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4/25/2003

重症急性呼吸器症候群(SARS)−32


(仮訳)

WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(4月17日、更新第32報)


中国、香港と診断検査の現状

中 国
中国当局は本日12例のSARS新規症例を報告した。新規症例は広東省から9例、内モンゴルと四川(Sichuan)省からそれぞれ1例ずつであった。中国西部の片田舎の貧しい省である寧夏(Ningxia)は、本日最初の症例を報告した。

本日は北京からの新規症例の報告も、死亡例の報告も無い。

本日の報告数には、北京の軍病院の症例は含まれていない。中国の法律の下で軍の病院には保健当局への報告義務がなく、これが過去数日のあいだ多くの噂の的となっていた。WHOチームは昨日、北京の人民解放軍病院の訪問を始めた。

最近広東省の軍病院が、SARS症例を当局に報告することを決定したが、これが重要な先例を作ったものと考えられる。中国のWHO職員は、全国レベルのサーベイランスが存在し、地方に報告のためのチームがおり、現在症例を報告するようになったことでより心強く思っている。全国的なSARSチームが存在し、積極的に症例探査を行っていることは、SARSの脅威が政府によって深刻に受け止められていることを示す、歓迎すべき徴候である。

さらに別のWHOチームが来週上海へ向かう予定である。

香 港
香港衛生署と環境運輸及工務局は本日、淘大花園(アモイガーデン)住宅団地の居住者のあいだで発生した、SARS症例の大きな集積群の発生原因に関する徹底した調査の結果を発表した。この報告は、環境中のSARSウイルス感染源の存在が、大きな、通常では見られない様なSARS症例の集積を説明できるかどうかを判断するためにデザインされた、数多くの調査の結果に基づいている。

4月15日の時点で保健当局は、累計で321人の淘大花園(アモイガーデン)の住人がSARSに感染したと報告している。症例のうちの多くはひとつの棟、ブロックEの上下に連続した住宅に集中している。

汚水システムによる伝播の可能性に注目が集まっている。幾つかの他の集団発生とは異なる様相があるが、そのひとつとして、この淘大花園(アモイガーデン)の集積患者のあいだでは、推計で約60%と高率で下痢症状を呈したことがある。他の患者集積群のほとんどで、下痢症状は一般にわずか2~7%に見られただけであった。

WHOの疫学者たちは現在、今朝早く香港衛生署から提出されたこの報告書を検討している。

診断検査の状況
WHO共同研究ネットワークに属する研究施設の研究者たちは、昨日ジュネーブで会議を開き、来月の研究課題の優先順位について計画を立てた。このネットワークはまた、動物実験の結果から、先月このグループによって発見された新しいコロナウイルスがSARSを引き起こしている病原体であるとする最終的な証拠を発表した。

SARSの原因が分かったので、ネットワークに属する科学者たちは現在、より良い診断検査の開発を優先順位の最上位においている。そのための最初のステップは、異なる国々の様々なSARS患者からの検体を集めたデータバンクを作ることである。科学者たちはまた、個々の患者から回復期を含めて異なる病期に採取した検体のバンクも作っている。

このような時系列検体(経時的にひとりの人から採取された検体)は、患者が他者への感染力を持つようになる最初の段階でウイルスを検出できる検査を開発するためには、きわめて重要である。それはまた、回復した患者が他者への感染の危険無しに、職場や家庭へ安全に戻れる疾病経過上の時期を決定する一助となると考えられる。

今後数週間のこのほかの予定には、世界中のSARS患者から採取された検体の遺伝子ライブラリーの作成などが含まれる。今や、ネットワークに属する幾つかの研究施設で全シークエンスが決定された、このコロナウイルスの遺伝的差異が、治療薬やワクチンの開発に大きな影響を与えるのかどうかは未だ分かっていない。

現在の診断用PCR検査の性能は、SARSの「疑い例」や「可能性例」の疾病の早期に、確信を持ってウイルスの存在を否定するには十分ではない。

WHOは、ドイツのバイオテクノロジー会社によって当初無償で提供される予定の現在のPCRキットを使用することによって、その検査結果から誤った「安心感」を生み、ウイルスに感染している人たちを検知すること無しに通過させてしまうのではないかと懸念している。

より信頼性の高い検査方法が手に入らない限り、SARSが疑われる症例に対応する病院職員は、予防的に患者を隔離し、厳格な感染制御手法に則り管理するしか方法はない。このような手法や対策は、患者にとって非常にストレスになるものであり、医療機関にも著しい負担を強いる事となる。患者情報と感染が報告された国に関する最新報告
本日までに、25ヶ国から累積で3,389例の症例と165例の死亡例が報告されている。本日の一覧表に初めて「可能性例」を報告してきた国々には、オーストラリア(3例)とモンゴル(3例)がある。

さらに検査を進めた結果、多くのSARSが疑われた症例について、他の一般的にみられる原因が検出された。


 
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