時期:
 ウイルス量は発症10日頃をピークとしているため、発症10日後の便、気道からの検体(鼻咽頭ぬぐい液、喀痰等)は必ず採取することが診断上望ましい。また、抗体価測定のための血清は(1) 発症10日以内(通常初診時)と(2)発症20日以降(陽性率約65%)のペアが望ましい。ただし、発症20-29日の検体で抗体陰性であった場合は、発症30日以降(陽性率約95%)の検体を必ず採取することが診断上望ましい。

 
 

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ア)

気道からの検体(鼻咽頭拭い液、喀痰等)は、特に発症10日頃の検体が有用である(Peiris et al. Lancet 361, 1767-1772, 2003)。

 

イ)

尿はRT-PCR法を用いても発症早期の場合ウイルスが検出されないため、少なくとも発症4日以降の検体を用いる。発症10日頃が最も検出率が高いがその場合の検出率も50%との報告あり(Peiris et al. Lancet 361, 1767-1772, 2003)。

 

ウ)

便については、RT-PCR法を用いると発症早期より検出が可能であり、発症10日頃をピーク(ほぼ100%検出可能)として、発症1カ月頃まで検出が可能である。尚、発症1カ月後の便の感染性については不明である。

 

エ)

血清はできれば1週間毎に1-2mlを冷凍保存し、可能な限り多くの病日で経時的に抗体価を測定する。上記に記載した通り抗体価測定のための血清は (1) 発症10日以内(通常初診時)と (2) 発症20日以降(陽性率約65%)のペアで必ず採取することが望ましい。ただし、発症20-29日の検体で抗体陰性であった場合は、発症30日以降(陽性率約95%)の検体を必ず採取することが望ましい。


2)検体毎の採取方法と検体送付方法

 

全ての検体について、48時間以内に検体を輸送することが可能な場合には、検体採取後直ちに冷蔵庫に保存し、4℃(保冷剤)で輸送する。48時間以上輸送することが不可能な場合は、検体採取後直ちに施設内で-70℃以下の冷凍庫に保存し、冷凍(ドライアイス)にて輸送する。ドライアイスは密閉した容器に入れないこと。梱包の方法は(送付容器PDF版)を必ず参照のこと。
なお、各検体にはラベルID(「5.検体受付」を参照)を記載したラベルを貼付する。

(ア)

便(発症早期から発症1カ月頃までRT-PCR法で検出可能であるが、発症10日頃の検体の陽性率が最も高くほぼ100%。):10〜50mlの便を50mlの生食に懸濁し、遠心分離後、上清2〜3mlを蓋付き容器に入れ、パラフィルムにてシールし、ビニール袋にいれる。

(イ)

喀痰(疾患初期及び病状悪化時の検体):通常の方法にて、自分で出せる場合には滅菌生理食塩水もしくは水道水で複数回うがいをして口腔内雑菌を除いた後、喀痰を採取してもらう(唾液の混入は可能な限り避け、口腔内常在菌の混入を抑える。)。密栓できる喀痰専用容器(滅菌済み)に入れてフタをしてジップ付きプラスティック袋に入れて速やかに提出する。検体採取の際は、周りの人に飛沫が飛ばないよう、区切られた部屋で行うなどの対策を講じる必要がある。採痰ブース(陰圧)があればより理想的である。人工呼吸器管理の場合には無菌的な操作のもとに、滅菌されたカテーテルを使って気管吸引液を採取する。採痰容器は密栓できる喀痰専用容器(滅菌済み)に採取後、ジップ付きプラスティック袋に入れて速やかに提出する。

(ウ)

鼻咽頭拭い液あるいは鼻咽頭洗浄液/吸引液(疾患初期及び病状悪化時の検体): 通常の方法にて、鼻咽頭拭い液の場合には両方の鼻孔内を、口腔咽頭拭い液の場合には咽頭後壁および扁桃領域を拭い、スワブを2ml [注:綿棒が乾燥する状態や、大量の液体に浸した状態ではウイルスの検出が困難になります。1.5〜2 mlであれば綿棒が適度に液体に浸る程度となり、ウイルスの検出に最適です。] のウイルス輸送液体培地、ない場合は生理食塩水内に入れ、柄を折りとったのち、蓋をする。洗浄液/吸引液の場合には、1〜1.5mlの生理食塩液を鼻腔内に注入し、その後鼻咽頭分泌物を吸引する。もう一方の鼻孔についても同様に行い、吸引液は清潔試験管にいれる。

(エ)

尿(発症後3日間は検出されないため、少なくとも発症4日以降の検体。発症10日頃の検出率は50%程度で、その後検出率は漸減する。): 50mlの尿を遠心分離し、沈査を2〜3mlの上清に懸濁させ、コニカル試験管(ファルコンなど)にいれ、パラフィルムにてシールする。

(オ)

