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2003/6/5

重症急性呼吸器症候群(SARS)−72



WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(6月3日、更新第72報)


中国の状況


中国本土からの新たなSARS「可能性例」の一日当たり報告数は、5月の第1週の平均166例から、第2週には平均90例へ、第3週には27例、そして第4週には16例と、最近数週間で顕著に減少している。最近の6日間では、一日当たりの新たな症例の報告数は、平均2.5例へと減少している。

SARS集団発生が大きく制御にかなり苦労した他の地域と同様に、この数ヶ月間の進捗状況から、積極的な政府の取り組み姿勢と、その効果が証明された感染制御手法を断固として適応することが、決定的な重要性を持つことを示している。それと同時に、他の地域での経験から、中国のように大きく多様な国では特に、SARSに対して慎重で、注意深い対応を維持する必要性があることも示している。

疫学や臨床上多くの不可解な特徴をもつ新しい疾患を制御し続けることの難しさが、トロントで症例数が再増加していることに示されている。最近、SARSの感染伝播の連鎖を断ったシンガポールが、引き続き警戒態勢を取っていることに示されているように、高度の警戒と対策準備をして、ひとつの輸入例が再び集団発生を引き起こさないように用心し続けることが重要である。

WHOは、最近の経験とSARSに関する多くの不明な事項から、中国の新規症例報告数の下降傾向の解釈には注意が必要であると見ている。

「SARSは依然として中国に存在しており、WHOは引き続き中国をSARSの発生地と見なしている。中国当局と共に、この疾患が中国のように大きな国において永久に定着するのを防ぐのが、我々の仕事である」と、WHO感染症対策局長のDavid Heymann博士は言っている。

これからの数ヶ月間は間違いなく、世界的規模でSARSを封じ込めようという計画にとって重大な時期になるであろうと考えられるが、今や、それは中国でこの疾患の感染制御ができるかどうかにかかっている。感染が制御できない場合、長く穴だらけの国境と多くの移動人口を抱える中国に症例がいることは、他の場所で集団発生の原因となる可能性があり、その結果SARSは引き続き世界の他の国々への脅威となるであろう。

広東省に始まり他の地域へと広がった中国のSARSの対する感染制御対策の経験から、国際社会は多くを学ぶことができると、Heymann博士は信じており、「中国政府と共に、集団発生が起こった他の地域に比べて、非常に急速なSARS症例数の減少に繋がった要因を特定するのも我々の仕事である」と述べている。

WHO事務総長Gro Harlem Brundtland博士は、全世界の人々の安全のために、隣国を脅かし、あるいは、旅行者により世界中に広がる様な疾患の集団発生が生じている国々すべての国内状況を、完全に把握しておく重要性を強調した。「そうすることでWHOは、そのひとつの国の中で、世界中の他の国々すべてを助けるために必要なことができるようになる」と、彼女は先週の国際保健総会(WHA)のSARS関連議案での発言で述べている。

中国では最近数週間に、サーベイランス、報告、感染制御、一般の認知度に大きな改善が見られるが、幾つかの省における症例検知の感度と、SARSの問題の大きさに対応するための保健基盤の許容能力に関して、WHOは引き続き懸念を示している。特に問題となるのは、おおよそ半分に上る多数の新規症例報告が、曝露源や曝露の状況に関する情報なしに報告されていることである。この情報無しには、WHOが地域内伝播の広がり具合を評価することは非常に難しくなる。

SARSの地域内伝播、特に医療現場のような限定された環境以外での伝播がある場合は、その地の居住者と海外旅行者の両方に対する感染のリスクに関するひとつの指標となる。地域内伝播の様式も、SARSがこれ以上国際的拡大をすることを防ぐために、WHOが旅行勧告を出す時に考慮される重要な事項のひとつである。

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