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2003/5/24

重症急性呼吸器症候群(SARS)−62



WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(5月22日、更新第62報)


世界の報告症例数は8,000超、 台湾の状況、旅客機内伝播、河南省からの報告


患者情報と感染が報告された国に関する最新報告
本日までに28ヶ国から、累積で8,046例のSARS「可能性例」と682例の死亡例が報告されている。これは昨日に比べ、95例の新規症例と16死亡例の増加である。新しい死亡例は中国から4例、香港特別行政区から3例、台湾から8例、シンガポールから1例が報告されている。

「可能性例」の累積数は4月28日に5,000を、5月2日に6,000を、5月8日に7,000を超えた。

台湾の状況
台湾当局は本日、60例の新たなSARS「可能性例」と8例の死亡例の報告を記録し、累計を483症例と60死亡例とした。しかしながら、先週中にみられた毎日の新規症例の大きな増加は、診断がついていなかった症例とSARS「可能性例」の症例定義に当てはまるかどうかの決定を待っていた症例が蓄積していたことを反映している可能性もある
毎日の新しい症例数が台湾におけるSARS集団発生の大きさを示唆しており、これは心配される規模であるが、以前の古い症例と新規の症例がともに毎日報告されていることから、爆発的症例数の増加は示していない。現時点の毎日の症例数の増加は、患者記録のあり方が変更されていることに加え、診断が付いていなかった「経過観察中」の症例が、「疑い例」か「可能性例」に分類されてきていることを反映している。診断が保留されていた症例数が急速に減ってきていることから、数日のうちに毎日の報告数はより正確な台湾に置ける集団発生の状況を反映するようになる筈である。

台湾は最初の「疑い例」が検知されて以後直ちに集団発生をWHOへ報告している。3月8日に入院した初めの2例は、広東省と香港への最近の旅行歴がある男性と最近の旅行歴のないその妻であった。両症例は当初SARS「疑い例」として、WHOが重症の呼吸器症状を伴う新興感染症に関して、世界的な警告を出した2日後の3月14日に検知された。

WHOのGOARN(世界的な集団発生の警報と対策のためのネットワーク)によって組織された、米国疾病対策予防センター(米国CDC)のチームは、3月16日に台湾に到着した。

台湾は当初、徐々に症例数が増加していった。4月18日に29症例が報告された。すべての症例が、接触者追跡調査と旅行歴の調査を通じて、輸入症例であるか、地域内伝播が報告されている地域へ最近の渡航歴がある症例か、患者の家族あるいはその他の密接な接触があった者かを特定された。院内の地域内伝播が大半の新たな症例の感染源となった4月の終わりに、症例数が増え始めた。「可能性例」の症例数は5月2日に100例に達し、5月13日には207例に増え、現在は483例となっている。

現在台湾は、昨日タイから緊急に輸出提供された、感染防御用具の補充を受け取っている。院内での感染制御の問題が最優先事項として挙げられている。この新しく補充された防御用具の、迅速で効果的分配を確実に行うための手順が本日決められた。

WHOは週末に、さらに2人の職員をジュネーブから台湾に派遣する。

機内での感染に関する最新情報
より完全な情報の入手に伴い、WHOはSARSの飛行機の機内において感染伝播した症例に関する統計を最新のものへ更新する。飛行中にSARSの感染が起こったと考えられる機体の数は4機に止まっている。この4機の飛行中に受けた曝露により感染したと考えられる症例は27例に訂正された。3月15日に香港から北京へ飛行した一機、CA112便単独で27例中22例を占めていることが今や分かっている。

WHOはこれ以外に、有症のSARS「可能性例」が搭乗していた31機体を把握している。これらの機体に置いて、感染があった事を示唆するような証拠は無い。平成15年3月23日以降にSARSの伝播に関与した機体は無い。

全ての事例の着席状況に関して、完全な座席表の情報は入手できていない。しかしながら、機内で有症のSARS感染者の7列前に座っていた者や、5列後ろに座っていた者が発症したかどうかは知られていない。WHOは4人の客室乗務員(二人はCA112便で勤務していた)が感染した点には注目している。

中国、河南省の共同調査団からの報告

James Maguire博士は「コミュニティベースのサーベイランスと制御方法が、中国の農村地域において明らかにSARS感染が低いことの大きな要因であろう。」と述べた。Maguire博士は、中国の河南省を6日間訪問して3日前、北京に戻った。彼は、保健省とWHOの共同調査団の一員として参加した。この調査団は、河南省の5つの県で病院、診療所と基本的な保健施設を訪問した。

調査団の完全な報告書が現在準備されており、まもなく発表される予定である。

Maguire博士は、道路、駅、バス停などに多くの検問所があり、ここで身分証明書が確認され、体温が記録されているが、これがSARSの感染拡大を制御する効果的な方法となっているようだと述べている。「この疾患への恐怖は、広範囲に行き渡っており、地域に密着したサーベイランスと、社会的および法的な圧力と相まって、住民たちは協力的である。」と彼は述べている。

河南省の当局者は、およそ140万人の労働者が、5月1日前後の長期休暇の期間にこの地方に戻ったと調査者に述べた。多くは北京や広東省の様な、SARSの感染率の高い地域から来た。4月26日〜5月15日の間に、検問所で12,028人の発熱のある人々と、955人の咳をしている人々を確認したと報告された。彼らは、「発熱診療室」(更なる診断のために個室隔離される、基本的なトリアージ・センター)に搬送された。「これらの人々の中から9人はSARSに感染していることが確認され、8人は「疑い例」であると報告を受けている」と、Maguire博士は述べている。

保健署の統計によると5月22日現在、河南省において、ひとりの医療従事者を含む15例の「可能性例」と6例の「疑い例」を報告している。

通常、伝播が確認された地域から帰省した労働者は、家族と離れた個室で15日間の自宅隔離をしなければならない。農作業を手助けするため、農作業に必要な労働者を雇ったり、必要な農業機械を購入したりして、人手による仕事量の軽減をはかれるように、経済的な支援をしている自治体もある。

「検問所や(出入国時)検疫所でのスクリーニングは、一見(大きな)ハンマーで(小さな)ハエを叩いている(hitting a fly with a hammer)様に見えるかもしれないが、実際にはうまく働いているようだ。SARSに対する恐れによってもたらされた、非常に大きな社会的圧力と相まって、中国はこの疾病の拡大に抵抗する対策を見出したかもしれない」と、Maguire博士は述べている。

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