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2003/6/4

重症急性呼吸器症候群(SARS)−71



WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(6月2日、更新第71報)


診断検査の現状と中国での研修コース


診断検査の状況
SARSの市販用の診断検査法の開発は、当初の期待ほど早く進展していない。問題の一部は、SARSがいくつかの特定の変わった特性を持っていることによるもので、そのために、この疾患は特別に難解な科学的挑戦となっている。

多くのウイルス性疾患においては、発病初期に、一般には発症後の数日間に最も多量の起因ウイルスが排出される。この時期がしばしば、他者を感染させるリスクが最も高い期間である。

しかし、SARSは異なる様式をとる。病初期の間はウイルス排出が比較的少ない。呼吸器系検体および便中へのウイルス排出のピークは、臨床症状の出現後10日目前後である。要するに、このようにウイルス排出の時期が通常と異なるため、診断検査法にはより高い感受性が要求される。

上述のような条件を満たす診断検査はまだ存在しない。現在使用可能な診断検査は極めて迅速に開発されたが、発病初期には少量のウイルスしか排出しないため、SARSウイルスあるいはその遺伝子断片を十分な信頼性をもって検出することはできない。患者は病初期にも感染性があるため、信頼性を持って検知し、早期に隔離することが必要であり、現行の診断検査法の感度が低いことは、SARSの感染制御対策にとって特に大きな障害である。

SARS患者では、検出可能な強さの免疫反応は発病後5、6日経過しないと起こらない。信頼性のある抗体検査は発症後10日目前後になって初めて、ウイルス感染を検出*できる。
*訳注:IFA(免疫蛍光抗体法) は10日前後で検出可能と報告されている。

WHOは引き続き、「疑い例」および「可能性例」の検知と症例管理方法の決定に、臨床症状、特徴ある胸部X線所見、SARS患者との接触歴がある可能性などに基づいたSARSの症例定義を使用することを推奨している。

より良い診断検査開発を促進するために、WHO共同研究ネットワークに属する研究施設では、企業を含めて診断検査の開発に継続的興味を示している研究所のすべてに、重要な生物学的材料と試薬を提供できるようにしている。SARS患者からの呼吸器系検体、血液、尿、便の検体を含む臨床検体を集めた、総合的な臨床検体バンクが設立された。この臨床検体バンクには、発症時から回復期までの全疾病過程の検体が保存されている。

診断検査開発過程において、実験室での人工的な環境と異なり、実際の患者検体で、どの程度その検査が有効であるか評価するために、こうした臨床検体が必要である。

香港の保健署と醫院管理局(Hospital Authority)によって設立された臨床検体バンクの検体は、WHOネットワークに属するひとつの研究機関から提供されており、診断検査の開発研究機関に無償提供される。ひとつの種類の採取検体を、6から8のまったく同一の検体に分割することで、複数の研究機関で同じ検体を用いた同時進行の作業を可能にし、さらにそれぞれの診断検査の性能を比較評価することを容易にする。同一の検体を使用することは、診断検査の精度を常に確保するために標準化することに役立つ。

WHOネットワークの研究施設ではまた、ウイルス検査と抗体検査のための標準化試薬も入手できるようにした。これらの試薬には、不活化ウイルスと患者の急性期および回復期の血液が含まれるが、世界中からの診断結果を「gold standard」(基準とする検査)に照らして一律に評価することを可能にする。

血清は、英国と香港のWHOネットワークの研究機関から入手できるようになっている。不活化ウイルスは、ドイツのBernard-Nocht研究所で準備されている。これらの試薬の配付は、やはりドイツにあるRobert-Koch研究所が責任を持って行っている。これらの「独占的」材料の提供を受ける代償として、WHOの援助を受けて診断検査法を開発しようとする施設は、一旦検査キットが使用可能になった際には、発展途上国に割安な価格で提供する事に同意している。

中国における研修コース
WHOは現在、中国全土のすべての省でSARS診断のために効果的な検査基盤を確立するために、北京で一連の研修コースを行う調整をしている。WHO共同研究ネットワークの協力により、この研修コースに検査検体と試薬の提供支援をすることが可能となった。

現在入手可能な検査法の使用に関する研修は、それらが開発された研究室の代表者によって行われる。つまり、中国の専門家たちは、世界最高の実習経験の恩恵を受けられることは確かである。研修指導者は、米国、英国、香港の研究所から訪中する。

中国はすでに、大いに期待できるELISA診断検査法を開発している。平均的なレベルの病院では、SARSウイルスの早期検出にはPCR法が最大の効果を発揮する。Singapore Genomic Instituteは、彼らの開発したPCR法を、中国でのSARS診断検査のために無償提供している。

中国本土では、新規症例数や死亡例数はかなり減ってきているが、WHOと中国当局は、サーベイランス、報告システム、病院設備などを含む保健基盤が、SARS問題の大さに対応するために十分に整備されていない、辺境のいくつかの省における状況に関して、依然として懸念を持ち続けている。

患者情報と感染が報告された国に関する最新報告
本日までに29ヶ国から、累積で8,384例の「可能性例」と770例の死亡例が報告されている。これは先週の土曜日(5月31日)に比べ、27例の新たな症例と6例の死亡例の増加である。新たな死亡例は中国から2例、香港特別行政区から4例報告されている。

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