感染症情報センター Infectious Disease Surveillance Center

WHOによる重症急性呼吸器症候群（SARS）
多国同時集団発生の報告
（5月14日、更新第55報）

トロントの状況変化と、中国とシンガポールの現状

トロントの状況変化
WHOは本日、カナダのトロントを「最近の地域内伝播」があった地域の一覧から外した。トロントは又、WHOが海外旅行に関した勧告を出している地域の一覧からも外された。

決定はWHOとトロント当局、カナダ保健省（Health Canada）担当者の間の電話会議後に出された。この電話会議ではカナダ保健省からの要請で、カナダのSARSの状況に関する情報の妥当性を再検討し、地域内伝播がある地域の一覧に加える決定が成された際に、WHOが用いた基準と判断方法の概要の説明が行われた。

WHOが判断上最重視している点は、地域内で感染した症例が隔離あるいは死亡してから20日が経過しているかどうかである。SARSの潜伏期の2倍に当たる20日を経過して、それ以上の症例が見られなかった場合には、感染伝播の鎖が断たれたと考える。カナダでの地域内の感染は4月20日に隔離された例が最後であった。

WHOは海外旅行に関する勧告を、SARSの一層の感染拡大を防ぐための幾つかの対策の一つとして発表している。

中国の現状
中国は本日、55例の新たなSARS「可能性例」と5例の死亡例を報告し、累計で5,124例の症例と267例の死亡例となった。新しく報告された症例のうち、39例は北京から報告された。

北京市に隣接した河北省からは本日、3例の新たなSARS「可能性例」が報告され、累積で194症例と8死亡例となった。3例すべてがSARSを疑われていた症例で、既に隔離されている。現在河北省に滞在しているWHO調査チームの報告によると、既に省内の11ある県のうち9県にSARSが広がっている。河北省からの40症例は、帰郷した出稼ぎ労働者たちへ遡ることができた。

河北省は、地元社会の協力を必要とする独特なSARS対策を採用している。臨床医らが個々の地元の行政区分の旅行者で、中国国内で地域内の伝播があるとされる地域へ行く、あるいはその地域から来た者すべてを記録している。発熱が認められた者は、さらに経過を観察するために、発熱者用のクリニックへ紹介される。最近の地域内伝播が有ると疑われる省からの労働者は、3週間の間ずっと観察下に置かれ、毎日何回も体温が測定される。農業従事者のあいだでSARSの症例が検知され、村全体が隔離された例もある。

WHOの調査団は、河北省の病院における感染制御対策は非常に忠実に国家指針に従っていることを知り、これが医療従事者の感染率が低いことの理由であるだろうと考えている。現時点までに、この省の第一線の医療従事者の10%未満しか感染しておらず、非常に低い感染率であると調査団は考えている。

シンガポールの現状
保健担当者は昨日、Institute of Mental Health（IMH：国立精神病院）の24人の患者と6人の看護師に最近熱発者の集積が見られた事を報告した。ひとりの患者を除くすべてが、院内のひとつの病棟から報告されていた。

シンガポールにおいては、積極的な封じ込めの努力が取られるとともに、はっきりと否定されるまでは、症例群をSARS例の集積の一部と考えて対処する事を当局担当者らが決めた。迅速で包括的な対策が取られたことは、関係当局の集団発生を終わらせようという強い決意の現れである。

すべての患者と看護師3人は、シンガポールのSARS指定病院であるタントクセン病院へ、より詳しい検査を行うために搬送された。関与した2つの病棟に勤務していた医師のうちの2人も、タントクセン病院へ経過観察のために入院している。

シンガポール当局は積極的接触者追跡調査を行っている。4月23日から5月2日のあいだにIMHを退院したすべての患者に対して、タントクセン病院での検診のための再来院が求められた。5月13日から、5月3日以降に退院した患者はすべて、10日間自宅隔離される。この症例集積群に関連したスタッフや患者との密接な接触者も自宅隔離される。

IMHは一連の厳格な予防対策を採用した。これには、新規入院患者の受け入れの中止、入院中の患者の退院の禁止、病棟間の患者およびスタッフの移動の禁止、入院中の患者の他院への紹介の禁止などが含まれる。これに加え、事故および救急救命を含むすべての外来患者の受け入れも一時的に中止した。

シンガポールのWHOチームは本日、多くが高齢者であるこの集積している患者には、SARS以外の原因が有るような徴候が見られると報告した。

本日はシンガポールからの、新しいSARS「可能性例」の報告は無かった。

患者情報と感染が報告された国に関する最新報告
本日までに29ヶ国から、累積で7,628例のSARS「可能性例」と587例の死亡例が報告されている。これは昨日に比べ、97例の症例と14例の死亡例の増加である。新たな死亡例はカナダから1例、中国から5例、香港特別行政区から2例、台湾（中国）から6例が報告されている。