国立感染症研究所 感染症情報センター
Go to English Page
ホーム疾患別情報サーベイランス各種情報
SARS(重症急性呼吸症候群)

検査・診断

SARSコロナウイルス検出のためのウイルス分離用検体の採取・処理法およびウイルス分離

 国立感染症研究所ウイルス第三部第1室
2003年5月16日


<原則>
現時点では、ウイルス分離検査において検体の採取日、個人差等で陰性となることがあるので、陰性の検査結果はSARSコロナウイルス感染を否定するものではないことに注意していただきたい。

1

SARS-コロナウイルスは当面、WHOではBSL3で扱うことが決まっている。また、感染研においても現時点ではBSL3で対応することが決まっている。

2

SARS関連の患者検体の処理は、BSL2またはそれ以上のレベルで行わなければならない。

3

細胞への検体の接種は、BSL3で対応しなければならない。従って、必ず安全キャビネット内ですべて処理できるように、また検体の飛散や汚染の拡大が起こらないように工夫する必要がある。

下記に示す方法は通常ウイルス分離検査で行われている方法であり、SARS-コロナウイルスの分離においでも基本的には同様の操作で行う。

臨床検体からウイルスの分離率を高めるためには,採取された検体は可能な限り早期に細胞に接種される必要がある。検体採取から細胞に接種するまでは,4℃に冷やしておく。

細胞の準備:
VeroE6細胞は SARSコロナウイルスに感受性がある。
96穴のマイクロプレートや24穴のマイクロプレート、細胞培養用カルチャーボトル等にウイルス分離に使用する細胞の単層を作製する。普通3〜4日後に単層ができるように細胞を調製して細胞をまく。

検体の処理と接種:

1. 咽頭スワブ,鼻腔スワブの場合:

a)

輸送培地:
[Eagle's MEM(E-MEM)+0.5%ゼラチン+ペニシリンG 500 U/ml,ストレプトマイシン 500 μg/ml]
*輸送培地に含まれるゼラチンはオートクレーブ処理してから使用する必要があるので,オートクレーブ可能なEagle's MEM(Nissui)などを使用すると簡単に輸送培地を準備できる.

b)

検体を培養細胞へ接種後の維持培地
E-MEM+ペニシリンG 500 U/ml,ストレプトマイシン 500μg/ml+2%FBS


* 咽頭スワブや鼻腔スワブを滅菌された綿棒で採取したら,輸送培地に攪拌する.一般的に呼吸器ウイルスは細胞内に多く存在するので,できるだけ多く細胞成分を擦過して得るようにする.ただし,スワブを数時間以内に培養細胞に接種できる場合には、スワブのついた綿棒を輸送培地の代わりに維持培地に攪拌してもよい.

c)

接種
検体を接種する場合には,細胞をPBSで洗浄してから行う。


スワブが攪拌された輸送培地を4℃で,3,000回転15分間遠心し(混在する細菌を除去するため),その上清液を細胞に接種するための検体とする。


細胞がマイクロプレートで培養されている場合には,維持培地(抗生物質と2%FBS含有D-MEM)を細胞が培養されているウエルに培養に必要な量の半分(96ウエルマイクロプレートの場合は0.1 ml、24ウエルマイクロプレートの場合は0.5 ml)を加えておき,等量の検体を接種する。
 ボトルやチューブで細胞が培養されている場合には,検体を細胞全体にひろがるくらい加え,1時間経ってから(検体に含まれていると想定されているウイルスを細胞に吸着させてから)維持培地を適当量加えるとよい.
また、複数の患者からの検体を接種する際は、異患者間のクロスコンタミネーションを防ぐために、別のプレートに接種するか、やむなく同一プレートを用いる場合は、接種穴の間隔を十分にとる。

2. 気管洗浄液、鼻腔吸引液および喀痰の場合:
生理食塩水やPBSで得られた気管洗浄液や鼻腔洗浄液の場合には、維持培地で10倍程度に希釈し,4℃で,3,000回転15分間遠心して得られた上清液を検体とする。
 PBSで洗浄した細胞に,この検体を咽頭スワブや鼻腔スワブの場合と同様に接種する。


3. 尿の場合:
検体である尿を4℃で,3,000回転15分間遠心し,その上清液を接種する。
検体を細胞に接種後、37℃で1時間培養(吸着反応)する。吸着反応後にPBSで3回洗浄し,適当量の維持培地で細胞を培養する。
* 尿は細胞毒性が比較的強く,吸着反応の時間を30分にしたほうがよい場合もある。


