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5/8/2003

重症急性呼吸器症候群(SARS)−49



WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(5月7日、更新第49報)


SARS致死率、潜伏期間            

致死率

WHOは本日、当初推定したSARSの致死率の値を変更した。この変更はカナダ、中国、香港特別行政区、シンガポール、ベトナムからの最近の調査結果に基づいている。

前回のものに比べ詳細かつ完全で、信頼性の高いデータに基づき、WHOは現在SARSの致死率は、年齢群によって0〜50%と幅があり、全体では14〜15%と推定している。

対象とした地域における死亡の確率は、罹患者の年齢層や基礎疾患など、各症例のプロフィール(背景)によることが示された。WHOがこれまでに受け取ったデータに基づき、SARS致死率は24歳以下では1%未満、25歳〜44歳では6%、45歳〜64歳では15%、65歳以上では50%以上と推定された。

「致死率」は、その病気に罹患したすべての人に対する死亡者比率として算出される。すなわち、その病気が罹患した人ををどのくらい死亡させるかとして算出され、これはその病気の持つ重篤さの指標であり、公衆衛生上の重要性の指標でもある。

SARSによる死亡の確率は、SARSウイルスそのもの、ウイルスに暴露した経路及び暴露したウイルスの量、年齢や他疾患の有無などの症例毎の要因、また、迅速に医療を受けることができたかなどの要因に影響される。

SARSの流行はまだ続いており、多くの要因が致死率の算出を複雑にしている。SARSによる死亡は、典型的には発症の数週間後である。また、完全な回復にはそれ以上の時間を要すると思われる。流行はまだ続いており、罹患したうちの一部の人が死亡、または回復した状況に過ぎない。流行の最終点においてのみ、総死亡者数、総回復者数、不明者数によって、完全な致死率を算出できる。死亡者数を、発病からの死亡までの時期に関わりなく報告された患者数で割って算出された致死率は、真の致死率よりも低く出る。

この問題点を解消する方法のひとつは、最終的な転帰(死亡か、回復か)がわかった人だけについて算出することである。しかしながら、流行が終結する以前にこの方法を採用すると、SARSの発症から死亡までの平均期間は、発症から回復までの平均期間よりも短くなるので、致死率を過大評価することになってしまう。

これらの方法によって求められた致死率は、香港では11〜17%、シンガポールでは13〜15%、カナダでは15〜19%、中国では5〜13%である。

より正確で、誤差のないSARSの致死率は、第3の方法、すなわち生存者分析によって求めることができる。この方法は、発症から死亡または完全に回復した時点まで、あるいは現時点の患者さんについては発症時からの現在までの、個々の詳細なデータによるものである。WHOがこの方法を用いて算出した致死率は、シンガポールで14%、香港で15%である。

SARSが制圧され、算出もよりすっきりとできるベトナムでの致死率はより低く、8%である。この致死率の低さに関しては、症例の多くが他の地域と比較して若く、健康な医療従事者であったことが原因のひとつであると説明できる。

潜伏期間

WHOは、また、個々の症例データを使用してSARSの潜伏期間の推定を検討した。この検討結果から、WHOは潜伏期間が最大10日間であるとの結論であることを変えていない。

潜伏期間(病原体の暴露があってから病気の発症までの期間)は、接触者の追跡調査、「可能性例」の接触者の自宅隔離の期間などを含む感染制御対策の勧告の基礎となっており、特に重要である。潜伏期間についての情報は、現れている症状や病歴からSARSであるか、他の病気であるかの診断をする際の助けとなる。

潜伏期間は、ウイルスに暴露された経路、暴露されたウイルス量、免疫状態を含む他の要因などによって、個々の症例で異なる。一部の患者ではウイルスに暴露したと考えられる機会が複数回あり、潜伏期間の推定は更に複雑である。どの暴露によって病気が引き起こされたか特定するのは不可能である。このため、最も信頼性の高い潜伏期間の推定は、既知のSARSの症例に一度だけ暴露された症例についての研究に基づく。

本日の検討においてWHOは、シンガポール、カナダ、及びヨーロッパで、明確な一度だけの暴露を受けた症例について潜伏期間を分析した。結果的に、潜伏期間は最大10日間であるという当初の潜伏期間の推定を支持するものであった。

しかしながら、最近発表された香港での57人の患者における解析においては、より長い最高潜伏期が推定されている。この解析は意義深く疾病管理にとって重要であるかもしれないが今後更なる詳細な研究がなされるだろう。このより長い潜伏期間は、方法論、診断の特異性、感染経路、感染ウイルス量またはその他の因子などが反映されているのであろう。今回の流行では、診断は他の病気でもみられるような非特異的な症状と臨床的所見の組み合わせに基づいており、診断されたすべての患者が真にSARSであるというような信頼性の高い診断基準の確立は極めて困難であった。

迅速な隔離

WHOは、SARSの全ての「疑い例」「可能性例」を可能な限り早期に隔離することを引き続き推奨する。症状発現から隔離に要する時間が短ければ、周囲への感染伝播の機会を減らす。それも、積極的な追跡調査が必要である接触者の数を減らして、保健医療関係者の負担を減らすことにも役立つ。加えて、迅速な入院は、重篤な経過をたどる可能性のある患者に対して可能な限りの救命的医療を受ける機会を提供することになる。

症例と各国の情報の更新

本日までに、累積で6903の「可能性例」、495の死亡が29の国から報告された。これは、昨日と比較して186の新しい症例と17の死亡の増加を象徴する。新しい死亡は、中国(5)、香港特別行政区(11)と台湾(1)であった。

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