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4/30/2003

重症急性呼吸器症候群(SARS)−39


(仮訳)

WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(4月25日、更新第39報)


ベトナムにおける楽観的展望と診断検査使用時に強く求められる注意


ベトナムは近くSARSを収束させた最初の国となると見られている

ベトナムでは高い警戒レベルと適切なサーベイランスにもかかわらず、連続して17日間のあいだSARSの新しい症例が報告されていない。多くの「未確認情報」が報告されたが、すべての情報がWHOと政府担当者により調査され、すべての疑わしい症例にSARS感染以外の原因があることが確認された。

最近報告された「可能性例」は4月8日に検知され、この報告でベトナムの累積症例数は63例となった。この症例の報告は、8日間のあいだ新規症例が報告されなかった後に起こったため、当初失望を招いた。2月の終わりに初めてハノイで集団発生が認められてから現在までに、5例の死亡例が報告されている。本日までの時点で、5人の患者が引き続き入院中である。

ベトナムは2番目にSARSの集団発生が発生した国である。最初は中国で、昨年の11月中旬に広東省で集団発生が起こっている。

4月30日までに(潜伏期の2倍の期間が満了する日であるが)新しい症例が認められなければ、ベトナムがSARSの影響を受けた国々(伝播確認地域)の一覧表から取り下げられる最初の国になることができる。これを達成できれば同時に、ベトナムはSARS集団発生を成功裏に収束させた最初の国となる。

WHOの感染症専門家のCarlo Urbani博士によって、SARSは初めて指摘された。博士は、ハノイのフレンチ・ホスピタルで中国系アメリカ人のビジネスマンの治療に当たった医療従事者のあいだに、通常とは異なる重症の呼吸器疾患の患者が見られるようになった時に、世界へ向けて警告を発した。この48歳の香港在住の患者は、2月26日に発熱と呼吸器症状で入院した。彼の入院直前の旅行歴には、広東省、上海、マカオ独立行政区が含まれていた。3月20日には、最低でも22人のハノイ・ホスピタルの職員がインフルエンザ様症状を呈して不調を訴えていた。20人には肺炎の徴候があり、2人は重症であった。

この中国系アメリカ人のビジネスマンは、3月13日に香港でSARSのために死亡した。Urbani博士は3月29日にタイでSARSのために亡くなった。

WHOベトナム支部の職員は、同国での成功は初期にすばやくSARSへ対策を取ったことにあるとしている。「Carloがこの疾病を指摘してから、我々はすばやく適切な感染制御対策を導入するように病院側を説得することができた」と、ベトナムのWHO代表Pascale Brudonは述べている。

その後すぐに、ハノイでのWHOとの連携した対応への全面的援助を含め、ベトナム政府の責任ある対応が得られた。Brudonは、「最初の優先課題は、疾病の拡大を防ぎ、個々の症例の経過を観察することであった」と述べている。すぐに、日本政府と国境無き医師団(M仕ecins Sans Fronti俊es)から、SARS対策のための国際的協力が得られた。両者はWHOの指揮下でベトナムで活動した。

ベトナムは、入院前に3日とハノイ市内で過ごしていなかった、たった一人の発端者しかいなかったことが幸いした。このように、地域社会の中にいた時間が短かったことが、効果的に隔離された病院環境にSARSウイルスの伝播の機会をとどめることに繋がった。

最近、ベトナムの北方のクァンニン(Quang Ninh:ハロン)省では、SARSの輸入を防ぐ努力としてその陸続きの国境線で、中国からの陸路の旅行客に対し入国を拒否し始めている。この動きは、保健担当相の勧告によって、ベトナム政府が中国に対して国境を無期限に封鎖したことに関連した、すべての決定に先立ってみられた。

