重症急性呼吸器症候群(SARS)の
サーベイランスのための症例定義
(5月1日3訂)
目 的
SARSの疫学を解析し、この疾病の影響の大きさと拡大状況を継続的に監視し、その予防と感染制御に関する提言を提供するために行う。
症例定義(平成15年5月1日改定)
サーベイランスのための症例定義は、入手可能な臨床像の知見と疫学的情報に基づいていたが、幾つかの臨床検査によって補足されるようになった。これはまた、現在研究レベルで利用されている検査が、広く一般に診断用検査として利用できるようになるにつれ継続的に再検討されていく。WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)の臨床病像に関する暫定情報に、現在までのところSARSの臨床像について解っている事が要約されている。各国はそれぞれの国における疾病の状況に合わせて、症例定義を変更することが必要であると考えられる。後方視的サーベイランスは必要とされていない。
診療に携わっている臨床医は、臨床検査の結果を待っている間あるいは(SARSコロナウイルス関連の)検査の陰性結果によって、患者の症例定義の分類を引き下げるべきではないと提言する。(たとえば、SARSコロナウイルスのPCR検査が陰性の場合に、それだけを理由に「可能性例」を「疑い例」としてはならない。SARS診断における臨床検査法の利用
[英語] )
Suspect Case(疑い例)
1. 平成14年11月1日1以降に発症して受診し、以下の項目を満たす者:
・高熱(>38℃)
且つ
・咳嗽、呼吸困難
且つ、発症前10日の間に、以下のうちひとつ以上の曝露の既往がある者:
2. 原因不明な急性呼吸器疾患で平成14年11月1日1以降に死亡し、病理解剖が行われていない者で
且つ、発症前10日の間に、以下のうちひとつ以上の曝露の既往がある者:
Probable Case(可能性例)
1.
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「疑い例」で、胸部レントゲン写真において肺炎の所見又は呼吸窮迫症候群(RDS)の所見を示す者
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2.
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SARSの「疑い例」で、SARSコロナウイルス検査のひとつ以上で陽性となった者(SARS診断における臨床検査法の利用を参照)
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3.
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「疑い例」で、病理解剖所見がRDSの病理所見として矛盾せず、はっきりとした原因がないもの
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除外規定
他の診断で疾病が完全に説明される時は、その患者はSARS症例から除く。
症例の再分類
SARSは現在除外診断により診断されているので、報告症例の分類は経過と共に変化する。患者はその所属分類に関わらず、常に臨床上適切に管理されていなければならない。
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当初「疑い例」か「可能性例」と診断されたが、その他の診断で疾病が完全に説明されるときは、重複感染の可能性を慎重に考慮した上で、SARSの症例から除外する。
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「疑い例」で検査の結果「可能性例」の診断基準を満たす症例は、「可能性例」へ再分類する。
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「疑い例」で胸部レントゲン所見に異常がなかった者は、適切と考えられる治療を受け、7日間の経過観察を行う。これらの症例のうち、十分な回復が見られない者については、再度胸部レントゲン写真で評価する。
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「疑い例」で回復も十分にしているが、その疾病が他の診断では完全に説明が付かない者は、引き続き「疑い例」とする。
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「疑い例」で死亡し、病理解剖が行なわれなかった者については、「疑い例」の分類へ残す。しかしながら、この症例がSARSの感染伝播鎖に関連した例である事が解れば、「可能性例」へ再分類する。
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病理解剖が行なわれた結果、RDSの病理学的所見が認められなかった場合には症例から除外する。
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1
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SARSと確認された中国の異型肺炎の症例を含めるために、サーベイランス開始期間を平成14年11月1日とした。国際的にSARSが伝播している事の報告は平成15年3月に初めて、2月の発症例について行われた。
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2
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Close contact(密接な接触):SARSの「疑い例」あるいは「可能性例」の看護をしていた、同居していた、又は気道分泌物や体液に直接接触した場合を言う。
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報告方法
―SARS「可能性例」に分類されるすべての症例は、感染制御と集団発生の封じ込め対策に従って管理する必要がある(WHOのSARSの管理指針
[日本語訳] を参照)
―現時点では、WHOは臨床上明らかになった症例(有症例すなわち、SARSの「可能性例」と「疑い例」)についてのサーベイランスだけを行っている。(SARS「可能性例」と「疑い例」の接触者で無症状な者に対する検査と、地域における血清学的調査が、疫学的調査の一環として行われており、SARSの伝播様式に関する知見を最終的に変えるものになると考えられている。しかしながら、この研究でSARS-CoV陽性となった者に関して、この時点ではSARS症例としてWHOに届けることはしない)
―臨床検査ができない、あるいは未だ行われていない場合は、上記に述べているようにSARS「可能性例」は、統一された様式で報告が続けられなければならない
―「疑い例」で臨床検査が陽性のものは、届け出上「可能性例」と再分類されるが、これは検査を行った検査施設が適切な精度管理手法を用いている場合に限る
―世界的規模のサーベイランス上では、「可能性例」の臨床検査の結果が陽性、陰性のいずれであっても、また「疑い例」で検査陽性のものも区別しない。WHOは詳細な疫学情報、実験および臨床情報を収集するために、一部の協力国と共に定点サーベイランスを行うことについて協議する予定である。
―SARSのサーベイランス定義を満たす症例は、この時点では臨床検査結果が陰性で有ることを理由に、「症例の取り下げ」を行ってはならない。
SARSの現行のサーベイランス症例定義を引き続き用いることの理論的根拠
症例定義の臨床的、疫学的基準を引き続き用いる理由は、現時点ではSARSコロナウイルス感染に関する検定済みの、広く恒常的に利用可能な検査が無いためである。抗体検査は、発症後3週間以上経過するまで陽性化しない。今までのところ、すべての患者が抗体産生反応を呈するのかどうかは分かっていない。分子生物学的手法は適切な試薬と対照検体を用い、厳しく管理された条件下で行われなければならず、疾病の早期には現在の試薬を用いて検出することは難しい。疾病のどの段階で、どの検体を用いるのが最も良いか未だ分かっていない。曝露が確認されており、より詳細な臨床的、疫学的情報が存在する患者に対して、より多くの検査がおこなわれていくようになると、この情報は正確になっていく。近い将来に、自信を持って疾病早期の特定の時期に用いる事ができる、入手し易い検定済みの診断検査法が利用可能となる事を期待する。
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