IDSC 緊急情報トップ >
 

 

4/15/2003

重症急性呼吸器症候群(SARS)−25


(仮訳)

WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(4月9日、更新第25報)


WHO中国チームの中間報告:各国における主なSARS集団発生の状況
中 国
WHOの専門家からなる調査チームは今朝(4月9日朝)北京で、中国保健省と呉儀(Wu Yi)副首相に対して、広東省におけるSARS集団発生の中間報告を行った。このチームは4月3日に広東での調査を開始していた。

WHOチームは、広東省の保健医療システムは集団発生に良く対応していると述べている。広東省はSARSの新規症例が出た場合に、あらゆるレベルのすべての病院から報告するシステムを持っている。従ってWHOはその報告の中で、広東省の病院を受診したほとんどすべてのSARS「可能性例」は診断され、迅速に報告されているとした。

しかしながらこのチームによって、地方での新しい集団発生を未然に防ぐために、農村部のサーベイランスの向上が急務である事が明らかにされた。さらにこのチームは、特定の伝播鎖との関連が明らかでない散発例の増加を懸念している。これは、接触者の追跡調査へ疑問を投げかけるものであるからである。

これに加え報告では、広東省の様にSARSに迅速かつ効果的に対応できるような保健医療システムが整っていない省における対策能力に対して、懸念が残っていることを指摘している。

たとえば北京では、SARSの症例を毎日報告してくる病院は少数にすぎない。患者接触者の追跡調査は北京におけるもう一つの問題点で、系統的に行われていない様である。注意深い接触者追跡調査が行われないと、この疾病を拡大することになる。

WHOチームは、中国の多くの貧しい省では、SARSに対処するための適切な財源も、施設も器具も無い事を見ており、広東省の対応力は、中国の全省の中でも例外的なものであったことを力説している。

広東省ではSARSの集団発生が、保健医療システムへ計り知れない重い負担を掛けた。広東省感染症病院(広州第八人民医院)では、2月の第2週中毎日、400床ある病床のうち150床がSARS患者で占められた。WHOチームは、保健医療システムの対応は模範的なものであり、医師や看護師、そしてクリニックや病院で働くその他の人々の献身と勇気は賞賛すべきものであると報告している。

病原体情報
訪れた研究施設には、SARSの「疑い例」と「可能性例」、患者の接触者、そして「健常対照群」からの検体を保存した大きな検体バンクがあり、検体も適切な条件下で保存されていた。これらの検体の個数や種類に関した詳細な情報があり、WHOチームへ提供された。これら検体を採取した患者本人の情報は限られているが、広東省疾病対策予防センターや病院などにあると思われる詳細な疫学、臨床情報と結びつけるためには十分である。

これらの検体バンクには、病原体検出を試みる事が可能な様々な種類の呼吸器からの検体と血清がある。この血清の多くは、急性期と回復期のペア血清(疾病の急性期に採取した最初の血清と、同じ患者の回復期に採取した二回目のもの)であり、血清中抗体の陽転を見ることができる。この研究施設の職員は、一旦SARSの起因病原体が特定されたら、これらのバンクに保管されている検体の検査を行うべきであり、非常に有用な情報が得られるとの考えられることに賛同した。しかし彼らは、すでにその時期が来ているのかどうか、つまり既に十分な証拠があるか、又膨大なバンクの検体を検査する労力に報いるような有効な検査方法が、他所で開発されたのかどうかに関しては、余り自信が無いようであった。彼らはWHOチームに、この件に関連したプライマーのシークエンスや他の情報と、免疫蛍光抗体法のような適切な検査方法の入手に関して援助を求めた。

主な提言
この中間報告は下記を含むいくつかの重要な提言をしている:

−広東省で実施されたSARS報告システムは非常にすばらしいモデルで、すべての省において追随するべきものである。WHOチームのメンバーは、すべての省が広東省の基準まで引き上げられるように、中国保健省が最優先事項としてこのシステムを全国的に導入することを確約したと話した。このサーベイランスシステムが一貫した基準を達成し、維持していることを確認して行くために、専門家による評価を通じて検討認証する計画も取り入れる事が考えられている。

−広東の経験に基づいて、医療機関内でのSARSの感染拡大防止のために、すべての省を通じて共通の基準を設立するべきである

−集団発生を制御下に収めるためには、SARS症例の注意深い接触者追跡調査が不可欠である。新規SARS症例への、訓練された問診者による詳細な聞き取りをルーチンとして行うべきである。これには、密接な接触のあった者に関して以外に、たとえば公共交通機関などのような、人混みでの曝露の可能性がある状況についても含まれる。患者との接触者には予防のための詳細な助言が、口頭と文書の双方で提供されるべきである。

−中国のウイルス研究所間のより良い連携が必要である。特に研究成果、検体、試薬の共有を促進する必要がある。以下の研究施設が、中国国内でのSARSに関する国内研究所ネットワークの中核となるべきである:

・北京
  中国疾病対策予防センター(China CDC)
  国立ウイルス研究所(National Institute of Virology)
・北京
  北京地方疾病対策予防センター(Beijing Provincial CDC)
  ウイルス・ユニット
・広州
  広東地方疾病対策予防センター(Guangdong Provincial CDC)
  ウイルス・ユニット
・広州
  中山大学ウイルス学教室(Zhongshan University)

他の地域でSARSの取り扱い経験のある研究所もこれに含まれるべきである。適切な財源と人的資産を早急に投入し、疾病の拡大防止に必須なSARSサーベイランス活動が適切に機能維持されるようにする必要がある。中国の研究所は国家的なSARS研究所ネットワークを国内に設立し、研究成果、検体、試薬の共有を迅速に行う事が必要である。