血清(最低限、急性期と発症20日以降の2点): 急性期血清はSARSが疑われた時点で即座に、回復期血清は発症20日以降に採取、輸送する。血液は血清に分離した後、それぞれ血清で1〜2ml程度が必要である。できれば、1週間毎に血清を保存し、可能な限り多くの病日の検体を輸送する。

 



3. コロナウイルスについて、SARSコロナウイルスの安定性、抵抗性について

 コロナウイルスは、ヒトではこれまで風邪症候群の原因ウイルスの一つでしかなかったが、動物ではかなり様々な病気をおこす。実験動物の分野ではマウス肝炎ウイルス、家畜の分野では豚伝染性胃腸炎、鶏伝染性気管支炎など、愛玩動物の分野では猫伝染性腹膜炎等々がある。コロナウイルスに属するウイルスは3つの血清型に分けられる。ウイルス粒子の表面にはS (spike,surfaceあるいは E2), M (membrane), E (small membrane), HE (hemagglutinin esterase) 蛋白、内部にN (nucleocapsid) 蛋白がある。このうち、HE蛋白は1部のウイルスにのみ存在する。S蛋白は中和活性、膜融合、レセプターとの結合を担っている。コロナウイルスの特徴としてmutation及びRNA recombinationの頻度が高いことが挙げられる。

検体の採取、検査の実施にあたっては、以下の情報をよく理解しておくことが重要である。 WHO研究施設ネットワークが集積したSARSコロナウイルスの安定性と抵抗性に関する最初のデータ (WHO 5月15日)を参照のこと。

1)

37℃で4日間保存すると、検出限界以下にウイルス量は減少する。

2)

4℃では、21日目にも感染性が残る。4℃4日間保存のウイルス量は10の5.7乗程度

3)

再凍結(-80℃)4日間保存でのウイルス量は10の6.7乗程度。

4)

室温でプラスチックなどに乾燥した状態でウイルスが付着していると2日間程度感染性がある。

5)

便中、特にpHの高い下痢便中では4日間程度生存する。

6)

血清については、56℃30分の通常の処理で感染性はなくなる。

7)

エタノールでは10分程度でウイルスは不活化する。

8)

アセトン20分間処理あるいはエーテル10分間処理で、完全 にウイルスが不活化されない報告もあり注意が必要。

9)

0.1%程度のNP40では20分処理しても感染性が残る(ドイツの研究所からの報告)。

10)

石鹸やリタージェントでの感染性の不活化は困難である。



4. 感染研での検査の範囲と結果報告

(1)

感染研において行う検査は、SARSコロナウイルスについての特異的検査とする。

(2)

暫定的結果の報告は可及的速やかに行うものとする。

(3)

結果は情報センターを通して、依頼された機関へ報告する。

(4)

情報センターでは、すべての情報をいれたデータベースを維持し、結果報告の管理も併せて行う。


5.検体受付

(1)

感染研による検査は、医療機関、保健所、都道府県、地衛研などの合意の元、行政からの依頼によることを原則とする。検体受付は情報センターにおいて、以下の手順で行う。検体受付時間は、原則として休日を除く勤務時間帯(9:00〜17:00)とするが、緊急の場合には個別に対応する。

病院からの直接の問い合わせについては、情報センターにて、ここに記載した原則を説明することとする。

(2)

各自治体の担当者は、まず情報センターへ電話で一報を入れた後、必要事項を記入した「SARSに関する検体提出フォーム(.doc/厚生労働省通知4月7日)」をFAXする(注:症例ID及び検体IDは記入しなくてよい)。この情報に基づき、情報センターは症例ID,検体ID、ラベルIDを記入した「SARS連絡票」を作成し、返信する。今後は、すべての連絡にここに記載されたID番号を使用する。

(3)

検体の輸送は、基本的に天然痘の検査材料の輸送方法(添付2)に準ずるものとし、送付するか、持参するものとする。検体の搬入は、原則として休日を除く午前中着とし、到着予定時刻と方法についてあらかじめ連絡しておく。但し、緊急の場合や搬入時間の多少の遅れについては、個別に情報センターを介してウイルス第三部と相談し、対応する。

(4)

情報センターは、ウイルス第三部へ「SARS連絡票」を送付すると共に、検体搬入予定日時を連絡する。


(添付)検体の送付方法はこの中に詳しく説明されています。
     1.「重症急性呼吸器症候群(SARS)管理指針」(PDF 100K)

     2.「検査材料の採取・送付に関する追加情報」 (PDF 64K)


◆連絡先
 国立感染症研究所感染症情報センター
 〒162-8640 東京都新宿区戸山1-23-1 
 TEL03-5285-1111(代)、 FAX03-5285-1129


◆検体送付先
 国立感染症研究所ウイルス第三部
 〒208-0011 東京都武蔵村山市学園4-7-1 
 TEL042-561-0771、FAX042-561-0812

(注)この検査対応方針は、現時点までの知見に基づく、暫定的なものであって、今後の新たな知見の発見、あるいは国内の状況によって、随時更新されるものとする。

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更新情報

2. 病原体検査のための検体採取方針を改訂しました(6月6日)。