4.便の場合:
通常の5倍量の抗生物質が入ったPBSで便の懸濁液を作る。マイクロ遠心機で
4℃,6,000回転5分間遠心し,その上清を接種する。細胞毒性が比較的強い場合が多いことから、検体接種後、炭酸ガス孵卵器内で30〜60分の吸着が終わったら、PBSで3回以上よく細胞を洗浄することが重要である。


5. 組織の場合(参考):
約10倍程度の容積の維持培地に肺組織を加え、滅菌された器具を用いて組織を破壊懸濁液を作る。4℃で3,000回転15分間遠心し,その上清液を接種する。
 吸着時間の後、適当量の維持培地で細胞を培養する.
* 細胞毒性が出ることもあるので、吸着反応後に検体を除去する方がいい場合もある。


6. 血清の場合(参考):
維持培地で血清を1:10に希釈する。
4℃で,3000回転15分間遠心し,その上清を接種する。
吸着時間の後、適当量の維持培地で細胞を培養する.

 

細胞培養および細胞変性効果(cytopathic effect, CPE)の観察:
検体接種後の細胞の培養は35〜37℃が適当と思われる。ちなみに感染研では、37℃で培養している。
検体接種後には、毎日CPEの出現の有無、細胞の性状を観察する。さらに、SARS関連のコロナウイルスのCPEの出現は接種検体にもよるが比較的早い(3〜6日目)と報告されている。必ず非接種細胞を対照として置く。


(参考)
1 現在、感染研では24 穴プレートに検体を接種し、1週間後に新しい維持培地を0.5 ml追加して、合計2週間CPEを観察している。
2 臨床検体の種類によっては、接種後に細胞毒性による細胞の変化が起こることがあるので、CPEと混同しないように注意する。また、細胞毒性による細胞の変化が疑われる際は、新しい維持培地に交換することによって細胞が正常に戻ることがある。
3 海外でのSARSコロナウイルス分離成功例によれば、検体接種後3〜6日目頃には細胞の円形化、一部脱落などのCPEが観察され、その上清を新しい細胞に継代すると比較的速やかに(24〜48時間)CPEが出現し、48時間ごろまでには大部分の細胞が剥がれ落ちるという観察結果が報告されている。
4 VeroE6細胞にSARS-Coronaウイルス(moi of >1.0)を感染させた時のCPEの形態。CPEが出現し始めると、その進行は比較的早い。

  Mock    

 24 h

28.5 h

(参考文献;The New England Journal of Medicine, April 10, 2003;www.nejm.org

 

分離ウイルスの同定:
VeroE6細胞によるウイルス分離では、SARSコロナウイルスだけでなく単純ヘルペスウイルス、エンテロウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、レオウイルス1,2,3、等の種々のウイルスが分離される可能性がある。このため、CPEが出現してもコロナウイルスか否かを同定する必要がある。

 現時点では、SARSコロナウイルス同定用の抗血清が無いため、基本的にはRT-PCR法により同定検査を行う。CPE陽性の培養上清を変性剤含有バッファー(RLT buffer)で処理するまでは、BSL3で行う。それ以降のRNA抽出操作はBSL2で行ってもよい。

RT-PCR法による新型コロナウイルスの同定については、WHO webサイト(http://www.who.int/csr/sars/primers/en/)や参考文献(The New England Journal of Medicine, April 10, 2003; www.nejm.org)に掲載されている。また、現時点で感染研で採用しているプライマーやPCRの条件については、感染研情報センターHPに掲載している。しかし、現時点では、検出感度の高い至適プライマーやPCR条件の開発が進行中であることから、偽陰性による見落とし例の問題点が指摘されている。従って、新規のプライマーやPCRの条件等の情報は暫時更新されるので、情報センターHPを時々チェックしていただきたい。

CPE陽性の培養上清は、分離ウイルスの同定確認試験のために、もとの臨床検体および地衛研で行った他の病原体除外試験の成績とともに、感染研に送付する。

CPE陽性が出た場合の最終判定は感染研での確認試験と合わせて行う。


   サンプル送付先:
     国立感染症研究所ウイルス第三部第1室 小田切孝人
     〒208-0011 東京都武蔵村山市学園4-7-1 
     TEL042-561-0771、FAX042-561-0812



Copyright ©2004 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.