−広東の臨床家が世界中で最も多くの患者を診ており、彼らの経験は出版物や、会議、SARSの症例管理指針などの起草によって、国際社会と共有しなければならない。

優先的活動
SARSを制御するために報告の中で提言されている優先的活動には、以下のようなものが含まれる:

−症例の早期把握と早期治療
−病院およびクリニックにおける厳格な感染制御対策
−疑わしい症例の迅速報告
−コミュニティ内での詳細な調査と接触者追跡調査――国民意識の向上キャンペーンや疾病に関する知識の普及

香港:医療機関への過重負担
本日の累計で香港は970症例、27死亡例を報告しており、依然香港が中国に次ぐ最も大きなSARS集団発生を経験している。医療機関と医療従事者への負担は非常に大きく、更に強化した感染制御手法が必要であると思われる。

淘大花園(アモイ・ガーデン)のE棟に出されていた隔離命令は、4月9日の真夜中に切れる。香港保健省によると、ホリデーキャンプに仮住まいしていた住人たちは、食品環境衛生署による住居の消毒後に帰宅できる予定である。

シンガポール:「スーパー・スプレッダー」の役割
シンガポール総合病院での集団発生を受けて、当局は病院内での伝播を予防するための対策を強化した。これらの対策の中には、すべての勤務者に検温を義務化したり、面会者を制限したり、SARS「可能性例」すべてを隔離したりすることが含まれている。シンガポール総合病院の集団発生では、20人以上の疑わしい症状を呈した人々が出たが、ほとんどすべてが看護師と医師であった。このうち7例だけがSARSの「可能性例」と診断された。経時的な患者の発生曲線から、単一の曝露源が示唆された。この症例の集積群における発端者と考えられる医療従事者はおそらく、シンガポールで確認された第4番目の「スーパー・スプレッダー」であると考えられる。

「スーパー・スプレッダー」とは、今のところ原因は不明であるが、多くの人を感染させることになった原因症例のことである。SARSの伝播形式は完全には解らないままであるが、このような「スーパー・スプレッダー」がSARS集団発生を世界中へ広げるのに一役買ったことを示す証拠がある。

最近まで、シンガポールで発生した症例はすべて、感染源との疫学的な繋がりが明らかに認められた。より最近の症例について、同様の関連を確立して行くために今、さらに調査が必要となっている。このような症例間の関連が確認されれば、伝播は症状が有り、通常非常に重症な人からだけ起こることを示していることになる。この仮説は、引き続き医療従事者がSARSと診断される主な集団であると言う観察結果によって支えられている。今日まで、シンガポールにおけるSARS集団発生の調査では、患者と直接且つ密接に接触する家族以外の地域にまで広がる徴候はほとんど見られていない。しかしながら、これらの見解は曝露に関する限られた情報に基づいている。

ベトナム:無症状者からの伝播は否定
ベトナムは現在累積で62症例の報告をしている。このうち4例は、連続して数日間58例の報告数のまま変化がなかった後の、最近数日の間に報告されている。報告症例数が安定していたことで、ハノイのフレンチ・ホスピタルの集団発生が収束したかのような希望を抱かせた。しかしながら、3月31日に59番目の症例が報告された。

この男性患者は、ベトナムでの発端者と同じ時期にフレンチ・ホスピタルに入院中であった娘に接触していた。接触は娘が退院後に通院中も続いた。娘と共にハノイ・フレンチ・ホスピタルを受診した配偶者も微熱の症状があったが、当時診断を受けることなく自然緩解している。彼が軽症のSARSに罹患していて、義父(59例目の症例)が感染したのではないかと推測される。これが真実であるとして、WHOの疫学者たちは無症状者からの伝播は起こらないと言う見方を変えていない。また、この症例が現在推定されているより長い潜伏期(潜伏期は2~7日、まれに最長で10日)の可能性を示したとも考えていない。配偶者からは、検査のため血液が採取されている。60番目の症例は、この59番目の患者がハノイから1時間半の州立病院に居た間に、彼を診た医師である。61番目と62番目は共に若い女性で、59番目の男性に手厚い看護を提供した、(大きな意味で世帯を同じくする)遠縁の人たちであった。

WHOは引き続き保健省と共に症例の接触者の追跡調査を続けている。59番目の症例につながる新しい患者がさらに数人発生することが予想される。接触者の注意深い経過観察が続いている。

報告された62症例のうち、44例がすでに退院しており、4例は死亡、そして14例が依然入院中である。入院患者のうちひとりは、わずかに回復の兆しが見られるがまだ危篤状態であるが、それ以外の入院患者は回復しつつある。

カナダ:「可能性例」1例が新たに報告
ヘルス・カナダは累積で94例の「可能性例」と10例の死亡例を報告している。オンタリオ州は91例の「可能性例」を報告している。すべての症例は、アジアへ旅行したか、家庭内あるいは医療機関でSARS症例と接触した人の中から出ている。残りの「可能性例」はブリティッシュ・コロンビア州(3)からである。

患者情報と感染が報告された国に関する最新報告
本日までに、16ヶ国から累積で2,722例の症例と106例の死亡例が報告されている。これは昨日に比べ、51症例と3死亡例の増加である。

新規症例はカナダから3例、中国1例、香港42例、シンガポール5例と米国から1例が報告されている。オーストラリアから報告された1例は一覧から除かれた。死亡例は香港 から2例とシンガポールから1例が報告されている。


 
  IDSCホームページへ