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4/25/2003


SARS: 診断検査の入手状況と検査方法の実際(改訂)
(4月18日)

 

数カ国の研究者たちが迅速かつ正確なSARSの診断検査を開発するために研究を行っている。しかしながらこれらの検査が、実際の臨床の場で適切に試験的使用され、信頼できるものであることが示されない限り、SARSの診断は引き続き、原因不明の非典型的肺炎の臨床所見と、SARSの「疑い例」あるいは「可能性例」、またはその気道分泌物やその他の体液への曝露歴によってなされる(Case Definitions for Surveillance of Severe Acute Respiratory Syndrome (SARS) [日本語版] )。これは現在のWHOによるSARS「疑い例」、「可能性例」の症例定義にも反映されている。しかし、カナダ、フランス、ドイツ、香港特別行政区、日本、オランダ、シンガポール、英国、米国などの国々では、SARSの「疑い例」や「可能性例」の症例の検体検査を研究段階として行っている。

検査結果の解釈

陽性結果:SARS患者が現在あるいは最近、SARSウイルスに感染したことを示唆する。種々の検査法の特異性については、さらに検討が必要である。

陰性結果:SARSウイルス検査が陰性であっても、患者が「SARSに感染していない」という意味ではない。SARSの患者でこの検査結果が陰性となる理由としては以下が考えられる:

患者はSARSウイルスに感染していない。つまり、疾病は他の感染性病原体(ウイルス、細菌、真菌)あるいは、非感染性の原因によりおきている。

感度が低いために、検査結果が正しくない(偽陰性)。現在の検査法は感度を向上させるために更に開発を続ける必要がある。

(PCRやウイルス培養のための)検体採取が、ウイルスやその遺伝子あるいは遺伝子断片を排出する時期に行われなかった。検査した検体の種類により、ウイルスやその遺伝子断片の排出期間が短期間しかない場合も考えられる。

疾病の早期に検体が採取され、(ELISAや免疫蛍光抗体法で検出するべき)抗体がまだ作られていなかった。

WHOは将来、SARSという疾患の臨床経過への理解を深めるために、診断検査が容易に利用可能となった時のことを考え、SARS患者から経時的に連続して研究目的の検体を採取し、保存しておくことを臨床家たちに推奨している。これは特に、SARSが報告されていなかった各国で、最初の症例が報告された場合に重要である。

SARSの「疑い例」と「可能性例」の検体の取り扱い指針は、米国疾病対策予防センター(CDC)のウェッブサイト上にある。(本邦の場合は、国立感染症研究所 感染症情報センターのウェブサイト(SARSに対する検査対応について)を参照する)

現在開発中の診断検査法の状況
1. 抗体検査

ELISA(固相酵素結合免疫測定法)はSARS患者の血清中の抗体を、臨床症状と徴候が出現後21日目以降から信頼性を持って検出する。

IFA(免疫蛍光抗体法)はSARS患者の血清中の抗体を、発症後約10日目以降から検出する。これは信頼性のある検査方法ではあるが、固定したSARSウイルス、蛍光顕微鏡、そして経験豊かな顕微鏡技師が必要となる。陽性結果は、患者がSARSウイルスに感染していたことを示す。


2. 分子生物学的検査法(PCR)
PCRは様々な検体(血液、糞便、気道分泌物、体液)から、SARSウイルスの遺伝子や遺伝子断片を検出することができる。PCR検査法の大事な鍵となるプライマーは、共同研究ネットワークに所属する研究所によって、WHOのウエッブサイト (感染症情報センター 日本語版)上で公開され、世界中の多くの国々で用いられた。プライマーと、陽性と陰性のコントロールを含んだ、既製のPCR診断検査キットがひとつ開発された。

WHOネットワークの研究施設によって、他のネットワークの研究所によって開発されたプライマーを用いた場合と比較検討検され、このキットの性能の評価検討に必要な情報が、早急に収集される予定である。現在公開されているPCR法は、特異性は非常に高いが、感度が低い。つまり、陰性の検査結果でも患者がSARSウイルスに感染していることを否定できない。検査結果の信頼性を向上するために、多くのWHOネットワークの研究施設が、それぞれのPCR検査方法とプライマーの改良を続けている。

SARS特異的PCR検査を行っている研究施設は、精度管理の手法を採用し、国内あるいはWHOの共同研究施設から協力研究施設を決め、陽性結果を交差検定する必要がある。

SARS特異的PCR検査を行っている研究施設は、特に陽性予測率(PPV)が低いと考えられるSARSの発生頻度が低い地域では、陽性結果を確認するための厳しい基準を採用しなければならない:

−PCRの検査手技では、検査一回ごとに適切な陰性と陽性のコントロール(対照検体)も共に検査するべきであり、この検体は陰性は陰性、陽性は陽性の予測どおりの結果を示さなければならない:

・ 抽出過程に陰性検体を1つと、PCR増幅過程に水の検体を1つ
・ PCR増幅過程と抽出過程に陽性検体を1つずつと、PCR検査を阻害する物質を検出するための、弱陽性となるコントロール(インヒビション・コントロール)を患者検体に加えたものをそれぞれの患者ごとに平行して同時に1つずつ

−もし、PCR結果が陽性であった場合には、結果の確認を次のような方法で行う:

   ・ 原検体から反復してPCRを行う
   且つ
   ・ 第2の遺伝子領域を増幅する

   あるいは 第2の研究所で同一の検体を検査してもらう

3. 細胞培養(ウイルス分離)法
SARS患者検体(気道分泌物、血液、糞便)中のウイルスは、培養細胞に感染増殖させることでも検出できる。ウイルスは一旦分離した後にさらに検査を行い、SARSウイルスであることを同定しなければならない。これは非常に多くの条件を満たすことを要求する検査方法だが、生きたウイルスの存在を示す唯一の方法である。

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