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2003/5/26

重症急性呼吸器症候群(SARS)−64



WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(5月23日、更新第64報)


トロントの状況と野生動物でのSARS様ウイルスの検出


トロントの状況
カナダの保健当局は昨日WHOに、トロントのあるひとつの病院での5症例からなる呼吸器疾患の集積を報告した。予防的措置としてこの集積群は、違うことが証明されるまでは、SARSの可能性が有る症例として取り扱われている。集中的な実験室における研究と、臨床現場での調査が行われている。本日までのところ、5人の患者とSARS「可能性例」との接点はしっかりとした記録から否定されている。

本日WHOはカナダ当局から、来週早々に更に情報が得られる予定であると知らされた。この調査の結果を待っており、先週WHOの「最近の地域内伝播」の一覧から取り除かれたまま、トロントの状況の変更はない。

中国南部の野生動物からSARSコロナウイルスに関連したウイルスが分離された報告に対するコメント
中国の香港と深川の研究チームは本日、中国南部で食用の野生動物を売っている市場で入手した、野生動物に関する共同研究の成果を発表した。この研究では、検査したうちの2種の動物(ハクビシンとタヌキ)から、SARSコロナウイルスに遺伝的に近い幾つかのコロナウイルスを検出した。この研究ではまた、もう一つ別の種(中国イタチアナグマ)がSARSコロナウイルスに対する抗体を持っている事も発見した。これらと他の野生動物は、伝統的に珍味と考えられており、中国南部中の市場で食用として売られている。

実験に用いられた6匹のハクビシンすべてがSARSコロナウイルスを持っており、ウイルス培養あるいはPCR法によって分離、検出された。これらの動物はまた、抗体が陽性となっており、その血清はヒトから分離されたSARSコロナウイルスの増殖を阻害した。これとは反対に、SARS患者血清はこれら動物から分離したSARSウイルスの増殖を阻害した。

これら動物から分離したウイルスのシークエンス(遺伝子配列)は、短いシークエンスが付け加わっている以外は、ヒトのSARSウイルスと同一であることが示された。

SARSの感染経路において動物が果たす可能性のある役割に関する情報は、SARS全体の理解に非常に重要である。どのような確固たる結論にも達する前に、さらに研究を重ねる事が必要とされている。現時点では、これらの野生動物の種がSARS集団発生の疫学に置いて、いかなる重要な役を演じたのかを示唆する証拠がまったくない。しかしながら、これらの動物がヒトの感染症の原因であったかもしれない可能性は、否定してしまう事はできない。

予防的措置として、これらの種や体液や分泌物を含むその産生物と接触する可能性のある個人は、特に取り扱い時や屠殺時、可能性として食品加工処理時や摂食時などに、可能性のある健康リスクに十分注意しなければならない。

この研究は、SARSウイルスがヒト以外の宿主に存在する最初の示唆を示した。しかしながら、多くの根本的疑問がまだ残っている。対象は一つの市場からだけ集められている。研究により、広東省や他の地域でSARSウイルスが動物間にどれだけ広く広がっているかを特定し、これらの動物がヒトを感染させるのに十分な量のウイルスを分泌することができるのかどうかを知る必要がある。さらに、動物間の感染伝播があり得るのかについても調査が必要である。たとえば、ウイルスの存在は、感染した獲物を摂取しただけであることも考えられる。

患者情報と感染が報告された国に関する最新報告
本日までに28ヶ国から、累積で8,117例のSARS「可能性例」と689例の死亡例が報告されている。これは昨日に比べ、77例の新規症例と7死亡例の増加である。新しい死亡例は中国から3例、香港特別行政区から2例、シンガポールから2例が報告されている。

ほとんどの新しい症例が台湾(中国)から報告されている。本日55例の新規症例が報告されたことで、台湾の累計は538例の「可能性例」となり、本日までのところ3番目に深刻な集団発生が起こった地区となった。

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