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2003/5/19

重症急性呼吸器症候群(SARS)−58



WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(5月17日、更新第58報)


SARSの疫学に関する初めての世界的協議会
ジュネーブにあるWHO本部で5月16日と17日の両日、初めてのSARSの疫学に関する世界的な協議会が開かれ、本日その結果をとりまとめた。この会議は直接に参加した人たち以外に、テレビ電話、電話によって、深刻な集団発生が生じている国々の代表とこれらの地域からのWHOチームを含め、16ヵ国から40人以上の一線の疫学者が一同に会して行われた。

この会議は、人々の間でのSARSの伝播動態を理解し、そして現在推奨されている感染制御対策が適当であるかを知るために重要な、一連の基本的な疑問に答えるために招集された。SARSは新しい疾病であり、集団発生も現在進行中であるため、WHOの世界規模の勧告が、最新の、そして最高の科学的知識を反映している事を確実にするために、このような協議が必要となる。

参加者は最近完了したものや、現在行われているいくつもの調査を再検討し、直接体験した経験について情報を交換した。潜伏期、患者が感染力を持っている期間、致死率に関してのデータが示された。また、参加者たちは感染伝播様式や、無症候性の感染がSARS伝播に関与しているのかといった疑問に関しても意見を交換した。本日までのところ、症状のない感染者がSARSを他の者へ伝播したという事を示唆する報告はない。さらに、SARSが動物宿主あるいは環境中に病原巣(リザーバ)を持っている事を示唆する報告もない。

現在WHOによって勧奨されている感染制御手法は、主要な疫学的指標に関して知りうる限りの確固とした証拠に基づいていることが、専門家たちによって確認された。この指標には、最長の潜伏期が10日であること、全体の致死率が14〜15%であることが含まれる。年齢、性別、基礎疾患や合併症の有無、治療方法によって致死率が大きく変わることが参加者によって確認され、また、免疫力が低下した者や循環器系、呼吸器系の基礎疾患を持つ者にとってのこの疾患の深刻な影響についてさらに調査研究が必要である事が指摘された。専門家たちはさらに、急性の発熱を伴う呼吸器疾患を発症した者は旅行をするべきではないという、現在のWHOの勧告を支持した。

緊急に解明を必要とすることが指摘された問題点には、小児の感染に対する脆弱性、SARS患者の接触者のうち無症候性感染している者の割合、飛行機の機体や病院内のような閉鎖空間におけるSARS症例との接触の影響などが含まれる。
WHOは、病院内の清掃および消毒に関する指針の再検討、SARSの拡大に特に大きな影響を及ぼしたとされる数人の症例に関しての症例研究、医療従事者の致死率の確定、SARSの妊娠に与える影響についての国際的共同研究の設立の調整などを行うように依頼された。

集団発生が生じている主要な地域からの参加者たちは、異なる国における集団発生の驚くべき類似性と、患者の早期発見と隔離、厳格な接触者追跡調査、密接な接触者の自宅隔離、一般への情報提供と教育による発症時の迅速な報告の奨励を含む、特定の感染性制御手法の一貫した有効性を指摘した。このような対策は大きく異なる状況下のすべての集団発生の現場で有効であることが認められ、SARSを封じ込め、新しい宿主であるヒトから撃退し追い出す事ができるというWHOの包括的な見方を支持している。
会議の結果は、推奨されている感染制御対策の基盤として、また地域内での感染が報告されていない国の各国当局が、危機管理上の予防策や管理対策計画を策定する場合の基礎として用いることができる、合意文書となる予定である。このような国の計画は、輸入症例が発生した際に、集団発生防止対策に必要な設備、人員、システムが準備されているかを確認する助けとなる。

会議は形式張らず開放的な形で情報、経験、専門家の意見の交換が行われた。幾人かの参加者が指摘したように、一国として自国のみでSARSに対処できる国はないので、真剣な研究努力の世界的協力が必要である。

河北省(中国)への旅行勧告
WHOは本日、中国の河北省へ旅行を計画している者に対し、どうしても必要な旅行以外はすべて延期するように勧告を出した。この暫定的勧告は、現在の罹患者数と毎日報告される新規症例数が多いことや、医療施設のような限定された環境外での地域内の感染伝播の連鎖があることを含めた、河北省における集団発生の規模が大きいことに基づいている。これらの要因は河北省を訪れる旅行者が感染する危険と、その旅行者が引き続き他のどこかへ疾病を運んで行く危険の両方を増加させる。

同様の旅行勧告が現在香港特別行政区と台北、北京、内蒙古自治区、山西省、天津を含む中国本土の複数の地域に対して出されている。

河北省は本日までに累計で、202例の「可能性例」と10例の死亡例を報告している。

海外旅行者への勧告は、SARSがさらに国際的拡大する機会を減らすためにWHOが取っている幾つかの対策のひとつである。

シンガポールにおける状況
シンガポールの保健省は本日、5月11日と12日の両日に熱発したInstitute of Mental Health(IMH:国立精神病院)の患者とスタッフからなる症例の集積はSARSではないとの結論に達した。34人の入院患者と20人の病院スタッフを含む患者のいずれもSARS特有の臨床経過の徴候をまったく示さなかった。インフルエンザや他の上気道炎の原因を含む他の診断がなされたことにより、さらにSARSの疑いが除外された。54人の患者のうち、25人はすでに退院し、7人だけが軽い発熱症状を引き続き呈している。
保健省は先に、SARSではないことがはっきりと否定されるまでは、予防的措置として、この患者集積群をSARSの疑いがある症例として対処する事を決めていた。

この見方に基づきシンガポールでは、直ちに一連の厳格な予防対策が導入された。これには、全患者の指定病院への移送、積極的接触者追跡調査、病院から最近退院した全患者の再検診の呼びかけ、特定の個人の自宅隔離などが含まれる。これに加えて、調査の結果が出るまでにさらに感染が広がる可能性を最小限に止めるため、病院で引き続き患者の看護に当たるスタッフのために特別な宿泊施設が準備された。

シンガポールからの最後のSARS「可能性例」は、4月27日に発症し、翌日に隔離されている。

患者情報と感染が報告された国に関する最新報告
本日までに28ヶ国から、累積で7,761例のSARS「可能性例」と623例の死亡例が報告されている。これは昨日に比べ、33例の症例と12例の死亡例の増加である。新たな死亡例は中国から7例と香港特別行政区から5例が報告されている。

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