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4/17/2003

重症急性呼吸器症候群(SARS)−31


(仮訳)

WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(4月16日、更新第31報)


SARSの原因は、かつて人類の間でみられたことのない新種のコロナウイルス
――かつて無いほどの緊密な協力により、記録的な速さで新種の病原体が同定された


世界保健機関は本日、コロナウイルス科に属し、ヒトのあいだでかつて見られたことの無い病原体が重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因であると発表した。10カ国13カ所の研究施設が緊密に国際的協力を行った結果、このウイルスは異例の速さで同定された。最近数週間、このウイルスが本疾病に強い関連があることを示す多くの証拠が出されていたが、本日最終的にそれが確認された。

「SARSに関する研究の速度は驚くばかりである。世界中の国々からの研究施設が異例ともいえる共同研究を行い、今や私たちは、何がSARSを起こすかを知った」と、WHO感染症対策局の局長であるDavid Heymann博士は述べた。

コロナウイルスの同定に成功したことで、科学者たちは今後自信をもって他のSARSの問題に取り組むことができる。例えば、SARSウイルスの遺伝子情報を解明し、世界の種々の地域で分離されたウイルスのシークエンスを比較するために、引き続きいくつもの研究施設が活動している。専門家たちは今週WHOに集まり、今後のSARSに関する研究について検討する。

「本日も共同研究は続けられている。次の一歩、つまり基礎的研究からの知見の数々を診断技術へ転換していく取り組みの方法を計画するために、一流の研究者たちがWHOへ集まっている。その技術は、我々がこの疾病を効果的に制御していくために役立つはずである。我々はやっと、隔離や検疫の様な手法から踏み出し、疾患特異的治療や、やがてはワクチンといった最新の感染拡大防止対策へ意欲的に移行していくことができる。起因病原体の確定によって我々は決定的な一歩を刻んだ」とHeymann博士は語った。

第一線の科学的専門知識を結集したこの共同研究は、WHOが3月12日にSARSに関する世界的警報を出した後に設立されたものである。優先課題は原因究明と診断検査の開発であった。カナダ、フランス、ドイツ、香港中国特別行政区、日本、オランダ、シンガポール、英国、米国の研究施設からなるこのネットワークに、最近中国の2つの研究施設が加わった。

エラスムス・メディカルセンター(ロッテルダム)のウイルス学部門長Albert Osterhaus博士は次のように述べている。「このネットワークの使命の最初の部分は今日達成された。なぜなら、研究者たちが、かつて知られていなかったウイルスを検出し、それがSARSの原因であることを確認したからである。この新しいウイルスは、WHOとネットワークに参加している研究施設によって、"SARSウイルス" と命名された」。エラスムス・センターは、この新型コロナウイルスが確実にSARSを引き起こすことを証明する研究を完了した。

SARSの世界的健康被害に関する緊急性と、これがコロナウイルス科の新しいウイルスによるという示唆のために、この3週間のあいだ研究は、SARSは新型コロナウイルスによって引き起こされるという仮定の下に行われてきた。

13の研究施設は、病原体と疾病との因果関係を証明するのに必要な"Kochの原則" を満たすかどうかを確認する研究を行っていた。起因病原体を特定するこの原則とは、病原体は以下の4条件を満たしていなくてはならないとするものである。1) そのひとつの病原体が疾病の全症例で検出される。2) その病原体が宿主から分離され、純培養される。3) 分離された病原体を感受性宿主に接種した場合、当該疾患を再現することができる。4) そのように実験的に感染させた宿主から、同じ病原体が検出される。

SARSの原因を確実に指摘したことで、コロナウイルス関連の数々の発見が信頼できるものであったことが明らかであるが、これはWHOと共に活動してきた13の研究室の功績である。

「このネットワークの成員は、利益や栄誉を無視し、この新しい疾病の原因を発見し、新しい対策を見つけるために協力して研究を続けた。世界がグローバル化したこの時代には、このような共同研究が、新興感染症に対抗する唯一の前向きな対策である」と、WHOのウイルス学者であり、共同研究ネットワークの調整役であるKlaus Stohr博士は語った。

WHOとネットワークの研究施設は、WHOの科学者で、ハノイ(ベトナム)におい
てSARSの存在を初めて世界に警告し、自らはこの疾患のために平成15年3月29日に
バンコクで亡くなった故Carlo Urbani博士に、SARSウイルスの検出と同定の研究成果
を捧げる。

さらに詳しい情報が必要な方は、下記Dick Thompson までお問い合わせください。

 Dick Thompson - Communication Officer
 Communicable Disease Prevention, Control and Eradication
 WHO, Geneva
 Telephone: (+41 22) 791 26 84
 Email:thompsond@who.int


 
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