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2003/5/15

重症急性呼吸器症候群(SARS)−54



WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(5月13日、更新第54報)

 

初期の「ホット・ゾーン」における集団発生から示唆されるSARSの収束の可能性


本日までのWHOのSARSに対する対策は、症例が報告されている国々の国内、および国際的な拡大の機会を封じる事に目的を置いてきた。この疾患の封じ込めができることが、多くの国々における経験から示されている。これは、「SARSが新たなヒトの感染症として、その地位を広く確立することを防ぐ」というWHOの総合的目標の達成を支援する。

ワクチンが存在しない以上、SARSの様な新しい疾病の、最も効果的な感染制御対策は感染者から健常者への感染伝播の鎖を断ち切る事である。SARSの感染は報告された症例のほとんどで、直接対面するような密接な接触状況の下で、患者がくしゃみや咳をして病原体を含んだ飛沫に曝露することによって広がっている。

SARSの場合、症例探知、患者隔離、接触者追跡調査の3つの活動によって、一人の感染者に曝露する人数を減らし、徐々に感染伝播の鎖を断ち切ることができる。

症例探知においては、疾病の発症後直ちにSARS症例を検知する事を目標とする。一旦症例が検知されたら次の段階として、適切に整備された施設へそれらの人々の迅速な隔離と、感染制御対策の厳格な手法に従った管理を確実に行う。三番目の活動とは、探知作業になるが、各症例の密接な接触者全員の特定と、毎日の検診と自主的な自宅隔離の可能性を含めた、接触者の詳細な追跡調査を確実に行うことである。

これらの対策活動の組み合わせで、感染力のある各症例が毎日接触する可能性のある人数を制限することができる。また、発症と患者隔離の間の期間を短縮することが可能となり、他の人々へウイルスを広げる機会を減らすことになる。

これらの活動方法の有効性は、疾病拡大の重要な指標である、いわゆる「有効再生患者数(effective reproduction number)」に反映される。この指標は、各新規症例一例によって、新たに感染した症例数の平均である。

もし新たなSARS症例それぞれが、二人以上の人へ感染を広げる場合には、経時的に新規症例数は増加して行く。もし新たなSARS症例それぞれが、一人へ感染を広げる場合には、新規症例数は変わらない。しかしながら、もし新たなSARS症例それぞれが、平均して一人より少ない人へ感染を広げる場合には、新規症例数は減少し、集団発生は終息する。これが引き続き、個々の国と世界規模両方におけるWHOの総合的目標である。

シンガポールの例
シンガポールは接触者追跡調査と隔離における包括的対策を制定し、その対策は実際に機能しているように見える。昨日のWHOとシンガポールの担当官達とのテレビ会議において、いわゆる「隔離までの期間」が集団発生初期の3日という長いものから、先週には1.4日へ短縮された事が報告された。これによって、他の人が感染した人からSARSウイルスの曝露を受ける期間が半減した事になる。

これらの方法は他の地域でも適用され、SARS集団発生がいくつもの地域で制御されるようになっている。WHOは現在、これらの対策や世界中で導入されている他の手法の有効性を、系統的に評価するために必要な情報を集めている。

それでもなお、対応準備の整っていない病院へ、たったひとりの症例が入院することで新しい集団発生が引き起こされる事が可能である点を、SARSは明確に示している。多くの地域で良い方向へ状況が向かう傾向が見られているが、世界的にSARSの封じ込めを成功させるためには、感染制御対策により力を入れることが必要である。エボラ出血熱に関するWHOの経験から、封じ込めの初期段階が、感染制御の緩んでくる最も危険な時期である。

WHOのGOARN(世界的集団発生の警報と対応のためのネットワーク)の調整役であるMichael J. Ryan博士は、「我々はまだ満足してはならない。実際今が努力を一層強化する時期である」と、言っている。
Ryan博士は、エボラや他の幾つかの新興・再興感染症の大きな集団発生の、国際的実地対応を指揮した経験がある。

患者情報と感染が報告された国に関する最新報告
本日までに29ヶ国から、累積で7,548例のSARS「可能性例」と573例の死亡例が報告されている。これは昨日に比べ、111例の症例と21例の死亡例の増加である。新たな死亡例は中国から10例、香港特別行政区から7例、台湾(中国)から4例が報告されている。

中国は本日、80例の新しい「可能性例」と10例の死亡例を報告し、累積で5,086例の「可能性例」と262例の死亡例となった。新たな症例の報告の多くは北京(48)と河北省(14)、山西省(13)に集中していた。

台湾は23例の新しい「可能性例」と4例の死亡例を報告し、累積で207例の「可能性例」と24例の死亡例となった。

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