診断検査の使用にあたっては、強く注意が求められる

WHOは現在、4つの主な代表的な研究施設と協力し、臨床的に有効性が確立されたSARS診断検査を開発している。この検査の精度を評価し、信頼性を確認するための、標準試薬が開発された。この検査法が開発され、臨床的に有効であることが確認されたなら、SARSの症例を確認するために信頼して使うことができる。しかしながら、検査の開発と検定は最低あと2週間かかるものと考えられる。

それまでは、主にWHOウェブサイト上で入手可能な情報に基づき、各国の研究施設がSARS診断検査を開発するようになっており、これを用いることになるが、その際に各国当局と医療および病院のスタッフが、現在利用可能な検査の限界を理解しておくことが非常に重要になる。これら検査を治療の決定根拠とすることは、誤った「安全」の感覚を植えつけることになり、SARSウイルスに感染しており、他者へ感染を広げることができる個人を検知せずに逃すことへ繋がる。

PCR検査は、血液、糞便、気道分泌物、組織のような、様々な検体中のSARSウイルスを検出することができる。PCR検査で鍵となるプライマーは、WHOネットワークの研究施設によってウェッブサイトで一般に入手可能となっている。このプライマーは公表後、世界中の多くの国々で使用されている。

これらの現在使用可能なPCR検査は、非常に特異性は高いが、感度が欠如している。これは言い換えると、患者がSARSウイルスに感染していないことを証明する点においては、検査の(陰性の)結果を信頼することができないということである。

信頼性のある診断検査がないことから、各国当局は「疑い例」、「可能性例」の両方がどのようなどのような特徴を持っているかに関して、診断検査の結果に頼るのではなく、現在の臨床的、疫学的な症例定義に基づき決定を下すことを強く勧奨する。WHOは、すべてのSARS「疑い例」、「可能性例」を隔離し、厳格な感染防御の手法に基づき管理するように提言する。

その他の現在使用できる検査法にもそれぞれ重大な限界がある。ELISA(固相酵素結合免疫測定法)はSARS患者の血清中の抗体を、信頼性を持って検出するが、それは臨床徴候と症状の発現後およそ21日目以降しかできない。免疫蛍光抗体法はSARS患者血清中の抗体を検出するが、臨床徴候と症状が出現後、約10日目以降である。その上に、信頼性のある結果を得るには、固定したSARSウイルスの使用、免疫蛍光顕微鏡、経験豊かな顕微鏡技師など必要とされる要件が多い。

SARS患者の検体中のウイルスは、培養細胞へ感染させてウイルスを増殖させることでも検出できる。ウイルスは一旦分離した後にさらに検査を行い、SARSウイルスであることを同定しなければならない。これは非常に多くの条件を満たすことを要求し、時間を要する検査方法だが、生きたウイルスの存在を示す唯一の方法である。

患者情報と感染が報告された国に関する最新報告

本日までに26ヶ国から、累積で症例4,649例と死亡例274例が報告されている。これは昨日に比べ、210例の新規症例と11死亡例の増加である。新しい死亡例は中国から5例と香港特別行政区から6例が報告されている。

中国の衛生署はWHOへ本日新たに、180例の「可能性例」を報告した。地域別では、北京から103例、内モンゴル自治区23例、広東省15例、天津直轄市(Tianjin)13例、河北省(Hebei)12例、山西省(Shanxi)11例、河南省(Henan)、広西自治区(Guangxi)、四川省(Sichuan)から各1例が報告されている。この最新の報告で、中国の「可能性例」の累積報告数は2,601例にのぼった。北京17例、天津直轄市9例、河北省5例、内モンゴル自治区5例、山西省1例、広東省1例の、総計で38例の「可能性例」が新たに医療従事者のあいだから報告された。

北京から3例、山西省と広東省から各1例の死亡例が報告され、中国の累積死亡例数は115例となった。引き続き医療従事者のあいだから症例が報告されている事実は、院内での感染制御を向上させる必要性を強調している。WHOは引き続き北京当局からの、状況を詳細に検討するために必要な、症例の発症日と地理的分布に関する情報の提供を待っている。


 
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