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2003/5/21

重症急性呼吸器症候群(SARS)−59



WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(5月19日、更新第59報)


中国広西省の調査報告、台湾の状況、航空機による旅行中のSARS感染のリスク

中国広西省の調査報告
広西省では、一般と保健当局双方が高い優先順位で、この地域で起こっているSARSの比較的小さな集団発生に、上手く対応しているように見受けられる。WHOの専門家は、保健省担当者と共に実際に当地を訪れた結果、前述のような見解を示した。広西省は本日までに、22例のSARS「可能性例」と3例の死亡例を報告している。

保健衛生基盤の整備が不十分なこの「貧しい省」が、SARSの集団発生に対応できないのではないかとの懸念が示されていた。「この省が上手く機動していることを知った。ここでは大きな流行は無さそうである」と、WHOのチームリーダーであるCK Lee博士は述べている。このチームは広西省に一週間滞在した後に、先週の土曜日に北京へ戻った。

専門家は、症例を検知するための効果的なサーベイランスシステムができていることを確認した。訪問した全ての病院の診断方法、治療方法、感染制御対策は適切であると考えられる。症例の隠匿の証拠は見つからなかったが、症例定義の仕方に問題があるため、SARS「可能性例」の数は実際には多いことが考えられる。

調査チームは入院記録および通院記録の再検討の結果、地域の保健当局によって、それぞれ12月と1月から始まる二つの独立したSARS症例の集積が把握されていたことを知った。

河北省のものとよく似た広西省のサーベイランスシステムは、積極的かつ厳格なコミュニティー単位のサーベイランスで、帰郷する出稼ぎ労働者を詳細に観察し、特定の事例に置いては2週間の検疫を行うものである。適切な症例報告の機構が設立され、毎日それぞれの市あるいは県から省へ詳細な報告が行われる。

公式の記録によると、4月1日から5月8日のあいだに26万人の出稼ぎ労働者が広西省へ帰郷している。このうち20万人の労働者が隣接する広東省から戻って来ている。これらの労働者を登録するための検問所(サーベイランス拠点)が、省内へ入ってくる主な境界地点に設置されている。また、地方の公立病院の医師からなるスクリーニングチームも、帰郷する労働者の経過を観察するために、村々を訪問している。

病院での管理は効果的に行われているようで、綿密な感染制御によって、現時点まで医療従事者が感染したという報告はない。しかしながら、取られている対策の幾つかは、正当性が保証されていなかったり、持続が不可能なものであったり、不適切でさえある。たとえば、医療従事者は帽子、ガウン、手袋、マスクを三重に付けている。三重のマスクのうちの二つは、12層の綿ガーゼからできている。

専門家は、症例をどのように「可能性例」、「疑い例」、「観察中」に分類しているかによって、報告例が実際より少なくなっているのではないかと懸念している。WHOの専門家はこの点についてさらに調査しており、保健省と協力して、国内の標準的な症例定義をWHOの症例定義により近づける努力をしている。

これとは別にWHOは、この感染症が再度我々の社会の中へ持ち込まれる可能性を予測するために、SARSコロナウイルスの由来を調査する共同研究を行うことを提案した。

台湾の状況
台湾は本日、累積で344例のSARS「可能性例」と40例の死亡例を報告した。台湾は5月17日に34例の新たな症例を報告し、翌日に36例の新たな症例を報告してより、現在最も急速に集団発生が広がっている。

台湾におけるSARSの状況は急速に変化し進行しており、現在最低6つの病院に広がっているが、毎日報告されている症例の多くは、今まで診断が付かず、現在やっとSARSと認識された症例を反映している可能性もある。

特に救急室での感染管理の失敗が、病院で症例が急速に増加した原因の1つである可能性がある。

現地の当局者は感染制御の改善に注意を払っている。SARSの可能性が認知されないまま救急室に運ばれることは少なくなり、多くの症例においてはそれ以上SARSの感染を広げるようなリスクを最小限にするように救急室での対応が再構築された。

新しい患者監視方法のなかで、隔離病棟での病床の割り当てに関する指針と手法も確立される予定である。

保健署は、医師や病院からのSARS症例の報告に対応するため、24時間の報告システムを導入した。報告の遅延は法律で罰せられ、最も重い場合は禁固刑に処せられる。

台湾当局は、更なる感染の拡大を防止するために、より徹底した接触者の追跡と検疫手段を採用した。台湾でのWHOチームは、香港、シンガポールや他のアウトブレイクの押さえ込みに成功した場所で開発された詳細な実践的な指針を、台湾当局が確実に利用できるようにすることに取り組んでいる。特に、集団発生がおきた他の地域の調査チームでは、発熱している人に対する安全なスクリーニング方法への指針、自宅隔離政策、学校での感染拡大防止策への助言などが共有されている。

台湾で2番目に大きい都市の高雄での病院の対策準備状況は、台北のそれより良いと考えられる。台風に対する緊急時計画を応用し、高雄当局者らは最高50人の「可能性例」および「疑い例」と、5,000人の人々を検疫下に置く対応の模擬演習を行った。高雄地域においては、危機管理計画が市、県、地域に準備されている。高雄において、模擬演習を行った対応準備レベル以上の事態になった場合には、次の段階としては軍の介入が関与してくる。

WHOは台湾が、他の地域でその有効性が証明されている、症例検知、隔離と院内の適切な感染制御、厳格な接触者追跡調査と経過観察のサーベイランス、一般への教育と情報提供といった対策によって、集団発生を制御できると確信している。

航空機による旅行中のSARSの感染リスク
WHOは5月12日の時点で、有症状のSARS「可能性例」が乗客あるいは乗務員のあいだにいたことが分かっている、世界中からの35機についての情報を分析した。本日までに、これらのうちの4機に搭乗していた有症状のSARS「可能性例」が、同乗の旅行客や乗務員への感染を伝播した可能性と結び付けられている。

発症している「可能性例」から、機体内で隣接した席に座っていた他の同乗者にSARSが感染伝播したと考えられる一番最近の例は、3月23日にバンコクから北京向かう便の飛行中に発生した。

WHOは3月27日に、「最近の地域内伝播」があった地域を出発する航空機を利用する旅行者のスクリーニングを勧告した。香港特別行政区とシンガポールを含む、深刻なSARSの集団発生が起こっているいくつかの地域の空港では、いくつかのWHOが勧奨している以上に厳格な対策が取り入れられている。これらの地域では、迅速な症例の検知と隔離、さらに厳格な接触者追跡調査とすべての接触者の自宅隔離を行ったことが、感染性がある者の搭乗のリスクを未然に防ぐ第一選択としての役割を果たした。出国時スクリーニングに関する厳格な手法を導入することは、さらにもう一段階の予防対策である。

患者情報と感染が報告された国に関する最新報告
本日までに28ヶ国から、累計で7,864例のSARS「可能性例」と643例の死亡例が報告されている。これは先週の土曜日に世界情報を更新した時点に比べ、116例の新規症例と20例の死亡例の増加である。

新たに中国から7例、香港特別行政区から8例、台湾から5例の死亡例が報告されている。

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