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4/16/2003

重症急性呼吸器症候群(SARS)−30


(仮訳)

WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(4月15日、更新第30報)


SARSの診断試験キットをWHOネットワーク成員へ提供

WHO共同研究ネットワークの研究施設に参加している科学者たちは、幾つかのSARS診断試験を開発した。これらは、ウイルスの特異的遺伝子情報を検出するいわゆるPCR検査も含んでいる。

PCR検査の鍵となるプライマーは4日に、ネットワーク参加研究所施設により、WHOウェブサイト上から一般に入手できるよう提供されている。このプライマーは、世界中の多くの国々で使われている。

WHOの科学者はだんだんと、現在のSARSのPCR診断検査法を早急に公開ができる状態に微調整することができることに楽観てきになっている。現存の検査法には、SARS症例におけるコロナウイルス感染を除外する能力の限界があるため、微調整を必要としている。

昨日、ハンブルグ(ドイツ)のBernhard-Nocht Institute for Tropical MedicineはWHOに対して、彼らが作製したプライマーは、ハンブルグに拠点を持つバイオテクノロジー会社によって、直ぐ使える形のキットとして入手可能に成っていると伝えた。

使用法の簡便さ以外にこのキットは、品質管理機能が組み込まれているという利点がある。さらにWHOはハンブルグの研究施設から、この検査法はWHOの共同研究ネットワークに参加している研修施設へは無償で提供する旨伝えられている。

10ヵ国からの代表的研究施設を含む、このネットワークは、SARSの起因病原体の同定の促進と迅速診断検査法の開発を平行して行うために先月設立された。

当初ネットワーク成員によってこのキットを試験的に使用する目的は、他のWHOネットワークの研究所で開発されたプライマーと比較して、この検査の性能の評価を行うために必要な情報を、素早く収集するためである。SARSウイルスに感染している患者を、疾病の早期に検出できることが性能を評価するひとつの鍵となる。WHOは以前のSARSの試験的検査法において、あまりに多くのウイルスキャリアーが検出されずに終わったことを心配していた。

既存のPCR検査法は、特異性は非常に高いが、必ずしもコロナウイルスを排出しているすべての患者を検出することはできない。検体中のSARSウイルスの信頼性がある早期診断は、発熱と他の疑わしい症状を呈して受診した患者を、直ちに隔離し厳格な感染予防手技に基づいて管理すべきかどうかを、医療従事者が判断する助けになる。このような方法は同様に、感染を他に広げる確率を大きく軽減する。

WHOのネットワークに所属するいくつもの研究施設は、かれらの開発したPCR検査法の信頼性を向上させるために、そのプロトコールとプライマーの改良に努力している。

Bernhard-Nocht Instituteは、WHO共同研究ネットワークに参加している研究施設である。かれらの迅速な検査キットの開発は、研究に打ち込んでいる科学者たちにより生み出された科学的知識が、いかに迅速に実用的な感染制御手段に応用されていくかを示すひとつの例である。

いわゆるSARS「スーパー・スプレッダー」の説明
「スーパー・スプレッダー」は、現在ではSARSと解っている非典型的な肺炎があり、数多くの人々へ疾病を広げたことに関与しているとされた、ある個人を形容する語として使われている。

「スーパー・スプレッダー」の現象は医学的に認識された状態ではないが、集団発生の初期の頃まで遡って見出す事ができる。その頃には、つまりSARSがやっと重症な新しい病気として認識され始めた頃であるが、多くの患者は他の原因による非典型肺炎に罹っていると考えられていた。したがって、その治療は隔離と感染制御の特別な注意が必要な特別な症例として治療されていた訳ではなかった。

結果として、厳格な感染制御対策は導入されていなかった。このような予防策が無かったために、多くの医療従事者、親類縁者、病院への訪問者がSARSウイルスに曝露し、その後SARSを発症した。

感染制御対策が導入された後は、ひとりの感染源となるSARS患者からの二次感染によって、新たに発生するSARS症例の数は著しく減少した。

存在する感染伝播の連鎖に関する調査を現時点で行なう際には、症例の検知がいつの時点で行なわれたか、そして患者管理の上でどの時点で感染制御の手法が守られなかったかを探す事が重要である。

中 国
北京にいるWHOの調査チームは本日、人民解放軍病院への立ち入りを許可された。特定の軍の病院におけるSARS症例の状況は、SARS集団発生の影響の大きさについて、多くの憶測を生んだ原因であった。WHOのチームは今のところ、そのような病院のひとつを訪問したところであるが、その他も早いうちに訪れることを望んでいる。

北京当局の決定は、中国が、本土におけるSARSの集団発生において協力を惜しまない喜ばしい姿勢を示唆するものである。昨日、中国の国家主席である胡錦濤氏は国内のテレビに出演し、SARSに関して大変心配していると述べている。

WHOの北京チームはこの中国におけるSARSの現状の予備調査を、明日にも終える事を予定している。増援された複数のWHOチームが明日にも中国の他の地域へ移動する予定である。

患者情報と感染が報告された国に関する最新報告
本日までに、22ヶ国から累積で3,235例の症例と154例の死亡例が報告されている。これは前日までと比べ、66症例と10死亡例の増加である。10例の死亡例のうち9例が香港特別行政区から報告されている。1死亡例はシンガポールから報告されている。


 
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